カウンターオファーとは? 具体的な交渉方法や注意点について解説
2023.07.14
人事として仕事をしていると、社員から「退職したい」という相談を受けることがあります。企業が時間やお金をかけて育て上げてきた優秀な人材が抜けてしまうと、その穴を埋めるのは大変です。
「カウンターオファー」は、退職・転職希望者を引きとめるための、具体的な提案です。退職希望者から相談を受けたときに慌てないよう、そして会社に残留してもらえるように、カウンターオファーのポイントを知っておきましょう。
この記事では、カウンターオファーの必要性や交渉案、成功させるポイント、注意点、カウンターオファーをせずに離職率を下げる方法などを解説します。退職希望者が出た際の参考にしてください。
カウンターオファーとは
カウンターオファーは、離職を申し出た社員を引きとめるための具体的な提案を指します。もともとは貿易業界や不動産業界で、対案や反対の申し出を表す意味で使われていました。
人事をしていると社員から退職や転職の相談を受ける場合があります。しかし時間とお金をかけて育ててきた優秀な社員の退職は、企業にとっても痛手です。まして他社からの引き抜きなら、なんとしても止めたいところでしょう。そのような場合に人事は引きとめの方法として、昇給や昇格、希望部署への変更などを退職希望の社員に提案します。この提案がカウンターオファーです。
カウンターオファーの必要性
カウンターオファーが成功して社員の残留が決まれば、離職に関するさまざまなリスクを回避できます。生じるリスクはさまざまですが、社員とともに失われる内部知識や経験、新メンバーの補充までの過渡期に発生する業務の一時的な混乱や生産性の低下などがあげられます。カウンターオファーが成功して社員が残れば、重要な才能やスキルを失わずに、チームの安定性を維持できるでしょう。
またコスト面でも利点があります。従業員が離職すればメンバーを補充する必要があり、新たな人材の採用と育成には多くの時間とお金がかかります。カウンターオファーで既存社員の引きとめに成功すれば、採用や育成にかかるコストを削減できます。
少子高齢化が進み人材獲得が難しくなるなか、カウンターオファーは自社に必要な人材を確保するために有用な方法です。
カウンターオファーの交渉案
カウンターオファーは、昇給、昇進、部署変更などさまざまな場面で活用できます。ここではよく使われる交渉案を紹介します。
年収を上げる
社員が年収に関して不満を抱いているなら、労働環境はそのままで年収を上げる提案が有効です。昇給はカウンターオファーのなかでもよく使われる提案で、労働に見合わない年収だと感じている社員や、会社から評価されないと感じている社員にとって年収アップの提案は効果的に響きます。また、他社から引き抜きの提案を受けている社員にも有効でしょう。
しかし昇給の提案にはリスクがつきものです。社員に支払う給与の予算が決まっているなら、別の社員の給料で調整しなければなりません。予算と給与体系を考慮しながら組織全体のバランスを保つ必要があります。
また昇給は本来、社員のパフォーマンスや成果に基づいて行われるものです。「退職したいと言ったら昇給してくれた」と公言された場合、ほかの社員が不満を感じ、同様の行為をする社員が出てくるかもしれません。離職を止める一時的な措置にならないように、昇給する際には公平で透明性の高いプロセスを導入しましょう。
昇進により裁量権を増やす
成長意欲や自己管理能力の高い社員やリーダーシップに長けた社員、結果志向の社員には、昇進で裁量権が増える提案が魅力的でしょう。カウンターオファーの際には、新たな挑戦やプロジェクトの参加など刺激的な仕事の提案をするとより効果的です。
ただし、昇進は昇給を伴うケースもあるので、慎重な検討が必要となります。前提として、その社員が昇進に値するポテンシャルを持っていなければなりません。たとえば、ほかのメンバーを指導してチームやプロジェクトを成功に導く力量やコミュニケーション能力、問題解決能力、責任感などです。
昇進の提案をする場合は、社員が所属している部署の上司にもヒアリングを行い、組織や役割の要求にあてはまるか、昇進により社員の成長が見込めそうか確認しておきましょう。
配属部署の変更
現在の部署の人間関係や働き方に不満を持っているなら、配属部署の変更が有効です。離職を申し出た社員が別の部署への異動を希望しているのなら、その願いを叶えて退職を引きとめると良いでしょう。
配属部署を希望する社員には何かしら理由があるはずです。上司や同僚との人間関係かもしれませんし、現在の部署ではスキルを活かしたり理想のキャリアパスが実現できないと考えているのかもしれません。もしくは家庭内の事情により、ワーク・ライフ・バランスを重視した部署を考えているケースもあるでしょう。現在の部署に対するモチベーションが低下した理由を確認してから、適した部署を提案できると効果的です。
また配属部署の変更に関しては、配属先の受け入れ態勢を整えてから提案する必要があります。異動先の部署に、受け入れの意思と能力があるか確認しておきましょう。配属が決まったら、オンボーディングプロセス(新人研修や導入システム)を通じて社員がスムーズに新しい部署になじめるようにサポートします。
雇用形態の変更
もしも離職希望者が契約社員やパートなら、雇用形態を正社員に変更するというオファーは魅力的なはずです。正社員になれば、待遇も良くなり経済的な安定性も高まります。また福利厚生も充実するので、そのまま企業に留まろうと考えるかもしれません。
契約社員やパートでなくても、雇用形態の変更を望むケースもあります。正社員が親の介護や出産・育児などの理由でフレキシブルな雇用形態を求める場合です。出勤時間や退勤時間を定めないフレックスタイム制度の導入や、リモートワーク、プロジェクトベースの業務形態などを社員の希望に合わせて提案しても良いでしょう。
雇用形態の変更を行う際には、労働法や雇用契約に関連する法律に注意しなければなりません。法的な規制や要件に従って雇用形態を変更し、法的リスクを回避する必要があります。
カウンターオファーを成功させる4つのポイント
一度退職を検討した社員に対してカウンターオファーは必ずしも成功するわけではありません。社員の不満を取り除き自社に留まってもらうためのポイントを4つ解説します。
1.交渉前に退職・転職の理由を聞く
交渉前に退職や転職の理由を聞くのは、カウンターオファーの一般的なアプローチです。退職を申し出る社員は、企業や組織に対してなにかしらの不満を抱えています。不満な点を聞き出すことにより適切な対処ができるでしょう。個別の状況やニーズが理解できれば、社員にとって魅力的なカウンターオファーを提示できます。
転職・退職の一般的な理由には、キャリアの成長、給与や福利厚生、ワーク・ライフ・バランス、人間関係が上げられます。それぞれの理由ごとに適したカウンターオファーを選択しましょう。
2.交渉内容を書面で残す
カウンターオファーの内容を書面で残せば、誤解を防げるだけでなく、トラブルが起きた際にも役立ちます。せっかく交渉して社員が退職を踏みとどまっても、企業側が交渉内容を実行しなければ社員は憤りを感じて、再び退職や転職を検討するかもしれません。口約束ではないと信用してもらうためにも、交渉内容を書面で残しましょう。
カウンターオファーを文書化する際の形式は特に定められていません。基本事項は組織名、住所、連絡先事項、日付、従業員氏名、役職、所属部署などです。まずカウンターオファーの目的を明確にし、次に提案内容を記載します。給与、ボーナス、福利厚生、昇進、役職の変更、地価の責任やプロジェクト、教育や研修のサポートなど、社員が魅力に感じるカウンターオファーを提示できると、成功率が上がります。誤解が生じないように、具体的な条件を記すのがポイントです。
またカウンターオファーへの回答の有効期限も設けましょう。その場で返答できない社員も多いため、検討する時間と締め切りを設定しておくと良いです。
3.カウンターオファーの内容を広めない
カウンターオファーは、優秀な社員の流出を止める有効な手段です。しかし「辞めたいと伝えると、良い条件に変更してもらえる」という噂が社内に流れると、悪しき前例となってしまいます。また一部の社員だけの待遇改善が知れ渡ると、人間関係の悪化やほかの社員のモチベーション低下を招くかもしれません。カウンターオファーの際には、口外のリスクを最小限におさえましょう。
カウンターオファーについて口外しないように交渉時に伝えることが必須です。しかしそれだけでは、口外禁止を完全に保証するのは難しいでしょう。もしもリスクを減らしたいのであれば、機密保持契約を締結する、社内ルールに明記するなどの措置を検討しても良いかもしれません。
4.カウンターオファー後もフォローを続ける
退職や転職を一度検討した社員は、新たな不満を抱くと再び辞めようとする可能性があります。そのため会社に居づらいと感じていないか、交渉内容に満足しているか、定期的にフォローしましょう。
どのようなアプローチをするかは、その社員に適したものを選ぶと良いです。定期的なヒアリングで社員の懸念や要望に向き合うのも一つの方法ですし、研修や育成でキャリア支援をするのも効果的です。
カウンターオファーは、社員が将来の目標を持ち長期的なキャリアプラン形成をするきっかけとならなければなりません。再びモチベーションが低下しないよう、フォローを続けましょう。
カウンターオファーをする前に知っておきたい注意点
社員を強引な方法で引きとめようとすると、パワハラで訴えられる、法律に触れるなどの危険があります。カウンターオファーをする前に、社員に対して避けるべき言動を確認しましょう。
パワハラに該当するかもしれない注意すべき言動は、次のとおりです。
- 脅迫や威嚇に準じる言動をする
- 社員の評判や名誉を傷つける
- 意図的に仕事の量を増やす、ムリな要求をする
- 嫌がらせでチームから外すなど無視をして、孤立させる
- 人種や性別、宗教などで差別する
社員には会社を辞める権利があり、会社は退職希望があった際には拒否できません。企業側の事情も分かりますが、「後任が見つかるまで辞めてはいけない」のような退職を拒否する発言は好ましくありません。また給料や退職金の減額、有給休暇の取得拒否などもパワハラに該当します。
カウンターオファーをせずに離職を防止する方法
離職を防ぐ方法はカウンターオファーだけではありません。カウンターオファー以外に、どのような方法で社員を引きとめられるのか解説します。
社員全員の労働環境・待遇の改善
カウンターオファーで一人を引きとめても、不満を生むような温床があれば、ほかにも退職や転職を考える社員が出てきます。根本的な改善を行いたいなら、企業全体の労働環境や待遇を見直しましょう。
社員の満足度を高める施策例を紹介します。
- 給与やボーナスを上げる
- 短時間勤務の導入
- フレックスタイム制の導入
- 有給休暇の推進
- 公正で透明性の高い給与体系への見直し
社員のモチベーションが高まればポジティブな社風が形成され、チームワークも高まります。また魅力的な労働環境や待遇なら、採用活動でも優秀な人材を惹きつけられるかもしれません。
社員全員の労働環境や待遇改善には離職率を下げる以外にもさまざまなメリットがあります。
社員同士のコミュニケーションの活性化
社員間のコミュニケーションを活性化させ、協力体制を高めましょう。社内の雰囲気が良くなれば、社員のモチベーションも高まり離職率を下げられます。
厚生労働省の雇用動向調査結果の「離職理由」をみると、自己都合退職した方の17.7%が「人間関係がうまくいかなかったから」を退職理由にあげています。これは退職理由のなかでも上位となっており、働くにあたって人間関係がいかに重要かが伺えます。
※出典:「表 15 性・年齢階級・現在の勤め先の就業形態、離職理由別転職者割合」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/6-18c-h27-2-02.pdf)
社員同士のコミュニケーションを活性化させるには、定期的なチームミーティングや進捗報告会、1on1ミーティング、社内イベントなどが効果的です。またチャットツールや社内SNSのようなデジタルコミュニケーションツールを活用して、連絡を取り合うのも良いでしょう。
スキルアップ支援の仕組みを構築
「この会社ではキャリアアップできない」「新しいことに挑戦できない」と感じるとモチベーションは低下します。社員が新しく挑戦できる環境を整え、社内での地位向上をサポートしましょう。
スキルアップ支援の内容には、次のようなものがあります。
- 外部の講師やコンサルタントを呼んだ研修プログラム
- オンライン教育
- 上司や経験豊富な社員からのフィードバックやアドバイス
- 外部研修への参加
- プロジェクト参加の機会提供
- 自己学習のサポート
社員一人ひとり、スキルやキャリアアップの目標は異なります。そのため一律に同じ研修を社員全員に課せません。個別にスキルアップ支援の計画を立てるのが成功の秘訣です。またスキルアップ支援はマネジメント層も対象になります。
カウンターオファーを効果的に利用して離職率に歯止めをかけよう
カウンターオファーは、退職・転職の申し出をした社員を引きとめるために、有効な手段です。成功すれば優秀な社員の流出を防ぐだけでなく、新規採用や育成などにかかるコストや時間の削減になります。またポイントをおさえれば、カウンターオファーの成功率も上がります。
しかしカウンターオファーは、一時的な解決策になりやすいので注意が必要です。社員に長期的に活躍してもらうためには、引きとめたあともフォローしなければなりません。同様の退職希望者を出さないためにも、カウンターオファーと並行して社員の満足度を上げる根本的な対策も検討していきましょう。
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