ティール組織とは?意味やメリット・デメリット、成功させるポイントを解説
2023.10.30
近年、これまでとは異なる新しい組織モデルで成果を上げる企業が現れており、なかでも「ティール組織」と呼ばれる次世代型の組織モデルが注目を集めています。
本記事では、ティール組織の特徴や従来の組織との違い、メリット・デメリットを詳しく解説します。ティール組織作りに失敗しないためにおさえておきたいポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ティール組織とは?
ティール組織とは、経営者や上司の指示・管理なしに、メンバーが主体的に判断し行動する組織です。
メンバーが組織としてのビジョンや目的を理解しているため、上司が細かく指導をしなくても、自分たちで判断して行動できます。
ティール組織は、2014年にフレデリック・ラルーの著書「Reinventing Organizations」のなかで紹介されました。著書では「旧来のマネジメント手法は、組織に悪影響を与える可能性がある」とされ、ティール組織は「目的の達成に向けて、組織メンバーが一人ひとり自己決定をする自律的組織」と定義づけられています。
「ティール(teal)」には青緑色の意味があり、組織モデルを5段階に色分けした際の最終形態にあたります。詳しくは、後の章の『ティール組織に至るまでの5段階』で解説します。
ティール組織の特徴
ティール組織では、組織を一つの生命体や生態系のように捉え、「組織はメンバー全員のもの」との考え方に基づいて行動します。
組織内のメンバーが自主的に行動し、柔軟に役割や責任を引き受けることで、組織全体が効果的に機能するとされています。
また、仕事とプライベートの間に厳格な境界があまりないのも、これまでの組織には存在しない特徴です。
従来型の組織では、従業員に対して、仕事とプライベートをはっきり分けるよう求める傾向がありました。しかし、ティール組織では、自分のなかで仕事とプライベートを厳密に分ける必要はなく、むしろ仕事に自分らしさを取り入れることが大切だと考えられています。
従来の組織との違い
管理職や上司が部下を管理する、従来型(ヒエラルキー型)組織との違いを紹介します。
ティール組織 |
従来型(ヒエラルキー型)組織 |
|
意思決定権 |
メンバーひとりひとり |
上司、管理職、役職上位者 |
仕事への取り組み方 |
自発的 |
従属的 |
心理的安全性 |
保証される |
保証されるとは限らない |
従来型(ヒエラルキー型)組織では、組織のルールや方針に従うことが求められており、個々の能力や価値を最大限に発揮できないケースがありました。
一方、ティール組織では、メンバーが自分自身の判断で自発的に仕事に取り組めるため、能力や経験を活かし、本来の力を発揮しやすくなっています。
また、意思決定の権限が管理職から現場の各メンバーに移っているのも画期的な変化と言えます。
ティール組織に至るまでの5段階
フレデリック・ラルー氏は、組織の進化を5つの段階に分け、それぞれ色で表して説明しました。1から4段階を経て、5段階目のティール組織となります。
それぞれの組織の特徴を詳しく見ていきましょう。
第一段階:Red(レッド)組織
最初の段階は「レッド」で、「衝動的」な組織が形成されます。
この段階では一人の支配者が圧倒的な力を持ち、組織のメンバーを恐怖や力で支配し、統制する構造があります。
組織の支配者とメンバーは力がすべてと考え、すぐに手に入る目の前の利益を重視し、衝動的・短絡的な行動をする傾向にあります。組織モデルのなかでは最も原始的な段階だと言えるでしょう。
第二段階:Amber(アンバー)組織
第二段階のアンバーは琥珀色を指し、「従属的」な組織です。階層構造(ヒエラルキー)が存在します。
ここでは、メンバーは自分の役割に従って行動し、自発的に意見を出したりアイディアを提案したりすることはほとんどありません。階級や制度が厳格に適用され、上下関係によって秩序が保たれる構造です。
アンバーの組織は「順応型」とも言われ、トップからの指示により、ルールに沿って行動することで安定した組織運営を実現します。一方で、激しい変化への柔軟な対応や他社との競争には適していないとされています。
第三段階:Orange(オレンジ)組織
第三段階のオレンジは「達成型」の組織で、現代の日本では一般的な形です。階層構造(ヒエラルキー)が基本にありますが、社会や環境の変化に適応できることが特徴です。
組織の成功を目指して、各メンバーが個々の才能を活かし、成果をあげることで昇進もできます。目的達成を第一とした合理的な組織と言えるでしょう。
ただしこの段階では、成果を第一に求めるため、過度な労働や個人の生活の充実感が薄れるリスクがあります。モチベーションが低下しやすいため、働き方を改革して現状を改善する必要があります。
第四段階:Green(グリーン)組織
第四段階のグリーンは、「多元型」の組織です。オレンジの組織に比べ、メンバーがより主体性を持って行動できます。
ここでは、意思決定のプロセスがボトムアップ(下から上へ)で行われ、リーダーはメンバーがより働きやすい環境を整える役割を果たします。
組織内の最終決定権はマネジメント側にありますが、メンバーの個性や多様性が認められる組織であると言えるでしょう。
第五段階:Teal(ティール・青緑)組織
最終段階のティール組織は、青緑色の「進化型」の組織です。現場のメンバーが必要に応じて自ら意志決定を行うことが特徴です。
メンバーが自ら意思決定を行うためには、組織の目的を理解し、各自がそれに向けた行動をする必要があります。
また、ティール組織では、メンバー同士が対等な関係であり「組織はメンバー全員のもの」と考えます。
メンバーが「社会的使命を果たすための行動」と「個人の目標達成のための行動」を結びつけているため、自発的な成長と活躍が促進される環境と言えます。
ティール組織のメリット・デメリット
ティール組織には、従業員エンゲージメントや生産性の向上が期待できるメリットがあります。一方で、意思決定に時間がかかり、組織の統一性に欠けるといったデメリットもあります。
ティール組織導入を検討する際は、メリット・デメリットをそれぞれ把握し、よく理解した上で行いましょう。
ティール組織のメリット
ティール組織では、個人を信頼し尊重して意思決定権を持たせます。そのため、次のようなメリットがあります。
従業員エンゲージメントが向上する
信頼されて意思決定権を与えられた従業員は、自分の能力や専門知識を最大限に発揮して活躍できる環境を得ます。やりがいや達成感を感じ、従業員エンゲージメントやモチベーションが向上するでしょう。
組織の生産性が向上する
従業員のエンゲージメントやモチベーションが高まると、人材の流出を防ぐことができます。人材確保にかかるコストを削減でき、その分の資金を生産性向上や従業員のスキルアップに充てることで、組織全体の生産性向上につながります。
また、従業員がエンゲージメントを高め、やりがいを感じている状態では、より企業に貢献しようとする姿勢が生まれます。
新たなアイディアの創出やイノベーションが促進される
精神的ストレスが少なく心理的安全性がある環境では、従業員が創造的なアイディアや革新的な発想を生み出すことができます。
ティール組織のデメリット
働く従業員のエンゲージメントやモチベーションを高めやすいティール組織ですが、デメリットも存在します。ティール組織のデメリットは次のとおりです。
組織の統一性に欠ける
ティール組織ではメンバーそれぞれが意思決定権を持ち、自分の仕事に責任を持って取り組みます。そのため、従業員一人ひとりがセルフマネジメント(自己管理)の姿勢を持ちます。
従業員一人ひとりがセルフマネジメント(自己管理)するティール組織では、進捗管理も従業員に任せます。しかし、個別に進捗管理が行われると、全体の状況を把握するのが難しくなる可能性があります。全体の状況把握ができないとトラブルが発生しても気付けず、全体としてのサポートも難しくなるかもしれません。
また、ティール組織には上下の階層がありません。そのため、経営者がほかの従業員に対して、組織の方向性や目標・方針などを明確に示しにくく、組織全体の方針に統一性が欠けてしまう可能性も考えられます。
意思決定の時間がかかる
ティール組織では、意思決定権がそれぞれに分散していて上下の階層が存在しません。従業員同士は、経営者も含めてフラットな関係を築いています。特定の責任者や管理者が決定を下すのではなく、各従業員には同等な決定権が与えられています。
このため、複数の意見が出た場合にはどのアイディアを採用すべきか、意思決定に時間がかかることがあります。
メンバーの意識と能力に影響される
ティール組織では従業員それぞれに決定権があるため、一人ひとりにセルフマネジメント(自己管理)能力がなければ成立しません。
しかし、人によって意識や仕事への取り組み方、セルフマネジメント能力の高さなどは異なります。従業員の意識やセルフマネジメント能力が低い場合、組織としての生産性や効率の悪化につながる可能性も考えられます。
ティール組織が失敗する可能性があると言える理由
ティール組織は、階層・階級がある従来型のヒエラルキー組織と比較すると、失敗しやすいと考えられています。
失敗しやすいと言われる理由は、ティール組織が「メンバーのセルフマネジメント力」に委ねることが多く、業務の進捗状況やリスク管理が難しいためです。メンバーの高い意識と自主性がないと成立しない組織モデルであるため、構成メンバーによってはうまくいかない可能性があることに注意しましょう。
また、ティール組織では、新しい案件について役員会の了承や上司のサインなど複数の手続きは不要です。各個人に意思決定権が与えられるため、個人が承認すれば企画が進行します。しかし、プロジェクトが発足する度にリソースやコストを割り当てることはリスクを伴います。
これらの課題に対しては「目的達成のために必要か」といった観点で考えることや、「専門知識を持つ人が積極的に情報を提供する」「自分が知っている情報は提供する」「ほかに似たような企画があった場合は開示する」といったポイントをおさえて、企画を精査する必要があるでしょう。
ティール組織を成功させるための3つの要素
ティール組織を成功させるには、重要な3つの要素があります。提唱者のフレデリック・ラルー氏は、ティール組織を効果的に機能させるためには次の3つの要素が必要であると説明しています。
- セルフマネジメント(自己管理)
- ホールネス(全体性)
- エボリューショナリーパーパス(進化する目的)
それぞれの要素を詳しく解説します。
セルフマネジメント(自己管理)
ティール組織では、すべてのメンバーに意思決定の権限と責任を与えます。一人ひとりが自ら設定した目標や動機に基づいて組織運営をするのが特徴です。
メンバー全員に意思決定権があるため、自分の行動に責任を持ちつつ、成果をあげていかなければなりません。そのため、セルフマネジメント(自己管理)ができる「自律型人材」であることが必要です。
セルフマネジメントを行いながら仕事を進めていく上で、問題が発生したときには一人ひとりが「組織に起きたことを自分の問題として捉える」意識が必要です。
上下の階層や指示命令系統の存在しない自主的な組織であるティール組織では、自ら問題の解決に取り組む姿勢が欠かせません。したがって、セルフマネジメントは必須要素と言えるでしょう。
ホールネス(全体性)
ホールネス(全体性)とは、「仕事場でもありのままの自分でいられる、仮面を被らないでもよい」という考え方です。
ティール組織では、メンバー全員が自発的に行動します。自ら意思決定し、新たなアイディアの提案や、積極的な問題解決への取り組みなどを行います。このような自発的な行動を取るためには、組織内で「心理的安全性」が確保されていることが重要です。
「自分の意見を言ったら否定されたり怒られたりするのではないか」といった不安や心配のある精神状態では、自発的な行動や積極的な問題解決のためのアイディアは生まれにくくなります。
自分の考えを受け止めてもらえる環境であれば、従業員は安心して真価を発揮しやすくなるでしょう。
そのため、企業は従業員に対し、安心して「ありのままの自分を出せる環境」を維持し続ける必要があります。
エボリューショナリーパーパス(進化する目的)
ティール組織では従業員それぞれに意思決定権があるため、全員が組織の目標や存在目的をしっかりと把握していなければ、業務が円滑に進みません。
そのため、組織は全員に対して、組織の目的を明確に示し、共有する必要があります。組織の目的は環境の変化によって変わり、進化することから、常に最新の情報共有をすることも欠かせません。
また、ティール組織では、各従業員が意思決定権を持つため、個人の目的と組織の目的が一致することが重要です。組織の存在目的と個人の目的が食い違ってしまうと、意思決定権を持つ個人が別々の方向に進む可能性があり、個人の目的だけが達成されるリスクが生じるかもしれません。
そのため、組織の存在目的を深く理解し、共感することが大切です。組織の目的を実現するために個人ができることと、自身の目的達成のための行動を調和させることが、組織で働くモチベーションを高める一つの鍵だと言えるでしょう。
ティール組織を効果的に機能させる3つの要素をおさえて成功させよう
ティール組織は、従来のヒエラルキー型の組織とは異なり、メンバーそれぞれが意思決定権を持つフラットな関係性のなかで、自主的に仕事へ取り組む組織です。
個人の考えや能力が尊重される心理的安全性のもと、組織への貢献意欲やモチベーションが高まりやすく、能力を発揮しやすい環境と言えるでしょう。優秀な人材の定着や組織の全体的な生産性向上が期待できます。
ティール組織は「セルフマネジメント」「ホールネス」「エボリューショナリーパーパス」という3つの要素をおさえることが大切です。
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