採用活動の選考過程では、求職者を評価するために面接評価シートを活用するのも手段の一つです。
面接評価シートを活用すると、企業にとってさまざまなメリットがあります。しかし、導入にはデメリットもあるため、事前に把握して対策しておくことも大切です。
そこで本記事では、面接評価シートの基礎知識や活用するメリット・デメリット、作成手順を解説します。自社で導入する際に役立ててください。
面接評価シートとは
「面接評価シート」とは、面接官が求職者を評価するために、評価項目と評価基準をまとめたチェックシートのことです。面接の際に面接官がシートの評価項目に沿って質問し、評価した点数を記載する仕組みです。
項目や基準を事前に決めておくとスムーズに面接を進められるだけでなく、求職者を適切に評価できます。
ただし、すべての企業が共通して使用できるシートは存在しません。企業によって求める人物像や採用基準が異なるため、自社独自のシートを作成する必要があります。
Google等の有名企業が導入する「構造化面接」でも、まずは自社の採用要件を明確にした上で評価基準や質問を決めています。構造化面接について詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。
面接評価シートを導入するメリット
選考に新たな要素を追加する場合、作成や面接官への周知などの手間がかかると考える担当者もいるかもしれません。しかし、ひと手間かけてでも、面接評価シートを導入するメリットがあります。
面接官の評価基準を統一できる
評価基準が曖昧な場合、面接官によって評価にバラつきが生じる可能性があります。面接評価シートを導入すると評価基準が明確化されるため、面接官による評価のバラつきを解消できます。
面接では、人事・現場・役員などの複数の立場の面接官が担当するケースも珍しくありません。面接評価シートに沿って面接を進めることで、面接官のポジションごとに判断するポイントを明確にすることが可能です。
質問の聞き漏れを防止できる
通常、求職者一人当たりにかける面接の時間は限られています。面接評価シートがない場合、質問数が多いと聞き漏れが起きるリスクがあります。聞き漏れが起きた場合、再度面接の機会を設けるのは難しくなってしまいます。
その点、面接評価シートが手元にあると評価項目に沿って質問できるため、聞き漏れを防止できるでしょう。ただし、面接がテンプレート化されたものとならないよう注意を払う必要があります。
求職者の本音を引き出す質問例について詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。
採用担当者同士で情報共有できる
採用活動には、面接官以外の従業員も関わることがあります。たとえば適性試験に関わる従業員もいれば、書類選考をメインに担当する従業員もいます。求職者の合否は、選考に関するさまざまな要素を見て総合的に判断されるケースがほとんどです。
自社が求める人材を見極めるには、すべての担当者が一人ひとりの求職者に対する情報を共有することが大切です。
そこで面接評価シートを活用すれば、履歴書や職務経歴書だけでは把握しきれない求職者の評価内容を可視化できるため、採用担当者同士で情報をスムーズに共有できるようになります。
評価基準の見直しに役立つ
自社が求める人材が集まりにくいときには、評価基準を適時見直すことが求められます。面接評価シートは評価の判断に対するエビデンスになるため、次回からの評価基準を見直す際に役立ちます。
また、データとして蓄積された面接評価シートの内容をもとに、前年度を振り返ることで、次年度の採用活動に活かすことも可能です。担当者ごとの評価傾向を分析すれば、面接官の育成にも活用できます。
面接評価シートを導入するデメリット
面接評価シートには質問の聞き漏れを防止できる、評価基準の見直しに役立つといったメリットがあります。その一方でいくつかのデメリットもあるため、自社で導入する際には何らかの対策をしておきましょう。
一部の求職者を高く評価してしまう恐れがある
評価項目の数が多いと確認や点数をつけることが目的となり、限られた面接時間のなかですべての求職者を適切に評価できなくなる可能性があります。
求職者のなかにはすでに多くの選考に参加し、面接慣れしている人もいるかもしれません。面接慣れしている求職者はスムーズな受け答えをする傾向にあるため、通常よりも高く評価してしまう恐れがあります。
すべての求職者をできるだけ公平に評価するには、面接官がメモを残せる自由評価項目を面接評価シートに盛り込むことができます。面接官が評価項目だけに気を取られるのを防ぎ、評価項目では見抜けない内容をメモとして残しやすくなります。
求職者の潜在的な能力やスキルの見極めが難しい
事前に決められた評価項目と評価基準に沿って面接を進めていくと、評価が数値化しやすい傾向にあります。評価が数値化すると、求職者の潜在的な能力やスキルまでを深掘りできない可能性があります。
とくに潜在的な能力は、数値化された評価では見極めが難しいのが現状です。評価項目ごとにメモ欄を用意し、数値以外でも評価できるようにすると、求職者が自社の求める人物像かを見極めやすくなります。
また質問に自由度を持たせて、定性的な判断ができる余白も残しておくことも必要でしょう。その際は「あなたにとって仕事の価値とはなんですか?」といった抽象度の高い質問、正解がなく個々の思考性が問われる質問が効果的です。
面接評価シートの作成手順
面接評価シートの基本的な作成手順は、次のとおりです。
- 自社が求める人物像を明確にする
- 評価項目を決める
- 評価基準の点数を決める
それでは、各手順を詳しく解説します。
1.自社が求める人物像を明確にする
評価項目や評価基準は、求める人物像によって異なります。面接評価シートを作成する際には、まず自社が求める人物像を明確にしましょう。
必要な能力やスキルは業務内容や職種によって異なるので、現場の従業員にもヒアリングをして人物像を固めていきます。
求める要素や優先したい条件を明確にしておくと、自社が求める人物像をより見極めやすい面接評価シートを作成できます。
2.評価項目を決める
評価項目は、事前に明確化した自社が求める人物像に沿って決めましょう。評価項目の例は、次のとおりです。
- 求職者情報
- 身だしなみ
- 視線・表情
- 話し方や声の大きさ
- 志望動機
- 自己PR
- 成功体験
- 失敗体験
- 主体性
- 行動力
- 課題発見力
- コミュニケーション能力
- 向上心
- ストレス耐性
- 志望度
- パーソナリティ など
特定の職種の人材を採用する場合、適した経験やスキルを持っているかは重要なポイントになります。
また、求職者が自社の求める人物像とマッチしていても、志望度が低ければ、内定辞退や早期離職につながりかねません。同程度の評価を受けた求職者が複数いる場合は、志望の度合いが合否に影響するため、評価項目に入れておきましょう。
3.評価基準の点数を決める
評価項目を決めた後は、それぞれの評価基準を設定しましょう。評価基準は、3段階や5段階の数字で当てはめる方法があります。たとえば5段階の場合、中央値となる3の基準を明確にしておくと、面接官ごとの評価のズレを防ぐことが可能です。
評価基準と併せて、合格ラインも決めましょう。合格ラインは合計点が〇点以上、評価2が〇個以上で不合格など、きちんと線引きすることが重要です。面接官によって評価基準に沿った評価がおこなわれても、線引きが曖昧だと合否の判断が難しくなります。
面接評価シートの作成ポイント
最後に、面接評価シートの作成ポイントを解説します。
新卒採用と中途採用はシートを分ける
新卒採用と中途採用では、評価ポイントが異なります。新卒の求職者は社会人経験がないため、ポテンシャルやパーソナリティを重視する必要があります。一方の中途採用の求職者は社会人経験があるため、スキルや能力が重要な評価ポイントです。
新卒と中途では重視する評価ポイントが異なるため、評価項目や評価基準をそれぞれの求める人物像などに合わせて設定する必要があります。
ただし、人物像やコンピテンシーなど、会社のカルチャーにフィットするかを判断する項目は、新卒と中途の両方に取り入れたほうがよいでしょう。
評価項目数は最低限にとどめる
面接は限られた時間のなかでおこなわれるため、面接評価シートの内容は時間内に終えられるように作成する必要があります。項目数が多い場合、時間内にすべてを評価することが目的になりがちです。
その結果、適切に評価できず、自社が求める人材を見抜けない可能性があります。面接官が求職者の人物像を適切に評価するためにも、項目数は最低限にとどめ、コミュニケーションの時間を十分に確保できるように調整しましょう。
優先度が高い項目を決めておく
面接評価シートを作成する際には、評価項目に優先順位をつけておきましょう。たとえば特定の職種の場合、人材要件をどの程度持ち合わせているかを評価する項目の配点比重を上げる方法があります。
募集職種が複数の場合は、資格やスキル、経験などに応じて配点比重を変えましょう。優先順位によって配点比重を変えておけば、合格ラインに達した求職者が複数いるときでも、合否の判断がしやすくなります。
評価基準は言語化する
面接評価シートを活用するメリットの一つは、面接官による評価のバラつきを解消することです。しかし、評価基準を決めても、すべての面接官が同じ評価になるとは限りません。
面接官によって評価基準に対する認識が違えば、評価のバラつきが解消されない可能性があります。そのため、評価基準はできるだけ言語化し、誰が担当してもなるべく同じ評価になるようにしましょう。
面接評価シートを活用して優秀な人材を獲得しよう
採用活動における面接では、限られた時間内で求職者の人物像を見極める必要があります。求職者を公平かつ適切に評価するためには、面接評価シートの活用が効果的です。
自社が求める人物像に沿った評価項目と評価基準を決めると、面接官による評価のバラつきが解消されて、優秀な人材の獲得につながります。面接評価シートを作成したあとはデータを蓄積し、必要なときに評価項目や評価基準を見直せるように管理しておきましょう。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。