ワークライフバランスの実現は、働き方改革の一環として政府が推し進めている取り組みです。その言葉の意味を「仕事よりプライベートを優先させること」「女性だけのためのもの」などと誤解している方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ワークライフバランスの本当の定義と企業にとってのメリット、企業が労働者のワークライフバランスを実現するための5ステップを解説しています。ぜひ取り組みの参考にしてください。
ワークライフバランスとは
ワークライフバランスとは、無理なく仕事と生活を両立させられる状態を指します。仕事にやりがいを見出すと同時に、趣味や家庭といったプライベートをないがしろにしないバランスが保てている状態を「ワークライフバランスを実現している」と表現できます。
ワークライフバランスは仕事と生活のバランスを取りながら、生活の質を向上させることを目指します。
内閣府のHPでは、仕事と生活の調和(=ワークライフバランス)が実現した社会を以下のように定義付けしています。
“「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」”
※出典:「『仕事と生活の調和』推進サイト」(https://wwwa.cao.go.jp/wlb/towa/definition.html)
ワークライフバランスは、以下の意味ではないことに注意が必要です。
- 仕事が終わっていないのにプライベートを優先させること
- 絶対に残業を許容しないこと
- 仕事の手を抜いてもいいということ
- 女性のための取り組み
本当のワークライフバランスとは、プライベートで得た刺激が、仕事で獲得したスキルが、お互いによい影響を及ぼし合うサイクルだといえます。
ワークライフインテグレーションとのちがい
ワークライフバランスとワークライフインテグレーションは、どちらも仕事とプライベートの調和を目指す考え方ですが、そのアプローチに違いがあります。
ワークライフバランス:仕事とプライベートを切り離して考える
ワークライフインテグレーション:仕事とプライベートを統合して考える
ワークライフバランスは仕事とプライベートの間に明確な線引きがありますが、ワークライフインテグレーションでは、仕事とプライベートはお互いによい影響を与え合うと考えます。
ワークライフバランスが必要とされる理由
「いま何故仕事と生活の調和が必要なのか」について、内閣府のHPでは、仕事と生活のバランスに問題を抱える人が多くいるとされています。
内閣府のHPで挙げられている6つの原因をわかりやすく解説します。
- 働き方の二極化等
正社員以外の労働者が増加している一方で、正社員の労働時間は高止まりしています。利益の低迷などの原因によって、働き方の見直しに取り組むことが難しい企業も存在します。
- 共働き世帯の増加と変わらない働き方・役割分担意識
かつては夫が働き、妻が専業主婦として家庭を支えることが一般的でしたが、今日では共働き世帯が増加しています。しかし、働き方や社会的基盤は変化に追いついていません。
- 仕事と生活の相克と家族と地域・社会の変貌
家族や地域で過ごす時間をもつことが難しくなっており、少子化の大きな要因の一つとなっています。
- 多様な働き方の模索
人々はリスキリングやパラレルワークなどの自分に合った働き方を模索しています。ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現やメンタルヘルス対策といった取り組みが企業に求められています。
- 多様な選択肢を可能とする仕事と生活の調和の必要性
個人の時間は有限です。仕事と生活の調和を実現することは、個人の価値を高め、社会全体の持続可能性にも寄与します。
- 明日への投資
仕事と生活の調和は、企業の活力や競争力にも影響します。中小企業においても人材確保と生産性向上を図るための投資として捉えるべきです。
※参考:内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」(https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html)
企業がワークライフバランス実現に取り組むメリット
企業がワークライフバランス実現に取り組むことは、従業員にだけでなく企業にもメリットがあります。3点紹介します。
- 優秀な人材の獲得
- 生産性向上や従業員のスキルアップ
- 人材定着の促進
優秀な人材の獲得
優秀な人材はワークライフバランスを実現できる環境を求めています。株式会社学情が社会人経験3年以上の20代を対象に実施したアンケートでは、「転職しようと思う理由」に「残業を減らしたい、休日を確保したい」との回答が3番目に多い結果でした。
※参考:「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(転職理由)2023年8月版」(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/230802/)
少子化によって労働人口は年々減少しており、優秀な人材を採用するのは難しくなっています。ワークライフバランスを実現できる労働環境は、より良い条件の求人を探す優秀な人材への強力なアピールになります。
企業がワークライフバランスをアピールするには、公的や第三者からの認証制度を利用すると説得力をもたせられます。認定を取得し、求人原稿に載せることで応募率を高められるでしょう。
- 東京ライフ・ワーク・バランス認定企業(https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/hatarakikata/lwb/ikiiki/nintei/index.html)
- 健康経営銘柄/健康経営優良法人(https://kenko-keiei.jp/)
- 安全衛生優良企業(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/shindan/shindan_index.html)
生産性向上や従業員のスキルアップ
ワークライフバランスは生産性向上や従業員のスキルアップにも寄与します。
残業を減らして適切な労働時間にするには、今までやっていた仕事から無駄を洗い出して削減する必要があります。つまり、ワークライフバランス実現に取り組むと、自然と業務方法を見直すことになるのです。
これにより、従業員はプライベートでの活動に時間を割けるようになります。そこで得た刺激や新しい視点からイノベーションやアイディアの創出につながる可能性があります。
ほかにも、リモートワークの導入によって、今まで通勤に使っていた時間をスキルアップや資格取得の勉強に充てられます。
人材定着の促進
企業がワークライフバランスを実現すると、従業員のエンゲージメントを高め、離職率を低下させられます。
有給休暇の取得率が向上すれば従業員のプライベートが充実してQOLが高まり、仕事にも良い影響を与えます。また、フレキシブルな勤務形態によって、子育てや介護などのライフステージの変化があっても対応できます。
2022(令和4)年の平均離職率は15.0%と、約6人に1人が離職している状況です(※出典:厚生労働省「令和4年 雇用動向調査結果の概要」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/index.html)。しかし、ワークライフバランス実現に取り組めば、今いる従業員にモチベーション高く、かつ、長く働いてもらえるでしょう。
人材定着率が上がれば、採用コストや教育・研修費用の削減にもつながるのが企業のメリットです。さらに、今までやむを得ない理由で離職していた多様な人材の能力を活かせます。
ワークライフバランスを実現するための5ステップ
企業がワークライフバランスを実現するには、以下の5つのステップが必要です。
- ワークライフバランスの正しい定義や知識を学ぶ
- 現状の課題を洗い出す
- 自社に導入すべき取り組みを選定する
- 施策を実施する
- PDCAを回す
1.ワークライフバランスの正しい定義や知識を学ぶ
新しい取り組みを導入する際は、社内から反発される場合もあります。ワークライフバランスを誤解している従業員を考慮し、まずは正しい考え方を全社的に知ってもらうのがよいでしょう。
仕事とプライベートの最適なバランスは、人によってもライフステージによっても変わります。そのため、従業員一人ひとりが仕事とプライベートのバランスを自由に選択できる環境が必要です。
企業全体で多様な働き方を理解することがワークライフバランスを実現する最初のステップとして重要といえます。
2.現状の課題を洗い出す
つぎに、自社がどのくらいワークライフバランスを実現できているかを洗い出します。従業員向けにアンケートをとるなどの方法があります。
アンケート項目の例を紹介します。
- いつも定時で帰る社員はやる気がないと思う
- みんながYESと言っていると、自分はNOと思っても言わないことが多い
- 自己研鑽や趣味・娯楽、ボランティアなどの目的で、継続して学習している
- 仕事にやりがいや生きがいを感じている
- 会議を開く際、目的やゴールを示している
- 上司は部下の日々の労働時間を把握している
※参考:
札幌市「ワークライフバランス診断シート」(https://www.city.sapporo.jp/shimin/danjo/koho/documents/wlbseat.pdf)、
京都市「考えてみよう!自分にとっての『真のワーク・ライフ・バランス』」(https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000119/119645/07.pdf)、
内閣府「『10の実践』チェックリスト」(https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/kouritsu/pdf/3point10jissen-2.pdf)
3.自社に導入すべき取り組みを選定する
自社の課題を洗い出せたら、その課題を解決できる取り組みを選定しましょう。ワークライフバランスを実現するために効果的な制度の例を紹介します。
育児休暇
育児休暇とは、法律で定められた育児休業とは異なり、企業が独自に定める制度です。育児・介護休業法第24条により、育児目的休暇を設けることは努力義務とされています。この育児目的休暇をベースとして育児休暇を整備している例もあります。
しかし、有給・無給の判断や取得日数といった内容、そもそも休暇制度を導入するか否かも各企業に任せられているため、まだ世の中に十分浸透しているとはいえないのが現状です。
※参考:厚生労働省「育児休業と育児目的休暇の違いについて」(https://jsite.mhlw.go.jp/okayama-roudoukyoku/content/contents/syuseiji2019-1.pdf)
育児・介護休業法により2022年10月1日から「産後パパ育休制度(出生時育児休業)」が創設されたことからもわかるように、性別は関係なく、子育て世代からの育児に関する休暇制度へのニーズは高まっています。
生産年齢人口が減少する中、20~30代の子育て世代は、企業にとって貴重な労働力源でもあります。子育てしやすい環境や選択肢を企業からも提供することで、従業員のワークライフバランスは整えられるでしょう。
介護休暇・介護休業
介護休暇とは、労働者が要介護状態※にある対象家族の介護や世話をするための休暇です。
※要介護状態とは:負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態
介護休業と介護休暇のちがいは、取得できる日数にあります。
介護休暇:対象家族が1人の場合は、年5日まで
介護休業:対象家族1人につき3回まで、通算93日まで
通院の付添いなどで短時間の休みが必要な時には介護休暇、長期にわたって仕事と介護を両立させたい場合には介護休業の取得となります。
※出典:
厚生労働省「介護休暇について」(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/holiday/index.html)、
「介護休業について」(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/closed/index.html)
育児休暇と異なり、介護休暇・介護休業は育児・介護休業法によって取得の権利を定められている制度です。これについて事業主は拒否したり、解雇や減給を行ったりすることはできません。
しかし、職場でのケアハラスメントなどが起こらないよう、企業側にも努力が必要です。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が⽇々の始業・終業時刻、労働時間を⾃ら決めることのできる制度です。
※引用:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf)
フレックスタイム制では、一日の所定労働時間は存在しません。「清算期間」内での総労働時間が定められており、その中で従業員自らが労働時間を自由に調整できます。企業によっては、その時間帯は従業員が必ず労働しなければならない「コアタイム」を定めたり、コアタイムのない「フルフレックス」であったりとさまざまです。
2019年の働き方改革関連法の改正により清算期間の上限が1カ月から3カ月に延長され、従業員の個別の事情に応じた労働時間の調整がよりしやすくなりました。
実際、フレックスタイム制に魅力を感じる若手人材は多くいます。株式会社学情が20代のビジネスパーソンを対象に実施したアンケートでは、「フレックスタイム制を導入する企業は魅力を感じますか?」の設問に「魅力を感じる」「どちらかと言えば魅力を感じる」と回答した割合が合わせて8割を超えました。
※引用:「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(フレックスタイム制)2023年7月版」(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/230714/)
テレワーク(リモートワーク/在宅勤務)
テレワークを導入すると、従業員が自ら働く場所を選べるようになります。遠隔地に住んでいたり、育児や介護、自身の障害などによって通勤が難しかったりする従業員の活躍を推進できます。また、通勤時間の節約によって従業員が仕事とプライベートのバランスを取りやすくなります。
テレワークは、厚生労働省含む政府全体で普及促進を図っている取り組みです。
「テレワーク普及促進対策」
“情報通信技術(ICT)を活用し、時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方であるテレワークは、子育て・介護と仕事の両立の手段となるなどワーク・ライフ・バランスの実現にするほか、多様な人材の能力発揮が可能となるものです。”
※出典:厚生労働省「テレワーク普及促進対策」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/index.html)
新型コロナウィルスの影響で定着したテレワークですが、世の中が落ち着いても完全出社には戻さずにハイブリッドワークなどの形で取り入れるニーズが高まっています。株式会社学情が20代のビジネスパーソンを対象に実施した、働き方・住む場所に関するアンケート結果は以下でした。
※参考:「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(住む場所・働き方)2024年2月版」(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/240229/)
4.施策を実施する
ステップ3で決めた施策に取り組みます。全社的に導入する前に、まずは主体となる人事部で取り組みのシミュレーションをしてみるのもよいでしょう。
取り組みの内容について具体的なイメージを掴めますし、課題を事前に把握できるので、全社的に導入した際のサポートがしやすくなります。
5.PDCAを回す
取り組みの導入後はCheckとActionを行い、PDCAサイクルを回しましょう。
制度が期待通りに機能しているか、従業員のニーズに対応できているかについて、全社からフィードバックを募ります(Check)。集まったフィードバックに基づいて制度の課題を洗い出し、必要に応じて制度の修正や追加を行うことで改善を図りましょう(Action)。
ワークライフバランスを実現して採用課題の解決や人材定着率の向上を図ろう
ワークライフバランスの向上に取り組むことは採用課題や離職率上昇の解決策になります。日本の生産年齢人口は減り続けているため、政府や厚生労働省が旗を振って取り組んでいることからもわかるように、今いる従業員の働き方を改善することでの労働力の確保は喫緊の課題です。
本記事で紹介した5ステップを基本に、自社の課題に合った取り組みをして優秀な人材の確保、定着率の向上を図りましょう。
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