人材ポートフォリオは、人的資本経営の効果的なマネジメント手法として、現在注目を集めています。
本記事では、人材ポートフォリオの定義や有用性、注目されている背景と企業が得られるメリットを詳しく解説します。人材ポートフォリオを作成する際の手順や分析方法、作成時の注意点も紹介するので、人材ポートフォリオの導入を検討する際の参考にしてください。
人材ポートフォリオとは
人材ポートフォリオとは、企業にとって必要な人材のタイプやタイプごとの人員数を分析し、整理したものです。人材ポートフォリオの定義と詳しい内容、中小企業における有用性を解説します。
人材ポートフォリオの定義
人材ポートフォリオとは、企業が人材開発や人材配置などを行う際の手助けとなる、人材に関する情報をまとめたものです。企業内の「どこに」「どのような」タイプの人材が「どのくらい」いるか、あるいは必要となるかなどを分析し、整理した情報とも言えます。
人材ポートフォリオでの人材に関する情報の詳細は次のとおりです。
- どこに:配属先、役職、ポジションなど
- どのような:職種、能力、スキル、経験、仕事への姿勢や志向タイプ、得意分野、実績など
- どのくらい:人数、社歴、配属年数
自社における人材の状況を詳しく把握して分析できていれば、適材適所への人材配置が実現できます。そのため、人材ポートフォリオの作成・活用は、有効な人事マネジメント手法として注目を集めています。
また、経営戦略に基づいた企業目標の達成や、採用と人材育成を含めた中・長期的な人材マネジメントを戦略的に行うためにも、人材ポートフォリオは欠かせないものとなるでしょう。
中小企業における人材ポートフォリオの有用性
人材ポートフォリオは、多くの従業員を抱えている大企業が行う手法だと考えられることもありますが、企業規模がどの程度であっても人材ポートフォリオの有用性は変わりません。
従業員が少ない企業ほど、人材ポートフォリオを活用すれば「どの部署にどのようなタイプの人材がどれだけ必要か」を詳細に検討できるため、人材の過不足を正確にマネジメントできるでしょう。
大企業だけでなく中小企業も人材ポートフォリオを活用すれば、より精度の高い適材適所への人員配置と戦略的な人材マネジメントを実現できる可能性が高まります。
人材ポートフォリオが注目されている背景
人材ポートフォリオが注目されている背景には、大きく分けて次の2点があります。
- 労働人口の縮小
- 労働環境におけるニーズの変化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
労働人口の縮小
深刻な社会問題である少子高齢化により労働人口が減少し、今後はますます働き手が足りなくなる恐れがあります。すでに企業は人材確保が急務となっているでしょう。
このような状況においては、無駄がない人材配置を行うことが必要不可欠です。限られた人材を適材適所に効率良く配置するためには、どこにどのような人材がいるのかを明確に把握できる人材ポートフォリオが役立ちます。
自社の人材状況が把握できていれば、企業として注力すべき部門へ、必要な人材を効果的に配置できるでしょう。
労働環境におけるニーズの変化
働き方改革によって、現在は多様な雇用形態や働き方が増えてきています。時短勤務やフレックス制度、リモート勤務、産休・育休取得や自由な働き方ができる雇用形態など、さまざまな働き方への対応が企業に求められるようになりました。
人材ポートフォリオを活用すれば、働き方の多様化にも柔軟に対応できる人事体制を構築できます。人材ポートフォリオには従業員それぞれが望む働き方の情報もまとめられるため、一人ひとりが力を発揮できる環境を整えやすくなります。
人材ポートフォリオが企業にもたらすメリット
人材ポートフォリオが企業にもたらすメリットは次のとおりです。
- 適切な人材配置が可能になる
- 従業員それぞれに適したキャリアパス形成が可能になる
- 人員・人件費の不足と余剰が確認できる
それぞれのメリットを詳しく解説します。
適切な人材配置が可能になる
人材ポートフォリオの活用によって、部署ごとへの人材配置のミスマッチが減らせます。配置する部署や業務のミスマッチは従業員のパフォーマンスを下げ、離職につながるケースもあるため、避けるべき問題です。
人材ポートフォリオで人材の特性やスキル、得意分野、仕事への姿勢や志向などを把握していれば、部署ごとの実情や業務の内容に合わせて、適切な人材を配置できるでしょう。
従業員がそれぞれの能力や特性に合った配属先で適切に能力を発揮できれば、生産性の向上や従業員定着率の向上も期待できます。生産性が高まり、優秀な従業員が定着すれば、中・長期的な企業の業績向上にもつながるでしょう。
従業員それぞれに適したキャリアパス形成が可能になる
価値観が異なる従業員それぞれに適したキャリア支援が可能になることも、人材ポートフォリオ活用のメリットです。キャリアパスとは、仕事における最終的な目標を定め、その目標に向かって進んで行くことです。
従業員一人ひとりの特性や強み、保有スキルや経験、仕事への姿勢や志向を把握しておくと、それぞれの従業員に適した提案が可能となり、キャリアパスの実現にも役立ちます。
また、従業員のキャリアパスを把握しておくことで、将来、人材配置に影響が出そうな部署がわかり、採用計画が立てやすくなるでしょう。
人員・人件費の不足と余剰が確認できる
人材ポートフォリオによって人員や人件費が不足している部署や、余っている部署が確認できます。人材に関する現状が明確に可視化されるため、それぞれの部署に適した人員や人件費を充てられます。
加えて、足りない人材がいれば異動や採用を検討し、教育やサポート体制を整えることによってカバーするなど、対応ができるでしょう。
人員補充や教育・サポート体制を整える際にも、現在の人材状況が明確に把握できていれば「足りない分だけ」の補充やサポートを考えれば良いため、不必要な人件費を発生させずに済みます。不必要な人件費を各所でおさえられれば、企業全体の人材に関するコスト削減にもつながるでしょう。
人材ポートフォリオの作り方
人材ポートフォリオの具体的な作り方を解説します。作成時の流れは次のとおりです。
- 導入目的をはっきりさせる
- 必要な人材をタイプごとに分ける
- 従業員をタイプごとに分ける
- 理想とのギャップを確認する
- 理想に近づけるための解決策を考え実行する
それぞれの手順を詳しく見ていきましょう。
1.導入目的をはっきりさせる
まずは導入目的を明確にしましょう。何を向上させるために人材ポートフォリオを導入するのか、なぜ必要なのか、目的をはっきりと明文化してから作成を開始します。導入目的によって、人事マネジメントの方向性や指標などが変わってくる可能性があるためです。
企業が実現したい事業計画や方向性を踏まえ、人材ポートフォリオをどのようなシーンで活用したいのかを明確にし、経営陣と合意をとりながら進めていきましょう。
2.必要な人材をタイプごとに分ける
次に、自社にとって必要な人材はどのような人材なのかを洗い出し、タイプごとに分類します。たとえば分類には次のようなものがあげられます。
- 定型業務職:オペレーション人材
- 経営幹部候補:マネジメント人材
- 専門職:エキスパート人材
- 経営参謀:オフィサー人材
このように必要な人材をタイプごとに分け、どのようなタイプの人材がどのくらい必要なのかを把握しましょう。雇用形態や職種によって分けることも必要です。たとえば次のような分類の仕方があります。
【雇用形態】
- 常時雇用
- 臨時雇用 など
【職種】
- 総合職
- 営業職
- 専門職 など
これらのなかでも、「季節性の臨時アルバイト」や「定型業務を行う常時雇用アルバイト」、「幹部候補の総合職」や「転勤でキャリアアップ可能な総合職」、「エリア限定の営業職」「転勤で全国展開に対応できる営業職」など、細かく分類わけするとよいでしょう。
3.従業員をタイプごとに分ける
必要な人材をタイプごとに分けたら、それぞれの人材タイプに対して、現在在籍している従業員全員を当てはまるところに振り分けていきます。
従業員を振り分ける際は、人事担当者の主観や感覚で振り分けることがないよう、従業員の保有スキルや経験、実績などを参考にするのがおすすめです。
人事評価では従業員が納得するためのデータを用意する事が望ましいと言えます。性格や仕事に対する姿勢や志向といった定性的な情報で納得感のある分類をすることは難しいため、能力や適性を判断する際にはSPIなどの適性検査を活用して分類するとよいでしょう。
4.理想とのギャップを確認する
必要な人材をタイプ分けして全従業員を振り分けたら、「どこにどのような人材が充足していて、どのような人材が少なすぎるのか」を確認します。
たとえば「総合職が余剰で、専門職が不足している」「オペレーション人材が多すぎることに対し、管理監督するマネジメント人材が少ない」といった現状分析と理想の状態への過不足を明確にします。
「現状ではマネジメント人材が足りているが、年齢層が高いため数年後には不足する可能性がある」「加えて、数年後にマネジメント職候補となる人材が少ない」など、中・長期的な視点で考えた場合の理想の状態に対して、現状の問題点も洗い出しておくとよいでしょう。
5.理想に近づけるための解決策を考え実行する
最後に、理想の状態を実現するためには何が必要なのかを考えます。人員の余剰と不足を解決するための施策を検討し、実行に移しましょう。
配置転換や採用、または人材育成などによって、タイプごとの人材の数が均等になるよう理想の状態に近づけます。具体的には次のような手法があげられます。
- 採用:新卒採用、中途採用、アルバイト採用、派遣従業員活用など
- 人材育成:研修、目標管理、人事評価など
- 配置転換:部署異動、出向、転勤など
このほかにも、自然退職や解雇として早期離職の推奨や役職の定年制度導入なども考えられます。ただし自然退職や解雇による人員調整は難しいため、まずは求める人材を確保するという点で、採用活動や人材育成に力を入れることが重要と言えるでしょう。
人材ポートフォリオを導入する際の注意点
人材ポートフォリオ導入時の注意点は次のとおりです。
- 一部の従業員だけを対象としない
- 従業員に優劣をつけない
- 従業員の希望・意見を無視しない
それぞれの注意点を詳しく解説します。
一部の従業員だけを対象としない
人材ポートフォリオを作成する際は、すべての雇用形態・部署を対象とし、すべての従業員に実施します。
正規雇用者のみを対象として、非正規雇用は外すといったやり方では、対象外となった従業員に不信感を抱かせてしまいます。また、企業全体の状況把握ができず、課題解決に向かうことは難しいでしょう。
企業全体が一体となってすべての従業員のタイプを把握し、人材ポートフォリオを作成することで、従業員のモチベーションや帰属意識を高めるきっかけにもなり得ます。
従業員に優劣をつけない
人材ポートフォリオは従業員の能力を適材適所で活用することを目指すものであり、従業員に優劣をつけるためのものではありません。
優劣をつけてしまうと、従業員に不信感や反感を抱かせることになるかもしれません。また、評価されやすい人材が目立ち、従業員それぞれの能力を適切に判断できない可能性もあります。
従業員の希望・意見を無視しない
人材ポートフォリオは企業と従業員の認識のズレを直すためのものでもあるため、従業員の意見も取り入れて作成することが必要です。
いくら人材ポートフォリオのデータに基づいて人員配置を行ったとしても、従業員の希望を無視して強引な配置転換をすれば、モチベーションや生産性が低下し、離職につながる可能性もあります。
そのため、定期的に従業員へのヒアリングを実施して、従業員の要望や意向を踏まえた上で人材ポートフォリオを用いた人事マネジメントを進めていくことが大切です。
人材ポートフォリオでより正確な人材マネジメントを実現しよう
人材ポートフォリオは、労働力不足が懸念され働き方が多様化する現在、人的資本情報を整理することで効果的な人材マネジメントが行える手法です。
限られた人材を効果的に配置できるだけでなく、能力や適性に合わせた配置やそれぞれに適したキャリアパス形成に寄与するため、従業員のモチベーションやエンゲージメント、生産性の向上にも役立ちます。
従業員それぞれが適した場所で能力を発揮することによって、企業の中・長期的な業績向上も期待できます。人材ポートフォリオを活用して人的資本経営の在り方を考え、さらなる企業の成長を目指しましょう。
就職・転職・採用を筆頭に、調査データ、コラムをはじめとした担当者の「知りたい」「わからない」にお応えする、株式会社学情が運営するオウンドメディアです。