学生のキャリア教育支援に取り組む企業が増えています。キャリア教育支援は採用活動において、学生だけでなく企業にとっても有利になると言われており、今後も重要性は高まっていくと考えられます。しかし、具体的にどのようなキャリア教育支援が効果的なのか、わからない方もいるのではないでしょうか。
本記事では、キャリア教育の定義やキャリア教育が必要とされている理由からわかりやすく解説します。企業が実践するキャリア教育支援の具体例や、得られるメリットも併せて知れば、自社で実施しやすくなるはずです。キャリア教育について詳しく知りたい人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
キャリア教育とは
まず、キャリア教育の定義を解説します。キャリア教育と職業教育の違い、キャリア教育で育成したい能力についても詳しく紹介します。
キャリア教育の定義
文部科学省はキャリア教育について「キャリア教育は、一人ひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育である」と定義しています。
つまり、キャリア教育とは学生が自身の進路を主体的に選択、決定するために必要な教育です。現代は社会構造の変化により、受動的ではなく、主体的に自分らしく生きていける人材の育成が求められています。学生はキャリア教育を受けることで、社会に出て自立するための能力を身に付けられます。
一人ひとりが社会的自立や職業的自立を実現するために必要な考え方や能力を育てるのが、キャリア教育の大きな目的です。また、キャリア教育は、優秀な人材を育てることにもつながるため、企業側にもメリットがあります。
※参考:文部科学省「キャリア教育」
キャリア教育と職業教育との違い
人事担当者のなかにはキャリア教育ではなく、職業教育という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。文部科学省の資料によると、キャリア教育と職業教育の違いは次のとおりです。
育成する力 |
教育活動 |
|
キャリア教育 |
一人ひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度 |
普通教育、専門教育を問わずさまざまな教育活動のなかで実施される。職業教育も含まれる |
職業教育 |
一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度 |
具体的な職業に関する教育を通して行われる。この教育は、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育成する上でも、極めて有効である |
職業教育が企業で働く人材として具体的な能力を育むのに対して、キャリア教育は社会人としての意識や知識も含めたより広意義な教育を目指しています。
キャリア教育で育成したい能力
企業はキャリア教育を通して、学生の能力の育成を図ることができます。ここからは、キャリア教育で育成したい能力を具体的に紹介します。
基礎力・汎用的能力
「基礎的・汎用的能力」とは、中央教育審議会によって社会的・職業的自立に必要な要素と規定された能力です。「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つの能力から成り立ちます。
それぞれの能力の特徴は、次の表のとおりです。
要素 |
特徴 |
人間関係形成・社会形成能力 |
さまざまな人とコミュニケーションを適切に取れる能力。他者の個性を理解して協力し合い、物事を達成する力の習得を目指す |
自己理解・自己管理能力 |
自分の可能性を認め、できることやしたいことなどを考え、行動する能力 |
課題対応能力 |
さまざまな課題を発見・分析し、計画を立てて解決する能力 |
キャリアプランニング能力 |
働くことの意義を理解し、多様な生き方に関するさまざまな情報を活用しながら、自らが主体的にキャリアを形成していく能力 |
4つの基礎力・汎用的能力は、相互に関係し合う能力であり、学生のキャリア発達の基盤となる重要な能力です。
社会人基礎力
経済産業省は、職場や地域社会で仕事をしていくために「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」から構成される社会人基礎力が必要であると示しています。それぞれの要素と内容は次の表のとおりです。
要素 |
内容 |
前に踏み出す力 |
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考え抜く力 |
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チームで働く力 |
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キャリア教育支援にて学生の社会人基礎力が養えると、社会で活躍し続けられる人材を育成できます。社会人基礎力が身についていると、学生は自らの能力を発揮できるようになり、主体性を持って組織や社会と関われるようになるためです。
また、学生が自らキャリアを切りひらいていく視点を持つきっかけにもなるでしょう。
現代においてキャリア教育が必要とされる背景
ここからは、なぜ現代においてキャリア教育が必要とされているのかの背景を解説します。
グローバル化やIT化による社会変革
グローバル化やIT技術の拡大によって、キャリア教育の重要性が高まっています。これから企業で働く若手人材には、社会構造の変化に対応できる知識・素質・技能などが求められるためです。グローバル化やIT化、価値観の多様化などが進むなか、自分で物事を選択して、主体的な生き方ができる資質を育む必要があります。
企業でキャリア教育を実施し、社会で必要とされる知識や技能を早期に身に付けてもらえば、対応力の高い人材を育成できます。
若年層の社会人としての自立の遅れ
近年は若年層の社会人としての資質や素養が育ちにくくなっています。若年層の社会人としての自立が遅れている原因として考えられるのは、日本の社会環境が大きく変化したことです。集団での関わり合いや地域コミュニティの希薄化などの影響により、他者と関わりながら成長する機会が少なくなりました。
社会の変化に伴って、自己肯定感が低い、自分で意思決定できない、人間関係を上手く構築できない若年層も見られるようになりました。自分の可能性を信じることが難しく、能動的に社会へ参画する意識を持ちにくくなっているため、キャリア教育により「基礎力・汎用的能力」を育むことが必要とされています。
雇用形態の多様化・流動化
若年層の労働人口減少や「働き方改革」の影響で人材の流動化・多様化が進んでおり、自主的にキャリア形成できる人材の需要が高まっているのもキャリア教育が求められている理由です。
従来の雇用では、新卒一括採用からの終身雇用や年功序列など企業主導型のキャリア形成が一般的でした。しかし、現代では年齢にとらわれない働き方や副業・兼業の推進、中途採用の増加などが進み、企業主導型のキャリア形成では対応しきれなくなってきています。
新しい働き方や価値観に対応するためにも、企業主導ではなく自立的なキャリア形成のための支援が必要です。
キャリア教育支援で得られる企業側のメリット
キャリア教育支援の実施は、学生だけではなく企業側にもメリットがあります。おもなメリットは次のとおりです。
早い段階での自社の認知度向上
キャリア教育を実施すれば、社会貢献企業としての認知度や知名度の向上が期待できます。他社よりも早い段階で自社を認知させられるため、採用活動を有利に進められます。企業の認知度は、学生が就職先を選ぶ際の重要な判断基準の一つです。自社の認知度が上がることで、高いスキルを持つ人材を他社より早く採用できる確率が高まります。
また、自社が提供しているサービスや商品の、認知度と知名度向上も期待できます。認知度が高まれば見込み客から顧客やファンが生まれ、売上につながるのもメリットと言えるでしょう。
ブランドイメージの向上
キャリア教育支援の取り組みにより、自社のブランドイメージ向上を図れます。キャリア教育に理解が深く、前向きに取り組む体制が整っている企業として、企業価値を高められるでしょう。
たとえば企業価値が高まる具体的な事例として、経済産業省による「キャリア表彰アワード」があります。キャリア教育への優れた取り組みが認められた企業に対する表彰制度で、2010年度より実施されています。
最も優秀と認められる取り組みを行った企業や団体には、経済産業大臣賞が授与されます。キャリア表彰アワードで表彰されれば、より一層、ブランドイメージをアップできるでしょう。
社員のモチベーション向上
学生の教育支援は時間や手間がかかるぶん、社内の人材活性化も期待できます。社員が学生と交流し、働く意義を教えることで、社員自身もあらためて仕事への理解を深められるからです。
社員にとっては自社の業務や歴史、エピソードなどを見直す過程が、自社に対する誇りを高めることにもつながります。愛社精神をより強く持った結果、社員のモチベーションアップも期待できるでしょう。
キャリア教育支援で行う取り組みの具体例
続いて、企業が導入しているキャリア教育支援の具体例を紹介します。ぜひ、自社でキャリア教育支援を実施する際の参考にしてください。
社内見学・職場体験の受入れ
社内見学や職場体験は、多くの企業が実施しているキャリア教育の取り組みです。社内の様子や作業現場の見学、実際の作業工程の一部を体験させることで、働く意義の理解を促せます。また、自社の技術や技能へ関心を持ってもらうきっかけにもなるでしょう。
社内見学や職場体験は、学生自身にとっても将来、企業で働く自分を鮮明にイメージするのに役立ちます。実際の職場を体験することで、学ぶ必要性や主体的に進路を決めようとする意欲を学生に持ってもらえるでしょう。
ただし、社内見学や職場体験は自社の社員に負担がかかる方法でもあります。社員の不満につながらないよう、事前に社員へ十分な説明を行い、キャリア教育支援の必要性を理解してもらうのが大切です。また、実施する際は、通常業務に影響が出ないよう、あらかじめ計画や段取りを組んだ上で行いましょう。
社員を社会人講師として学校へ派遣
経験豊富な社員を講師として、学校に派遣するキャリア教育の方法もあります。社員は自らの経験から、仕事の面白さや働くことの意義、学ぶことの大切さなどを学生に伝えます。
講演の内容は講師個人だけで決めるのではなく、事前に社内で検討して決めましょう。学習指導要領との兼ね合いによっては担当の教員との相談も必要になります。
講演をする際は写真や映像など視覚的な資料を用いると、学生の興味や理解度をより深められます。スクリーンやプロジェクターなど会場の備品を使用したい場合は、事前に連絡をして段取りを組んでおきましょう。
社会人講師の派遣は、学生の仕事に対する意識を育む上でも効果的な取り組みです。講演のテーマは十分に精査し、学生のキャリア教育に役立てましょう。
自社の取り組みを伝える教材を提供
社会的問題や課題を知り解決方法を考えるための教材を、無償で学習の場へ提供します。自社が行っている取り組みの社会的意義について理解を深めてもらうのが狙いです。
教材の提供により、学生の理解度や興味を効果的に高められます。教材やプログラムの提供を通して、自社のプロジェクトへの興味、思考力の強化などを促すことも可能です。
学習現場でワークショップを開催
学習現場でワークショップを開催します。学生に対して問題や課題を提示し、解決に向けて話し合いや作業、結果発表までをしてもらいます。他者と協力してコミュニケーションを図りながら、ものづくりや問題解決のやりがいを感じてもらうことが狙いです。
学生はワークショップへの参加により、労働への興味や関心を高められます。話を聞くだけでは得られない当事者意識と達成感も得られるでしょう。
企業側の立場から考えると、ワークショップは、学生に対して自社が提供しているサービスや商品への興味や親近感を持ってもらう絶好の機会です。より理解を深めてもらうため、企業側の参加者は一般社員だけではなく、経営層が参加する場合もあります。
学生の主体性を育成するためにもキャリア教育に取り組もう
キャリア教育は社会的・職業的自立に向けて、学生のキャリア発達を促す教育です。社会構造の変化や雇用形態の多様化、若年層の自立の遅れなどから、キャリア教育の必要性が高まっています。
キャリア教育では「基礎的・汎用的能力」や「社会人基礎力」など、学生が社会で活躍し続けられる能力を育成できます。他者とのコミュニケーションをとおして問題解決を目指せる人材が増え、社会の変化にも柔軟に対応しやすくなるでしょう。
キャリア教育支援の実施は、自社の認知やブランドイメージの向上、社員のモチベーションアップなど企業側にもメリットがあります。企業はキャリア教育の取り組みに対して積極的に協力し、社員の活性化や自社の認知度アップを狙いましょう。
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