

近年、新卒採用市場では学生優位の状況が続いており、企業は採用活動に苦戦を強いられています。企業の発展を担う優秀な人材を獲得するには、新卒採用戦略の立案が重要です。
本記事では、採用戦略を立てる手順や役立つフレームワークなどについて解説します。採用戦略の立案でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
新卒採用戦略とは
新卒採用戦略とは、企業が求める学生を効率的に採用するための総合的な取り組みです。採用目標の設定から採用要件の明確化、企業アピールの方法、内定から入社までのフォローアップなど、採用活動全体を計画・実行することを指します。
こうした戦略を効果的に推進するには、常に採用市場の動向を把握し、それに応じた柔軟な対応が必要です。
新卒採用の動向

近年、人材獲得競争の激化に伴い、新卒採用において苦戦を強いられている企業が増えています。このような状況下で優秀な人材を採用するには、新卒採用の動向を的確に捉え、それを自社の採用戦略に反映させることが重要です。
採用活動の早期化
株式会社学情が実施した「2026年卒 内々定率調査」によると、2026年卒学生の6月度の内々定率(5月末段階)は「80.1%」で、就活ルール上の採用選考解禁日の6月1日を前に8割に達する高い値となっています。
現在の就活スケジュールでの過去最高値を毎月更新してきた今シーズンの調査で、前年同時期(81.3%)を下回ったのは初めてとなり、早期化の勢いは鈍っているものの、依然として早期に就職活動を終える学生が多いのが現状です。
こうした採用活動の早期化に伴い、学生との接点を増やすべく、インターンシップやオープン・カンパニーを実施する企業が増加傾向にあります。
※参考:株式会社学情「2026年卒 内々定率調査 2025年6月度」
売り手市場が続く
2026年卒の大卒求人倍率は1.66倍でした。2025年卒の1.75倍から0.09ポイント低下しましたが、依然として高い水準を保っています。
また、従業員規模別に見ると、中小企業で大卒求人倍率が上昇し、中堅・大企業では低下あるいは横ばいの結果となりました。
学生優位の状況が続くなか、従来の採用活動のように就活サイトに求人情報を掲載するだけでは、学生が競合他社に流れてしまう可能性があります。そのため、学生を確保するには、企業側からの積極的な情報発信やアプローチが不可欠です。
※参考:リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」
安定を求める一方で人も重視
株式会社学情の調査によると、「どのような企業に魅力を感じますか?」という質問に対して、最も多い回答は「休日・休暇がしっかり取れる企業(64.4%)」でした。次いで「安定していそうな企業(59.0%)」、「給与の高い企業(51.1%)」が続いています。
一方、就職先の決定理由として最も多い回答は「人(人事や社員の人柄や雰囲気)」が21.4%でした。「携わる仕事内容(19.2%)」、「事業内容(17.9%)」がこれに続き、「勤務時間や福利厚生(9.1%)」と「給料(6.8%)」は低い結果となっています。
この調査結果から、安定した働き方を求める一方で、企業で働く「人」や「雰囲気」を特に重視する傾向が見て取れます。
※参考:株式会社学情「2025年3月卒業予定者/就職戦線中間総括」
新卒採用戦略を立てる手順

新卒採用を成功させるには、計画的な戦略が欠かせません。「採用戦略=媒体選び」と捉えがちですが、戦略全体の設計と構造も重要な要素です。
新卒採用戦略を立てる手順を踏まえ、自社に最適な戦略を構築しましょう。
現状を把握する
採用戦略を立てるには、まず現状把握が大切です。会社の中期経営計画や事業計画を確認し、方針に応じた採用人数やターゲットを明確にしましょう。
また、各部署と連携して採用人数やターゲット、新入社員の受け入れ体制が整っているかを確認するのも重要なポイントです。
採用ターゲットを決める
経営方針や配属予定先の意見などを参考に、求める人物像を明確化しましょう。具体的な人物モデル(ペルソナ)を設定することで、採用ターゲットがより鮮明になります。
要件を精査する際は、次の表を参考にしてください。
属性 |
年齢、学歴、学部・学科、居住地など |
スキル・能力 |
専門知識、経験、コミュニケーション能力、問題解決能力、論理的思考力など |
経験・知識 |
学部・学科の知識、インターンシップ経験、課外活動経験など |
価値観・志向性 |
主体性、成長意欲、チャレンジ精神など |
キャリアパス |
入社後、どのようなキャリアを歩んでほしいか、将来的な役割やポジション |
情報収集チャネル |
どのような媒体や方法で就職活動に関する情報を収集するのか |
行動特性 |
どのような行動パターンを持っているのか |
部署によって求める人物像が異なるため、役員や配属予定先の社員から意見をヒアリングすることも大切です。
採用基準を設定する
採用基準は、企業が求める人材に応募者が合致するかを判断するための評価指標です。学歴や専攻、資格だけでなく、人柄や価値観など内面に関する部分を評価するために用いられます。
新卒採用では、人事担当者以外に、役員や配属予定先の上司も面接を担当することが多いため、採用基準が不明瞭だと、面接担当者によって評価にばらつきが生じてしまいます。採用後のミスマッチを防ぐためにも、共通の基準で学生を見極めることが重要です。
そのため、採用基準を設定した際は、選考に関わる役員や社員にも共有しましょう。
自社の強みや魅力を整理する
近年、新卒採用市場では学生優位が続いており、優秀な人材を採用するには、学生に選ばれる企業になることが重要です。競合他社との違いを可視化することで、採用活動で効果的にアピールできます。
次の項目を参考に、自社の強みや魅力を整理しましょう。
- 働きやすさ
- 社員の能力
- 独自の技術
- 企業文化
- 福利厚生の充実
- 研修制度の充実
採用手法を選定する
採用ターゲット(ペルソナ)や自社の強み・魅力をもとに、自社に適した採用手法を選定します。
採用手法は年々多様化しており、就活サイトとトレンドの採用手法を組み合わせるのが主流です。それぞれの採用手法の特徴やメリット・デメリットを理解し、自社に合ったものを選びましょう。
選考フローを設計する
選考フローとは、応募から採用までのプロセスを指します。選考の流れだけでなく、プロセスごとの担当者や通過人数なども明確に定めることが重要です。
新卒採用における一般的な選考フローは次の通りです。
- 会社説明会
- エントリー
- 書類選考
- 面接
- 合否の決定
選考プロセスが複雑だと、学生が競合他社に流れてしまう可能性があるため、スピーディーな選考を実現できるような設計を心がけましょう。
内定者フォローと入社後研修を計画する
学生の流出を防ぎ、定着率を高めるためには、内定者フォローと入社後の研修が重要です。
内定から入社までの期間は、学生が就職や将来について特に悩みを抱えやすい時期です。この大切な時期に、既存社員との懇親会や個別面談の機会を設けることで、学生の不安を払拭し、入社へのモチベーションが高められます。
また、入社後の人材の定着には、計画的な研修が欠かせません。採用戦略を立てる段階で、研修期間や内容、研修を実施する担当者などを決めておきましょう。
採用戦略に役立つフレームワーク
効果的な採用戦略を立てるには、フレームワークの活用が不可欠です。フレームワークを取り入れることで、現状分析から目標設定、具体的な施策の実行まで、段階的に整理できます。
3C分析
採用における3C分析は、採用コンセプトの設計や採用手法の選定などに役立つフレームワークです。候補者(市場・顧客=Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3要素を分析し、効果的な採用戦略を立てます。
候補者のニーズや動向、競合の採用戦略、自社の強み・弱みを把握することで、ターゲット人材を明確化し、競合との差別化を図れるでしょう。
SWOT分析
SWOT分析は、自社の内部環境要因(強み=Strength・弱み=Weakness)と外部環境要因(機会=Opportunity・脅威=Threat)を分析し、採用戦略を策定するためのフレームワークです。
強みを活かし弱みを克服し、機会を捉え脅威に対処することで、効果的な採用戦略が策定できます。客観的な視点から自社の状況を把握し、競争優位性を確立するための重要なツールです。
カスタマージャーニー
採用のカスタマージャーニーは、候補者が認知から入社に至るまでの体験を可視化したものです。各段階における学生の心理や行動、企業との接点を理解することで、採用活動の課題を特定し、改善につなげます。
これにより、応募意欲の向上、選考辞退の抑制、内定承諾率の向上、そして入社後の定着促進が期待できます。
新卒採用戦略でお困りの方は株式会社学情へご相談ください
新卒採用を取り巻く環境は厳しさを増しており、採用活動を成功させるには戦略的なアプローチが必要です。採用戦略を立てる際は、採用手法だけを重視するのではなく、戦略全体の設計と構造にも注目しましょう。
順序立てて分析することで、より明確な目標設定やターゲット設定が可能となります。採用戦略を立てる際は、フレームワークを活用するのがおすすめです。
新卒採用戦略でお困りの方は、株式会社学情へぜひご相談ください。採用戦略の立案から実行までを一貫してサポートさせていただきます。

株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ(現在のRe就活キャンパス)編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ(現在のRe就活キャンパス)」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。