ホワイトカラーエグゼンプションは労働賃金を時間ではなく成果で評価して決める制度です。日本では高度プロフェッショナル制度として導入され、近年推進されている働き方改革の一貫として働き方改革関連法案でも提示されています。
本記事では、ホワイトカラーエグゼンプションが企業にどのような影響を及ぼし、どのように企業の生産性に寄与するかなどを詳しく説明します。ホワイトカラーエグゼンプションへの理解を深める参考としてご覧ください。
※本記事の参考元:「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」厚生労働省
ホワイトカラーエグゼンプションとは
まずは、ホワイトカラーエグゼンプションが一体何なのか、その定義と特徴、生まれた背景について詳しく説明しましょう。
成果に対して賃金を支払う制度
ホワイトカラーエグゼンプションとは、実際の就労時間ではなく成果に対して賃金が支払われる制度のことを指します。1938年にアメリカで生まれ、近年では欧米圏で一般的な考え方となりました。
この制度は一定要件を満たす労働者に対し、残業による割増賃金を支払う義務を除外(エグゼンプション)する制度として発足しました。対象者の多くがホワイトカラー(製造業や建設業などを除くオフィスワーカー)であったことが、ホワイトカラーエグゼンプションという名称の由来です。
ホワイトカラーエグゼンプションを導入すると、給与額の基準が成果に依存するようになるため、成果次第では6時間労働でも8時間労働でも同じ給与を支払うことになります。
また、労働時間の規制がなくなるため、就労時間が長くなる、あるいは短くなるというような現象も想定されます。労働者の側は労働時間の規定に縛られず、自分で労働時間を決められる一方で、労働時間に関する法的保護は受けられなくなります。
欧米におけるホワイトカラーエグゼンプション
原型となる制度がアメリカで生まれたことや、「欧米企業は成果主義」という話がビジネスシーンで聞かれることからも分かるように、ホワイトカラーエグゼンプションはアメリカやドイツ、フランスなどの欧米諸国で広く導入されています。
ホワイトカラーエグゼンプションの対象者は年収によって規定されますが、欧米諸国では年収要件が日本より低く設定されているため、より幅広い労働者がこの制度の適用対象となっています。
最もホワイトカラーエグゼンプションが浸透しているのは発祥国アメリカです。対象者は反復的な労働に従事するブルーカラー(直接生産に携わる肉体労働者)以外で、管理的職員が対象となるドイツなどより広い適用範囲を持っています。
日本におけるホワイトカラーエグゼンプション
日本では、ホワイトカラーエグゼンプションをベースにした「高度プロフェッショナル制度」が働き方改革の一環として2019年4月に導入されました。この制度のもとでは、ベースと同様に労働時間ではなく成果に対する評価と報酬が重視されます。
導入背景には、長時間労働が評価される日本企業の伝統的慣習や、それを利用した生産性のない残業による残業代の獲得の問題視があります。はじまりは古く、2005年に経団連がホワイトカラーエグゼンプションの導入を提案したことでした。
2007年にはホワイトカラーエグゼンプション制度の導入が第一次安倍内閣により検討されましたが、労働問題への懸念などから法案提出は断念されています。2019年、長時間労働の抑制などを盛り込んだ働き方改革関連法案の一つとして成立しました。
成果を重要視することや、就労時間や残業代の規定は欧米のホワイトカラーエグゼンプションと同様です。しかし、労使間の合意が必要なことや、年次有給休暇の規定は通常の労働者と同条件で適用されることが本制度の特徴です。
高度プロフェッショナル制度の対象・条件
高度プロフェッショナル制度は、日本におけるホワイトカラーエグゼンプションとも言える制度です。しかし、欧米のものとは異なる点も多いため、制度の対象や条件を詳しく把握しておく必要があります。
ここでは、高度プロフェッショナル制度の適用を適用できる対象・条件を解説します。
対象となる業務
高度プロフェッショナル制度の対象となるのは、高度な専門知識を必要する業務です。「時間をかければかけるほど成果が上がる」とされるようなものとは異なる仕事を行う労働者にのみ、制度を適用できます。
たとえば次のような業務を行う人が該当します。
- 金融商品の開発業務
- 金融商品ディーリング
- アナリスト業務
- コンサルタント業務
- 研究開発業務
これらの業務は専門的な知識とスキルが求められ、直接的な時間労働による生産性が限定されるため、成果に基づいた評価と報酬が適用されます。
また、業務の労働時間の具体的な指示を受ける場合は、制度の適用対象から除外されることに注意しましょう。
年収・労働条件
高度プロフェッショナル制度を適用する労働者は、年収が1,075万円以上(基準年間平均給与額の3倍以上に相当する金額)である必要があります。この年収規定は確実に支払われる必要があるため、賞与(ボーナス)は含んではいけません。
また、労働環境は4週間を通じて4日以上かつ、1年間で104日の休日の確保が義務付けられています。
加えて、対象業務に常態として従事していることが求められており、高度プロフェッショナル制度の対象となる業務以外の業務にも常態的に従事している場合は対象から外れます。たとえば、「対象となる業務」で紹介した業務と並行して、時間労働に比例して成果や報酬が規定される業務を行っている人は、高度プロフェッショナル制度の定期用は受けられません。
労使委員会の決議と対象者の同意が前提
対象業務と年収・労働条件などを満たしても、会社が一方的に労働者へ高度プロフェッショナル制度の適用を命じることはできません。対象労働者の同意や労使委員会の決議が前提となります。
実務上のプロセスは、次の流れで行うことになります。
- 労使委員会の設置
- 決議と届出
- 職務記述書の同意を労働者に求める
1.労使委員会の設置
まずは労使委員会の設置が求められます。労使委員会の設置要件は、次の条件で定められています。
- 労働者代表委員が半数を占めていること
- 委員会の議事録が作成され、保存されていること
- 事業場の労働者に周知が図られていること
制度の導入が労働者の利益に適合すると判断された場合、制度の導入プロセスを進められます。
2.決議と届出
労使委員会を設置したら、社内で導入する高度プロフェッショナル制度の内容について決議します。決議を取る対象は次のとおりです。
- 対象業務
- 対象労働者の範囲
- 対象労働者の健康管理時間を把握すること及びその把握⽅法
- 対象労働者に年間104⽇以上、かつ、4週間を通じ4⽇以上の休⽇を与えること
- 対象労働者の選択的措置
- 対象労働者の健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
- 対象労働者の同意の撤回に関する⼿続
- 対象労働者の苦情処理措置を実施すること及びその具体的内容
- 同意をしなかった労働者に不利益な取扱いをしてはならないこと
- その他厚⽣労働省令で定める事項(決議の有効期間など)
決議は所轄の労働基準監督署⻑に届出を行う必要があります。使用者である会社側が決議を届け出なければ、⾼度プロフェッショナル制度を導⼊できないため注意しましょう。
3.職務記述書の同意を労働者に求める
高度プロフェッショナル制度を適用したい労働者側へその旨を通知します。使用者側が労働者側に対し、業務の内容や責任の程度、求められる成果について明確に記載した職務記述書への同意を求めましょう。同意がなければ、労働者を高度プロフェッショナル制度の対象者にはできません。
同意を受けたら高度プロフェッショナル制度の対象者を業務につかせることができるようになります。会社側には、対象者の健康管理時間の把握や苦情の処理など、労働環境を維持・改善する義務があることも忘れないようにしましょう。
同意をしなかった労働者が不利益を被ることがないようにすることも制度内で定められています。また、同意者であっても制度適用を撤回する権利があります。
ホワイトカラーエグゼンプションを企業に導入する3つのメリット
ホワイトカラーエグゼンプションを企業に導入することで、次の3つのメリットが期待できます。
- 労働生産性の向上が期待できる
- 残業代を削減できる
- ワーク・ライフ・バランスの実現に寄与する
日本での厳密な名称は高度プロフェッショナル制度となりますが、得られるメリットは共通しています。それぞれの詳細を見ていきましょう。
労働生産性の向上が期待できる
ホワイトカラーエグゼンプションを導入することで、労働時間ではなく成果で評価するという考え方が前面に出るため、労働生産性の向上を期待できます。報酬が成果と直結しているため、短時間で質の高い成果を出せるようになるでしょう。
労働者のモチベーションを高めることにもつながるため、優れた人材が本来の能力を発揮しやすくなる環境づくりの一環にもなります。
残業代を削減できる
ホワイトカラーエグゼンプションを導入すると、時間外労働の概念が基本的になくなり、残業代が発生しなくなります。これにより企業は人件費を削減できます。
ただし、労働者の視点では事実上のサービス残業になる可能性があるため、労働者への配慮が必須となります。もし労働者と使用者双方が合意し導入すれば、残業のゼロ化は両者にとってメリットとなります。
高度プロフェッショナル制度は、労働者からの同意が求められる仕組みとなっているため、導入する際は、誠実で丁寧な説明を欠かさないようにしましょう。
ワーク・ライフ・バランスの実現に寄与する
労働者に対する労働時間の縛りが無くなるため、ワーク・ライフ・バランスを実現しやすくなります。
ホワイトカラーエグゼンプションの導入下では、対象の労働者は出社時間や退社時間、休暇のタイミングや在宅勤務の選択肢を自由に決められます。個々人の生活リズムやスタイル、事情にあわせた働き方の多様化にも対応できます。
労働者が生活と仕事の両立でワーク・ライフ・バランスを実現できれば、ストレスの解消やリフレッシュがしやすくなり、従業員自身の生産性も高めることにつながるでしょう。
ホワイトカラーエグゼンプションを企業に導入するデメリット
ホワイトカラーエグゼンプションの導入にはおもに次のデメリットがあげられます。
- 長時間労働の常態化
- 評価基準が難しくなる
- 社員の公平感に関するリスク
労働時間の規制がないため、自由に働くことができる一方、成果の達成に時間がかかる業務では、納期に追われたり評価が低下することを恐れて長時間労働に陥る可能性があります。
また、成果を基準とした評価基準は、業務の種類によっては難しいものになります。成果の定義を明確にし、公平な評価を行うために配慮が必要です。
さらに、自由な働き方や成果主義は、他の従業員にとって不公平に映る可能性があります。他の従業員が働いているのに制度適用者が自由な働き方をすることで、不満やモチベーションの低下が生じる恐れがあります。
ホワイトカラーエグゼンプションを導入する際は、これらのデメリットを事前に理解し、適切かつ公平な対策を講じることが重要となるでしょう。
ホワイトカラーエグゼンプションを運用する際のポイント
ホワイトカラーエグゼンプションを導入をする場合は、次の3つのポイントをおさえておきましょう。
- 労働者の健康状態を把握する
- 休日の取得を促す
- 選択的措置を実施する
後から思わぬリスクを抱えたり、トラブルが起きることを防げます。それぞれの詳細を見ていきましょう。
労働者の健康状態を把握する
長時間労働はホワイトカラーエグゼンプションの大きな懸念点であるため、労働者の健康状態の綿密な管理が求められます。労使委員会でも、健康・福祉確保措置に関する決議が必要です。
具体的には、対象の労働者の就労時間を把握し適切な時間管理を行うことが求められます。労働者側の自己申告では不正確な場合があるため、タイムカードや勤怠管理システムなどのツールで、客観的かつ正確な就労時間を把握することが大切です。
休日の取得を促す
使用者側から積極的に休暇を取るように促しましょう。対象の労働者が休暇を取っていない場合は休日を取得するよう忠告し、積極的に健康を守っていくようコミットすることが欠かせません。
高度プロフェッショナル制度では、最低年間107日以上、4週間で4日以上の休日を労働者に与えることが使用者に求められています。
ホワイトカラーエグゼンプションを導入したい会社は、労働者の休日取得状況を正確に把握し、適切な休息を確保するための対策を講じることのできる体制を構築するようにしましょう。
選択的措置を実施する
ホワイトカラーエグゼンプションを導入する企業は、次の選択的措置の実施が求められています。
- 勤務時間のインターバルの確保
- 健康管理時間の上限措置
- 1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること
- 臨時の健康診断
勤務時間のインターバルの確保では、始業から24時間を経過するまでに11時間以上の休息期間の確保が求められます。また、深夜業の回数制限(1カ月に4回以内)もあります。
健康管理時間(対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間の合計)措置では、1週間当たり40時間を超えた時間について、1カ月について100時間以内、または3カ月について240時間以内とすることが求められます。
1年に1回以上の連続2週間の休日を与える場合には、本⼈が請求した場合は連続1週間を2回以上をあたえることもできます。
臨時の健康診断は、1週間当たり40時間を超えた健康管理時間が1カ月当たり80時間を超えた労働者、または申出があった労働者が対象となります。
これらのなかから必要なものを労使委員会で決議し、導入しなければなりません。対象候補の労働者の意⾒を聴き、どのような措置を選択するか決定しましょう。
制度をしっかり理解して、ホワイトカラーエグゼンプションの導入を検討しよう
ホワイトカラーエグゼンプションは、労働時間の縛りを無くし、成果に対して賃金を支払う制度です。日本では高度プロフェッショナル制度という名称で制度化されました。対象となる業務や労働者の条件を把握して、導入を検討しましょう。
ホワイトカラーエグゼンプションの導入には労働生産性の向上を代表とするメリットがありますが、長時間労働などの懸念点もあります。使用者側は、対象の労働者の健康を維持するための措置を取るようにしましょう。
労働者と使用者である企業の両者がその制度やメリットとデメリットを理解し、相互的な同意ができれば、ホワイトカラーエグゼンプションは業務の効率化に大きく貢献します。
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