同調圧力とは?生まれる理由と企業にもたらすメリット・デメリットを解説
2023.10.26
職場に同調圧力が強いと、異なる意見を持つことが難しくなる場合があります。多数派の意見に合わせることが強く求められる状況下だと、周りに合わせ過ぎて、自分の意見を言えなくなることがあるでしょう。
本記事では、同調圧力の意味と生まれる理由や同調圧力がもたらす影響について解説します。職場内の同調圧力に対して企業ができる対策も紹介するので、企業の採用担当者は、より良い職場環境づくりの参考にしてください。
同調圧力とは
同調圧力は集団内で起こる心理的圧力を指し、個人が他人と意見を合わせるように誘導させられることです。
集団のなかでは個性が消失し、個人の感情や情念が一斉に同一の方向に向けられやすくなります。似た言葉として「同調行動」がありますが、周りの意見に合わせた結果、自分も同じように行動することです。
このような状態の集団では、少数意見を持つ人は「多数意見に合わせなければならない」といった無言のプレッシャーを感じやすくなります。同調圧力の具体例として、次のようなものがあげられます。
- 会議で意見があっても発言できず多数派に流される
- 周りが残業していると自分だけが帰りにくい
- 懇親会に行きたくなくても周りが参加するので断われない など
なお、同調圧力は英語で「ピア・プレッシャー(Peer pressure)」と言います。「仲間・同僚」を表す「ピア」と、「圧力」を表す「プレッシャー」を合わせた言葉です。
同調圧力が強いのは日本だけ?
「日本は同調圧力が強い」という考えが定説化していますが、果たして日本だけに見られる文化なのでしょうか。他国での状況や考えられる理由を詳しく見ていきましょう。
同調圧力は世界中にある
これまでは「集団主義的で和を重んじる日本人は、自分を犠牲にしてでも同調しようとする」という考えが一般的でしたが、実は同調圧力があるのは日本だけではありません。たとえば、アメリカにも日本と同程度の同調圧力が存在することがわかっています。
1951年にアメリカで発表されたソロモン・アッシュの心理学実験では、アメリカ人の同調する割合は7割で、これは日本人の実験結果と大きく差がありませんでした。1966年には日本でも同様の実験が行われましたが、その結果も同じくアメリカと日本の同調割合は変わりませんでした。その後、集団のタイプや場所を変えて何度も同様の実験が行われましたが、日本とアメリカの結果に大きな差が見られることはありませんでした。
「個人主義的」と言われてきたアメリカ人も、日本人と同様に同調圧力を感じることが明らかになったのです。
「日本は同調圧力が強い」と言われる理由
それではなぜ「日本は同調圧力が強い」と言われているのでしょうか。考えられる理由を3つ紹介します。
「空気を読む」という暗黙のルールがある
理由の一つとして、集団主義的な日本社会には「周りの空気を読む」という暗黙のルールが深く浸透していることがあげられます。
「空気を読む」とは、場の雰囲気や周りの人の表情などから状況を推察することです。はっきりと明言されなくても、その場で自分が何をすべきか、またはすべきでないかを暗黙のうちに推測したり、相手のして欲しいこと・して欲しくないことなどを推し量ったりします。
日本社会における集団のなかでは、空気を読むことを暗黙のうちに求められる傾向があります。集団のなかで異質な言動をする人がいれば、「空気の読めない人」として見られ、扱いづらいと考えられる場合もあるでしょう。
これは、集団行動に必要な協調性や連帯感を育む行事が日本の教育に多い傾向にも関係があると考えられています。
協調性を持って周囲と協働するよう求められるケースや、誰かが失敗した場合には「連帯責任」として集団全体が責任を問われるケースもあります。そのため、空気を読まない人は集団の足を引っ張る存在であるかのように考えられてきました。
「村社会」の名残がある
日本の江戸時代には、「士農工商」といった身分制度のある封建社会において、それぞれが身分に合った行動を取ることが求められていました。家族の誰かが身分にそぐわない行動を取った場合、「一家の恥」「一族の恥」などとする「恥の文化」がこの頃は一般的でした。
恥の文化は、他人に見られても恥ずかしくないことを行動基準とする文化です。明確な戒律やルールを行動基準とするのではなく、恥をかかないような行動をすることが重要視されていました。そして不適切な行動を取れば、一族から破門される、「村八分」に遭うかもしれないなどの恐怖によって秩序を保つ傾向にありました。
「村八分」とは、江戸時代に村落で行われていた私的制裁のことです。村の慣習や掟に従わない者や家族に対し、村民全体が申し合わせてその家と絶交することであり、村社会では、集団から外れた行動を取ると村八分になることがありました。
この風習が様相を変えて現代にも根強く残っており、集団での仲間外れやいじめ、ハラスメント問題にもつながっていると言えるでしょう。
村八分や仲間外れのように排斥されることを恐れ、世間体や人の目を気にして集団からはみ出さないようにする文化が定着した結果、「日本は同調圧力が強い」というイメージが広がったと考えられます。
和の文化を重んじる
村社会の名残に加えて、日本では昔から和の文化が重んじられてきました。和の文化とは、集団の調和を乱さないことを重んじる文化のことです。
日本では、集団行動における協調性や連帯感を育む教育に加え、家族やチーム、コミュニティの絆を大切にする価値観が重視されてきました。伝統的に周囲と協調し、和を尊ぶ意識が高いと言えるでしょう。
一方で、和を重んじ、他人との衝突を避けようとすることで、同調行動が生まれやすくなっていると考えられます。
そのため、「和の文化を重視する日本人は同調圧力が強い」といったイメージを持たれやすいと考えられます。
適度な同調圧力がもたらすメリット・効果
「周囲に合わせなければならない」「少数派の場合、自分の意見を言いにくい」といったイメージのある同調圧力ですが、企業においてはメリットになる場合もあります。適度な同調圧力のもたらすメリットは次のとおりです。
- 心理的安全性につながる
- チームワークやモチベーションが向上する
それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
心理的安全性につながる
周囲のメンバーと自分の考え・行動が一致していると、チームの一員であるという実感が沸きやすくなります。自分が同じ考えを持つチームの一員であると感じられると、帰属意識を持てるようになり、安心感が得られるでしょう。
自分に自信が持てない人でも、周囲のメンバーと同じ意見や考えを持っていると感じることで、自己肯定感が高まる可能性もあります。
自分がチームになじんでいる感覚や帰属意識を持つことは、職場における心理的安全性にもつながりやすいでしょう。そのため、安心して長く働ける環境が作れるといったポジティブな作用も期待できます。
チームワークやモチベーションが向上する
適度な同調圧力があると、周囲の意見や行動に対して信頼感が生まれ、協力し合う雰囲気が醸成されやすくなります。
チーム内でメンバー同士が互いに協力し合い、信頼関係が構築されると、結束力が強くなってチームワークが向上するでしょう。チームワークが向上すれば、チーム全体の生産性が高まることも期待できます。
チームにおける同調圧力は、メンバーとの相互監視によって生み出されます。この相互監視が良い意味での緊張感や連帯感としてはたらけば、メンバー同士が切磋琢磨し合える環境を育むことができます。
相互に監視するだけではなく、相互に補完し助け合う関係性を構築できれば、メンバーひとりひとりの長所を伸ばしながら、ミスや問題があればうまく補い合っていける柔軟なチームへと昇華できるでしょう。
また、同調圧力によって仕事に対する前向きな姿勢や行動指針が広まれば、仕事に対するモチベーションを、チーム、ひいては企業全体で維持できる可能性もあるでしょう。
過度な同調圧力がもたらすデメリット・注意点
過度な同調圧力は企業にデメリットをもたらします。おもな例は次のとおりです。
- ハラスメントやストレスの原因になる
- 従業員の主体性がなくなる
- 不必要な残業が増える
それぞれのデメリットを詳しく解説します。
ハラスメントやストレスの原因になる
同調圧力によって、自分の行動や発言が適切であるかを深く考えないまま、同調行動を取ってしまう場合があります。
「周りがみんなしているから」「そうしないと自分が仲間外れにされてしまうから」といった同調圧力が、セクハラやパワハラ、いじめの発生につながる可能性もあります。
「行きたくなくても飲み会の誘いを断れない」、「自分の意見を言えずに我慢して飲み込んでしまう」、「無理な仕事を押し付けられても断れない」など、強い同調圧力が慢性的なストレスの原因になると考えられます。
従業員の主体性がなくなる
同調圧力が強くなると、周囲と違う行動をしないようにするあまりに、主体性を持って積極的に行動する従業員が減ってしまう可能性があります。
この場合、新たな挑戦やイノベーションが起きなくなり、企業の成長に悪影響を及ぼしかねません。
問題に直面しても解決のためのアイディアが生まれにくくなる可能性もあります。業務効率やパフォーマンス低下につながるでしょう。
不必要な残業が増える
同調圧力が社内に広がると、従業員が不必要な残業をする可能性が高まるため、業務効率化の妨げにつながる恐れがあります。
たとえば、自分の仕事が終わっても周りが残業していると、「自分だけ定時に退社しづらい」と感じることがあるでしょう。このような状況を放置していると、いつの間にか不必要に残業する従業員が増えてしまい、結果的に社内の残業が当たり前の風潮になってしまうかもしれません。
長時間の勤務は身体的・精神的なストレスを増加させます。また、疲れた身体で仕事をし続けると、集中力が散漫になり、作業ミスが増えたり、一つのタスクに想定以上の時間がかかったりするでしょう。
このように、過度な残業により企業全体の業務効率や生産性を低下させないためにも、日頃から同調圧力には気をつける必要があるのです。
企業ができる同調圧力への防止策
企業において理想的な状態は、適度な同調圧力をを保つことです。そのためには次の対処法が効果的です。
- 個人の判断基準を尊重する
- 同調圧力に関する理解・知識を深める
- 多様性を認め合える組織にする
それぞれの方法を詳しく見ていきましょう。
個人の判断基準を尊重する
同調圧力は、「大多数の意見」を判断基準にすることで生まれます。したがって、「他の皆がこう言っているから自分もこう」と考えるのではなく、従業員一人ひとりが自分個人の基準で判断できる事が重要です。
従業員が同調圧力に流されないようにするためには、普段から個人の価値観を明確にする文化をつくるのがおすすめです。
たとえば、仕事に対する考え方や取り組みの方向性などについて、従業員が自らの考えを普段から公言できる環境があるとよいでしょう。チーム内で気軽に話し合う機会や上司との1on1ミーティングなどで、個々の考えを伝え合える場を設けることも効果的です。
同調圧力に関する理解・知識を深める
「職場のような多くの人間が集まる場所では、同調圧力が生まれやすい」という認識を、企業側も従業員もあらかじめ持っておくことが大切です。
「これは同調圧力である」と自ら気づくことができれば、同調行動を取る前に、自分の行動や発言が適切なのかを考え、冷静な判断ができるでしょう。
従業員に同調圧力に関する理解・認識を深めてもらうためには、社内報や研修などでの啓蒙が効果的です。
なお、企業内で同調圧力が強くなる要因には次の3つがあげられます。
閉鎖性:閉鎖的な組織・空間・固定された人間関係など
同質性:似たような規範の価値観・文化を持つ
共同体主義:個人よりもチーム・部署が重視される(共同作業・連帯責任)
このことから、企業の対策としては、閉鎖性が保たれないように他部署間での交流やネットワークを積極的に築くとよいでしょう。チーム間の中立的な関係性を維持し、社内の多様化を推進できるような人員の配置や入れ替えが効果的です。
また、チーム・組織内での「役割と行動の引き離し」を行うこともよいでしょう。「役割と行動の引き離し」とは、従来の担当や役職に縛られず、各個人が有する得意なスキルや経験を生かした行動を促すことを指します。具体例として、営業担当であっても企画の提案を行ったり、技術担当であっても顧客とのコミュニケーションをとったりするなど、固定の役割の枠を超えた行動ができます。
これにより、新しい視点でのアイデアが生まれやすくなり、組織風土の改善につながります。そして、「チームにおいて重要なのは貢献度や結果である」という意識が浸透していれば、不必要な残業は減るでしょう。
多様性を認め合える組織にする
ネガティブな同調圧力を強めないためには、多様性を認め合う雰囲気作りが大切です。その際にはアサーティブコミュニケーションをおすすめします。
アサーティブコミュニケーションとは、伝え方の工夫によって自分の意見を適切に伝え、かつ、相互に意見を尊重するコミュニケーション方法です。
アサーティブコミュニケーションができる人材が増えれば、自分の意見が言えずに我慢していた従業員のストレスが減り、コミュニケーションも活性化するでしょう。
コミュニケーションの活性化で、新しいアイディアや挑戦、イノベーションが生まれる可能性が高まります。同調圧力のポジティブな側面である、相互監視による助け合いやサポートし合う雰囲気が生まれやすくなり、チームワークやモチベーションも向上しやすくなるでしょう。企業の成長も期待できます。
多様性や個人を尊重する企業文化で、過度な同調圧力によるデメリットを防ごう
同調圧力は、企業にとってメリットにもデメリットにもなります。メリットは、従業員の心理的安全性やチームワーク・モチベーションの向上など、企業の成長をもたらしてくれる点です。
一方で、デメリットは、不必要な残業やハラスメント、従業員の慢性的なストレスなどの問題につながる恐れがあることです。そのため、企業はネガティブな同調圧力をなくすよう適切な対策をする必要があります。
大多数の意見だけではなく、個人の意見や新しいアイディアを尊重する風土を醸成し、同調圧力をポジティブに働かせることで、自社の職場環境を改善させていきましょう。
就職・転職・採用を筆頭に、調査データ、コラムをはじめとした担当者の「知りたい」「わからない」にお応えする、株式会社学情が運営するオウンドメディアです。