企業が従業員のメンタルヘルス対策としてできる施策はさまざまあり、「ストレスマネジメント」もその一つです。ストレスマネジメントをすることで、従業員の休職や離職防止、生産性の向上など、期待できる効果が多くあります。
本記事では、ストレスマネジメントの概要とメリット、具体的な施策について解説します。利用できる助成金についても記載しますので、企業担当者の方はぜひ参考にしてください。
ストレスマネジメントとは
自身の抱えるストレスを知り、うまく対処していく方法や考え方を「ストレスマネジメント」と呼びます。
ストレスとの付き合い方
ストレスマネジメントとは、自分自身にかかるストレスに気づき、その上でストレスと向き合う具体的な対処法を実践することです。
日常生活を送る上で、多少のストレスは誰にでもあるものです。しかし、過度のストレスは心や身体に悪影響を及ぼし、生活や仕事に支障が出る可能性もあります。企業においては、職場や業務内容に起因するストレスが、従業員の健康や企業の経営に影響するケースも大いに考えられるでしょう。
ストレスマネジメントの方法はさまざまです。従業員が自分自身でストレスマネジメントするだけではなく、企業として従業員に対してできる対策も多くあります。
具体的な施策については、「企業ができるストレスマネジメントの施策例」で詳しくご紹介します。
マネジメントするストレスの原因は3種類
ストレスを引き起こす原因は「ストレッサー」と呼ばれ、ストレッサーの刺激によって引き起こされる反応が「ストレス反応」となります。
ストレッサーにはさまざまな種類があり、代表的なものは次のとおりです。
種類 |
具体例 |
物理的ストレッサー (物理的な刺激) |
暑さ寒さ・騒音・明るさ・振動・混雑 など |
化学的ストレッサー (化学物質による刺激) |
酸素欠乏・一酸化炭素・タバコ・香水・排気ガス など |
心理的・社会的ストレッサー(社会生活を営む中で生じる刺激) |
人間関係・仕事の多忙さ・社会情勢・家庭環境 など |
ストレッサーによってストレスが発生すると、次のようなストレス反応が出て心身に影響を与えます。
- 身体的反応:疲労、倦怠感、不眠、食欲不振、頭痛 など
- 心理的反応:集中力低下、不安感、いら立ち、物忘れ、ケアレスミス など
- 行動的反応:過食、過度の飲酒、浪費、性欲減退、遅刻欠勤の増加 など
ストレス反応が起こること自体は珍しいものではなく、正常な現象と言えます。しか、これらが慢性化すると心身の疾患を引き起こす可能性が高くなるため、ストレスマネジメントが重要となってくるのです。
ストレスマネジメントが注目される理由
従業員の健康保持の一環として、企業におけるストレスマネジメントが注目されるようになってきました。考えられる理由としては、次の2点です。
- 労働者の50%以上がストレスを感じている現状
- 企業のストレスチェックの義務化
それぞれについて、詳しく説明します。
労働者の50%以上がストレスを感じている現状
厚生労働省の作成する「職場における心の健康づくり」の資料によると、調査対象となった労働者の50%以上が「職業生活で強いストレスを感じている」というデータが見られます。
※出典:「職場における心の健康づくり」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf)
また、業務における心理的負荷によって精神障がいの発症や労災認定件数も増加傾向となっており、社会的にも無視できない状況となってきています。
ストレスが要因で従業員の休職や離職が増えると、企業として経営の存続が難しくなるケースも懸念されます。従業員が感じる多くのストレスは心理的・社会的ストレッサーが原因と考えられており、企業のストレスマネジメントの重要性が高まっていると言えるでしょう。
企業のストレスチェックの義務化
厚生労働省では、企業内でのメンタル不調者増加の対策として「労働安全衛生法」を改正し、2015年から企業によるストレスチェックを義務化しました。
ストレスチェックとは、従業員個人がストレスに関する質問票を記入し、集計・分析することでストレスがどのような状態にあるのか調べる検査です。従業員が50人以上いる事業所では、年1回すべての従業員に対しての実施が義務付けられています。
※出典:「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150422-1.pdf)
ストレスチェックの結果を見ると従業員の現状がつかめるため、自社においてどのようなストレスマネジメントの実施が必要か、適切な判断が可能となります。
法律でストレスチェックが義務化されたことで、より身近に従業員のストレス状況が感じられるようになったのも、ストレスマネジメントが注目されるようになった一因と考えられます。
従業員のストレスマネジメントをするメリット
企業が従業員に対してストレスマネジメントに取り組むことで、次のメリットが考えられます。
- 従業員の退職・休職の防止
- 生産性の向上
- ハラスメントの防止
それぞれについて、詳しく説明します。
従業員の退職・休職の防止
ストレスマネジメントの実施により、従業員の離職防止が期待できます。
過度なストレス反応が長期間続くと、心身に支障をきたし、業務上のパフォーマンスにも影響する可能性があります。症状が悪化した場合は精神的な病気を患い、休職や退職を余儀なくされることもあるでしょう。
そのため、ストレスマネジメントの実施でストレスの改善ができれば、心身の不調による休職や退職の低減が見込めます。
生産性の向上
生産性の向上も、ストレスマネジメントのメリットとしてあげられます。
ストレス状態が続くと、ケアレスミスや連絡もれなど業務に影響を及ぼし、十分なパフォーマンスを発揮できないケースが考えられます。ミスが続くと精神的に余裕がなくなる上、職場の雰囲気や周囲の従業員にも悪影響を及ぼしてしまうでしょう。
ストレスマネジメントによってストレスが軽減すると、精神的な余裕が生まれます。また、物理的ストレッサーによるストレスがあった場合、ストレッサーの解消によって働きやすさの向上も期待できます。
結果的に、ストレスマネジメントによって職場全体のパフォーマンスが底上げされ、業務改善や生産性の向上へとつながるでしょう。
ハラスメントの防止
ストレスマネジメントは、職場内のハラスメント防止にも寄与します。
ストレッサーにうまく対処しようとする言動を「ストレスコーピング」と呼びます。企業がストレスマネジメントとしてストレスコーピングを実施すると、従業員のストレスに対する知識レベルの向上が期待できるでしょう。
どのような言動がストレスにつながるか理解することで、従業員のハラスメントにつながる言動をおさえるきっかけとなります。
企業ができるストレスマネジメントの施策例
企業が実践できる具体的なストレスマネジメントの施策例は、次のとおりです。
- 従業員のストレスチェック
- 従業員によるセルフモニタリングの促進
- ストレスマネジメント教育の実施
- 1on1ミーティングの導入
- 専門家へのストレスマネジメントの依頼
- 休職者への支援
それぞれについて、詳しく説明します。
従業員のストレスチェック
企業のストレスマネジメントとして、労働安全衛生法で定められているのが「ストレスチェック」です。
ストレスチェックとは、従業員のメンタル不調を事前に把握するために調査を実施し、結果に基づいた「医師の面接・指導」の実施を事業者に義務付ける制度です。従業員が50人以上いる事業所では、毎年1回の実施が義務付けられています(50人未満の事業所では、実施は努力義務)。
※出典:「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150422-1.pdf)
厚生労働省の推奨する「職業性ストレス簡易調査票」などの質問票に基づいて実施し、調査票の結果を分析して、だれが「高ストレス者」なのかを判定します。結果は産業医などから直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に開示はされません。
結果に応じて医師の面談や指導を行い、対策が必要とされる結果が出た場合には事業者へ報告されます。報告を受けた事業者は、診断結果により休暇や休職、配置換えなどの対策を講じることが求められます。
従業員によるセルフモニタリングの促進
企業側が主導する取り組みも大切ですが、従業員自身の取り組みも重要です。従業員自身が抱えるストレスを客観的に知ることも、ストレスマネジメントになるためです。自身が抱えているストレスの状況を認識してもらうように、セルフモニタリングを促すようにしましょう。
セルフモニタリングの方法としては、次の項目について自分自身でどのように感じているか可視化してもらいます。
- 現在自分の置かれている状況
- 考えられるストレスの原因
- ストレスを感じたときの心身の状態
- ストレスを感じたときに取る行動
各項目にできるだけ具体的に答えることで、自身はどのようなときにストレスを感じるか、ストレスを感じたときにどうなるか把握できます。抱えるストレスの客観的な分析で現状認識が可能となり、対処法も考えやすくなるでしょう。
ストレスマネジメント教育の実施
従業員研修の一環として、ストレスマネジメント教育を取り入れるのも効果的です。セルフモニタリングで行ったストレス分析の結果に対し、具体的な対処法がわかれば、より効果的にストレスを低減できます。
ストレスに対応する方法として、ストレスコーピングを取り入れるとよいでしょう。
「ストレスコーピング」とは、具体的なストレス対処法です。代表的なものとして、次があげられます。
- 問題焦点コーピング:ストレッサーそのものに焦点を当てて解決を目指す(業務の時短、配置転換など)
- 情動焦点形コーピング:ストレッサーに対する考え方を変えて解決を目指す(相手の良いところを探す、自分の経験に必要だと考えるなど)
- ストレス解消型コーピング:ストレスを発散して心身のリフレッシュを目指す(ストレッチや運動をする、休暇を取るなど)
また、ストレスマネジメント研修を得意とする専門家へ教育を委託するのも、一つの方法です。
1on1ミーティングの導入
定期的な1on1ミーティングも、ストレスマネジメントには有効です。
「1on1ミーティング」は、上司と部下が1対1で行う面談です。人事評価のための面談ではなく、部下の考えや課題などを聞き、悩みを解消するためのミーティングとなります。1on1ミーティングの実施で、部下との信頼関係やコミュニケーションの強化が図れ、ストレスの軽減も期待できます。
実施の頻度としては週1回〜月1回程度、時間は30分〜60分程度が理想です。あくまでコミュニケーションが目的となるため、実施者は傾聴と共感に徹し、部下のストレスに対してできるだけ自己解決を促すことが求められます。
専門家へのストレスマネジメントの依頼
産業医の導入や社外専門家との連携によっても、ストレスマネジメントが可能です。
産業医は、企業における従業員の心身のサポートを行います。企業全体のメンタルヘルス指導、従業員への面接などがおもな業務です。なお、従業員が50名未満の事業所では選任の義務はありません。しかし、企業でストレスマネジメントを実施する上でより具体的な改善を図るために、専門家との連携を検討するとよいでしょう。
また、労働衛生の社外専門家としては、次の機関があげられます。
- 地域産業保健センター
- 都道府県産業保健推進センター
- 中央労働災害防止協会
- 労災病院勤労者予防医療センターなど
これらの機関を活用することで、社内対応が難しい場合でも早期にストレスマネジメントを始められます。
休職者への支援
企業として従業員のストレスマネジメントの施策に取り組んでいても、メンタル不調によって従業員が休職する可能性はゼロではありません。もしそのような従業員が出た場合、休職しても不安を覚えないような対応が必要です。
具体的な対策としては、次の例があります。
- 休職中の連絡は休職者の状況に合わせた方法と回数にする
- 連絡の窓口を1名に絞り、情報収集は最小限にする
- 休職期間中の経済的不安を軽減するための情報共有を行う
- 復帰時のブランクを埋めるための情報共有を行う など
休職者が安心して休職・復帰できる環境作りも、企業におけるストレスマネジメントとなるでしょう。
ストレスマネジメントを行う際の注意点
ストレスマネジメントでは、ストレスをゼロにするのではなく、軽減してコントロールするという考え方で進めることが大切です。
強いストレスを長期にわたって与え続けられると、心身の不調や病気につながる危険性があります。しかし、適度なストレスや緊張感は良いパフォーマンスを引き出すといった実験研究も実際にあります。
ストレス耐性は個人的な性質に大きく左右されるため、適度なストレスがどの程度のものか一概には言えません。しかし、ストレスとうまく付き合うことで、ある程度耐性は高められます。例えば、失敗経験に対して否定的なことばかりを考えるのではなく、「できたこと」「失敗したからこそ得られたもの」にも目を向けるなど、ものの見方を変えてみるのも一つの手です。また、適度な運動やストレッチなどを行なって身体を整えたり、心理カウンセラーなど専門家に相談したりするのも効果的です。
適度なストレスは、仕事に対するモチベーション低下の防止にもつながります。ストレスは排除するものではなく、うまく向き合って対処するといった捉え方が求められるでしょう。
企業のストレスマネジメントに活用できる助成金
企業のストレスマネジメント対策には、次の助成金が活用できます。
- 団体経由産業保健活動推進助成金
- 心の健康づくり計画助成金
それぞれの概要について簡単に説明しますので、利用できそうなものがあれば参考にしてください。
また助成金の内容や適用条件は変わる可能性がありますので、都度最新情報を確認するようにしましょう。
団体経由産業保健活動推進助成金
「団体経由産業保健活動推進助成金」は、厚生労働省の主導する助成金となります。
健康診断結果の意見聴取、ストレスチェック後の産業保健サービスを提供するために産業医などと契約した場合、その活動費用の80%(上限100万円)を助成する制度です。なお、対象となる団体は次のとおりです。
- 事業主団体等
:事業主団体又は共同事業主であって、一定の要件を満たす団体等
- 労災保険の特別加入団体
:労働者災害補償保険法に掲げる者の団体であって、一定の要件を満たす団体
申し込みは基本的に年1回ですが、再募集しているケースも見られます。詳細については、労働者健康安全機構のサイトをご参照ください。
心の健康づくり計画助成金
「心の健康づくり計画助成金」は、厚生労働省の「産業保健活動総合支援事業」の一環として行われています。
次の取り組みをすべて実施した事業者に対して、1法人又は1個人事業主当たり10万円の助成金が支払われます。
- メンタルヘルス対策促進員の訪問を受け、助言・支援に基づき令和元年度以降に「心の健康づくり計画」を作成している
- 作成した「心の健康づくり計画」を労働者に周知している
- 「心の健康づくり計画」に基づき具体的なメンタルヘルス対策を実施している
- メンタルヘルス対策促進員から「心の健康づくり計画」が具体的に実施された確認を受けている
なお、詳細に関しては労働者健康安全機構のサイトをご参照ください。
ストレスマネジメントで従業員のストレスを軽減しよう
過度のストレスによって心身に不調をきたさないようにする方法が、ストレスマネジメントです。ストレスを感じながら仕事をする従業員が過半数となっている現在では、企業として施策を講じることが大切です。
とはいえ、ストレスをゼロにするのがストレスマネジメントではありません。ストレスとうまく付き合う方法を従業員に教育するのも、ストレスマネジメントの一環となります。
ストレスマネジメントを実施した際に利用できる助成金もあります。ストレスマネジメントをうまく導入して従業員のストレスを軽減すると、企業の発展にもつなげられるでしょう。
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