HRテックとは?人事が理解しておきたい導入メリットと活用方法を解説
2023.10.04
在宅勤務対応や働き方改革など、急激な時代の変化に合わせ、人事業務の複雑化や多様化が進んでいます。少子高齢化で労働力人口が減少するなか、優秀な人材の確保・定着も重要な課題です。
HRテックとは、人事部門のさまざまな課題解決や業務改善に役立つ、IT技術を生かしたシステムやツールを指します。採用プロセスの効率化や従業員のエンゲージメント向上など、人事領域の改革を目指す際に役立ちます。
本記事では、HRテックの意味や関連する技術の基礎知識、導入手順などを解説します。HRテックで業務の効率化を目指したいという際は、ぜひ参考にしてください。
HRテックとは
HRテック(エイチアールテック)とは、IT技術を活用し、従来の人材管理のさまざまな業務を効率化する仕組みや技術全般を意味する言葉です。HRテックという言葉自体は造語で、Human Resources(人材、人事)とTechnology(技術)の2つを組み合わせた用語です。
たとえば、次のような業務を支援するサービスやツールがあります。
- 求人と応募者の管理
- 採用候補者の選出
- 採用活動にかかるWebサイトや求人情報の作成
- 社員のスキル獲得や学習機会支援
- 組織全体や部署ごとの人材データ管理
- 給与計算や勤怠管理
- 社会保険の管理・手続き
人事領域の業務効率化だけでなく、適切な採用や人材育成、企業が持つ問題の解決手段として注目が集まり、近年では多様なサービスが誕生しています。
HRテックを導入するメリット
HRテックを導入することで、次の4つのメリットが期待できます。
HR業務を効率化できる
給与計算や勤怠管理など、HR業務にはルーチンワークとなる業務も多いです。HRテックには、ルーチンワークを効率化・自動化するサービスも多くあります。
単純な業務をHRテックに任せることで、業務の手間や工数を削減できます。また、業務が自動化されることで、手作業では起こり得る「打ち間違い」のようなミスも防止できます。
そのほか、人事に関する膨大なデータを一元管理できるようになれば、社員一人ひとりの属性や異動歴、人事評価などを瞬時に把握できます。人事評価の書類を探し出して手渡す、といったやり取りが省かれるほか、管理にかかる手間も省くことができ、業務効率化を目指せるでしょう。
採用チャネルの拡大につながる
近年、求職活動においてSNSを活用して企業選びを行う人も増えています。自社を認知してもらう手段として、SNSは有用な手段と言えるでしょう。
今までと違った採用手段を採ることで、それまでカバーできていなかった新しい求職者層へのアプローチも期待できます。
たとえば、動画を活用した情報発信を行う企業もあります。株式会社学情による「2025年卒学生の就職意識調査(応募前の動画視聴) 2023年6月版」によれば、動画を視聴して企業への関心が高まったと回答した学生は、全体の7割に迫るという結果が報告されています。
求職者の目に触れやすいSNSを活用した採用活動は、企業の魅力や社風などを伝えるのに効果的です。動画や求人情報を見た学生がほかの学生へシェアすれば、自然な形で情報が広まる効果も期待できます。
幅広い層への求人情報の発信で、優秀な人材を獲得できる可能性が高まるでしょう。
採用ミスマッチのリスクを軽減できる
HRテックは、採用ミスマッチのリスク軽減という役目も果たします。応募者の提出する書類や適性試験の結果からデータを抽出する業務を自動化し、採用そのものに向き合う時間を確保しやすくなるためです。
自社で活躍する社員のスキルや特性といったデータと比較することで、応募者の絞り込みも容易になります。
採用ミスマッチは、企業にとって課題の一つです。厚生労働省の公表によると、新卒の就職後3年以内の離職率は、高校卒業後の場合は36.9%、大学卒業後で31.2%と報告されています。
※出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況を公表します」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00004.html)
採用ミスマッチのリスクの軽減は、長期的な人材・組織開発にもつながります。
客観的な評価によるマネジメントが可能になる
HRテックは人材評価にも活用できます。従来は社員のスキルや日々の業務への取り組みなど、人材評価の情報を集めるには、聞き取りや手入力の整理が求められました。HRテックを通じて情報が自動的に集約されれば、AIによる分析を通じ、客観的な視点での評価を元にした適切なマネジメントが可能となります。
たとえば、在宅勤務は労働状況が把握しづらく、過労の見過ごしが生じるかもしれません。クラウド上で労働時間を管理するHRテックを活用することで、労務リスクを減らしつつ、働く場所に左右されない労務管理につながります。
また、社員の配置転換ではスキルや資格のみならず、日頃の業務への取り組みや性格なども考慮の対象です。データベース上で情報を可視化できれば、主観的な評価の偏りやバイアスを排除し、公平な評価が可能となります。
さらに、データ分析を通じて社員のスキルや能力の不足が特定できれば、必要な研修の手配なども可能です。
HRテックの分野で使われるおもな技術
ここではHRテックの分野で使われるおもな技術の基礎知識を解説します。
ビッグデータ
人力や従来のデータベース管理システムでは全体を把握できないほど、巨大で多様性に富むデータ群のことです。データ量は数テラバイトから数ペタバイトとされ、HRテックにおけるAIが人事データの分析や退職予測を行うための根拠となります。
たとえば、これまで採用した社員の営業成績の傾向やアンケート調査もビッグデータです。データといっても数値で分析できるとは限らず、動画や音声といった多種多様な形式を持つデータを扱います。
AI
AI(人工知能)は、ビッグデータの分析や解析において活用される技術です。
たとえば、自社ですでに活躍している人材がもつ特徴やスキルを元に、将来の活躍を見込める求職者のエントリーシートだけを取り分ける技術が開発されています。採用活動においてミスマッチを防ぎ、意思決定の精度を高めるといった活用が可能です。
また、人間は思い込みや感情により、客観的な判断や事前の取り決めに基づいた対応が求められる場面でも、基準通りの判断を行えないケースがあります。AIなら、一度決めた基準からブレのない判断ができるため、客観的かつ適切な判断の支援が可能です。
ChatGPT
企業内での活用として、コミュニケーションツールとChatGPTの組み合わせが期待されています。コミュニケーションツールに入力されたデータを元に、異なる部署同士がアイディアを共有したり、上司への確認をスムーズに行ったりと、イノベーションにつながる可能性があるからです。
問い合わせ対応に活用した場合、複数の従業員から同じ質問を繰り返し受けたとしても、一貫性のある返答が可能です。
また、ChatGPTは人と話すように質問のやり取りができ、状況や相手に応じてトーンやスタイルを調整できます。個別のニーズに応じたコミュニケーションを可能にするため、従業員同士だけでなく、採用担当者と応募者といった異なる立場とのやり取りにも有用です。
チャットボット
AI型チャットボットとは、入力された特定のキーワードや質問に対し、あらかじめ設定された回答を自動で返答するシステムです。サポートセンターなど、質問事項がある程度決まっているサービスで活用されています。社員からの問い合わせでよくある質問をチャットボットに登録しておき、実際に問い合わせが来た際は自動で返答してもらうという使い方もあります。
また、チャットボットを社内システムと連携することで、社内における決まりやデータを元にした回答に特化できることも強みです。
クラウド
利用者が、ソフトウェアやサーバーを持っていなかったとしても、インターネットを通じて必要なサービスを必要なときに利用できる仕組みのことです。
新たなサーバーやシステムの導入をおこなわずにサービスを利用できるため、コスト面でもメリットがあります。
サービス事業者が提供する範囲によって、次の3つの種類に分類されます。
種類 | 概要 |
SaaS |
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PaaS |
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IaaS |
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RPA
RPAとは、Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)を略した言葉です。具体的には、RPAツールというソフトウェアを通じ、すでに決まった手順をシステムとして代行してもらいます。仮想知的労働者とも呼ばれる技術です。
たとえば、給与計算などデータをまとめて登録する、数値が正確か確認するといった要素を含む事務作業が対象となります。業務上、何度も手作業で入力を繰り返すといった、ルーチンワーク業務の効率化が可能です。
誤りがあればツール上で1度修正するだけで次のミスが起きないのもメリットです。
SNS
SNSはソーシャルネットワークサービスの略称です。身近なものとして、X(旧Twitter)やFacebook、LINEなどがあげられます。
ビジネスに特化したSNSには、Chatworkなどがあげられます。メリットは次の5つです。
- メッセージやファイルの送受信がすぐ行えるため、欲しい情報がすぐ手に入る・送れる
- 社員同士の情報共有や連絡事項伝達が迅速に行える
- お互いの業務成果や活躍を報告しモチベーションを高められる
- SNSを通じ経営陣やマネージャーがビジョンや方針を社員に直接伝えられる
- 社員同士が関心事を共有する場として社内コミュニティの形成に役立つ
これらの機能を活用することで、社員のコミュニケーションを促進しつつ、業務効率を高められます。
モバイル端末
場所を問わずインターネットに接続でき、持ち運べる端末のことです。スマートフォンやノートパソコン、タブレットなどがあげられます。近年は、SNSの発信や閲覧だけでなく、モバイル端末を活用したWeb面接を行う企業も増えてきています。
また、勤怠管理システムなど、モバイル端末でも使いやすいHRテックのサービスが開発されています。
ピープルアナリティクス
HRアナリティクスやタレントアナリティクスとも呼ばれる、人材の分析手法の一つです。社員の持つ多様なデータを収集・分析し、採用や配属、教育に関わる決定や問題解決、施策の実行に活かします。
ピープルアナリティクスに活かすデータは、次の3つです。
- 社員の年齢や性別などの「属性」
- 社員のメールや電話履歴や会議時間などの「行動」
- 社員が使う会議室などの「オフィス」
データの蓄積が進むと、より個々人のパフォーマンスを高めやすくなります。たとえば本人の行動や属性に合う部署に配属したり、適切な研修を受けさせたりできるためです。
また、客観的なデータを元に、丁寧なフィードバックや最終的なジャッジを人間が行うことで、より人事評価に説得力を持たせられます。
メタバース
メタバースとは、多人数が同時にアクセスし、自由に行動できる仮想空間のことです。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった技術が活用され、自身の分身となるアバターを操作した交流やコミュニケーションができます。
仮想空間は自由に音響やデザインを設定できます。自社のオフィスをデザインに、実際の社員の働く声を音響に使い、採用活動専門のバーチャルオフィスを作ることも可能です。求職者はバーチャルオフィスを自由に動きながら、オフィスの雰囲気をよりリアルに感じ、採用された後の様子を具体的にイメージできます。
また、研修とメタバースの技術の組み合わせは、オンライン上でも臨場感のあるコミュニケーションを実現します。たとえば現場のイメージを仮想空間に作ることで、現場で起きうるさまざまなシチュエーションへの対応を、全国各地の新入社員へ同時に学んでもらうこともできます。
そしてメンタル面のサポートにも役立ちます。アバターという自身の分身を通じて人と話すため、生身では難しい自己表現が可能になるケースも多いためです。言いにくい悩みをアバターからなら伝えられる、といった効果が期待されます。
学情の「メタバース空間」を活用した採用活動サービス
学情でもメタバース空間を利用した採用活動のサポートをしています。企業独自のメタバース空間を制作・活用することで、母集団形成や採用ブランド力の向上、理系・上位校等特定ターゲットの選考移行率向上が期待できます。
無料体験を実施しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
HRテックを導入する流れ
実際にHRテックを導入するには、何から始めるべきでしょうか。導入までの具体的な流れを解説します。
1.解決したい問題を明確にする
企業として、人事労務領域のどのような問題を解決したいのか明確にします。問題が明らかでないと、導入すべきHRテックの分野がわかりません。漠然とした理由で導入すると、再度導入目的から洗いだす必要が出てくるなど、想定外の時間やコストがかかってしまいます。
HRテックは勤怠管理システムや人材評価システムなど、導入後に現場への影響が大きいものも含まれます。人事部門の担当者だけでなく、社内のIT担当者やバックオフィスの管理者とも連携して、問題を明確にしていきましょう。
2.業務棚卸をする
解決したい問題に適したHRテックでも、さまざまなサービスがあります。そこで現在の業務棚卸を行い、導入すべきHRテックをより絞り込みましょう。
業務棚卸は、どのような業務を、いつ、誰が、どのくらいの人数で、何時間かけて実行しているのか、といった項目を洗いだす作業です。
業務棚卸を行う過程で、効果や成果がなく、課題解決につながらない業務が見つかることもあります。HRテックの導入をおこなわずとも、問題が業務フローの改善で解決する場合もあります。
HRテックに広く活用するAIには苦手な領域があります。現状の技術では、事例が少ない出来事やひらめきが必要な業務には対応できません。戦略を立案する業務や稀な出来事への対処は、人の業務として明確に切り分けることが大切です。
残った業務で効率化を進めたいものに対し、HRテックの導入による工数削減を試算し、どのタイミングで課題を解決をしていくのか、年単位でロードマップや運用計画を策定しましょう。
3.導入するツール・サービスを検討する
効率化すべき業務に適した機能を搭載したツール・サービスから、候補を複数探します。近年は多くのHRテックのツール・サービスがあるため、自社での使用に適しているかどうかも確認したいポイントです。
機能やコスト以外に、次の2つの面からも検討を行いましょう。
- 社内システムと連携が行える
- カスタマーサポートが充実している
社内システムと連携が行えるツール・サービスであれば、社内システムに蓄積されたデータの活用も行いやすくなります。
また、社員全員が利用するツール・サービスは、カスタマーサポートも重要です。わかりやすいマニュアルの有無、導入後の講習会が受けられるかなども確認します。
4.HRテックの導入を開始する
ツール・サービスを絞り込んだら、無料のトライアルを活かして、少人数で利用を開始します。機能が自社にあっているのか、どのように業務をツール・システムで置き換えていくのか、より詳細に確認するためです。また、課題や自社の環境に合わせて、ツールを組み合わせる場合も考えられます。少人数で始めたほうが大規模な導入と比べリスクが低く、運用におけるトラブルや問題の解決も容易です。
導入の必要性が迫られている部門内で、小規模のトライアルをスタートさせていきましょう。導入に価値があると判断できれば部門内に活用範囲を広げ、さらにほかの部門にも導入を展開していきます。
また、導入後は運用方法でトラブルが起きていないか、問題解決に向けた改善が見られるか、課題を定期的に見直すことも重要です。機能を導入したり、サービスを変更したり検討できます。
HRテックを導入する際の注意点
導入するメリットも大きいHRテックですが、すぐに効果を得られるわけではありません。2つの注意点をおさえて、より良い活用を目指しましょう。
短期的な効果を求めすぎない
自社で収集した多くの情報をデータ化するには、時間も労力もかかります。明確な理由を持ってHRテックを導入しても、利用する社員や経営者のリテラシーが追い付かない可能性も否定できません。HRテックの導入は中長期的な施策と考え、問題解決に向けた運用体制を整える姿勢が求められます。
また、ツールやサービスを導入したあとは、1年未満の短い期間で効果を検証します。導入したツールやサービスが、自社の課題に最適ではないとわかることもあるためです。必要に応じ、ツールやサービスの変更を検討していきましょう。
検証と改善を継続的に繰り返す
HRテックに活用されるテクノロジーは、常に進化し続けています。変化に対応すべく、効果の分析に基づいて改善、というサイクルを繰り返すことが重要です。
導入後に効果を検証し、一定の成果を得られた技術であっても、数年後にさらに便利な技術が現れることもあります。導入しただけで終わらせないためにも、新しい技術にアンテナを張り続けましょう。
HRテックの導入で利用できる補助金制度
新しいサービスやシステムを導入する際には、コストを要します。追加コストは経営面に直接影響を与えるため、HRテックのスムーズな導入を妨げる要因の一つです。
導入コストの負担を軽くできる補助金制度に「IT導入補助金」があげられます。中小企業を対象とし、必要とするITツールや改善を目指す工程によって要件も補助内容も変わるのが特徴です。
自社の課題やニーズにあった、バックオフィス業務の負担を軽くするITツールに利用できます。
また、「ものづくり補助金」は、サービス開発や生産プロセスの改善、試作品の開発に対する設備投資やツールの導入が対象です。業務自動化を行うRPAツールの導入にも利用できます。
注意したいのは、補助金の申請期限や手続き方法は、年度によっても内容が変わることです。利用を検討する際は、公式ホームページで情報を確認しましょう。
HRテックを活かして人事業務の改革を進めよう
HRテックは、ビッグデータやAI、クラウド、SNSなど多様なIT技術の活用を通じ、より人事労務領域の業務効率化を図るサービスやツール全般を指します。
HRテックを導入すれば、企業の人材管理に関するルーチンワークの効率化や採用チャネルの強化、採用ミスマッチのリスク軽減、客観的な評価によるマネジメントといったメリットが得られます。
短期的な効果を求め過ぎず、検証と改善を定期的に繰り返しながら、HRテックを通じて人事業務の改革を進めていきましょう。
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