HR用語の基礎知識
ワーキングプアとは、言わば「働く貧困者」です。就労していても充分な収入を得られず、貧困状態にある労働者のことを指します。ワーキングプアは社会全体の問題でもあり、企業においてもこの問題解決のため、「同一労働同一賃金」や「ワークシェアリング」などの取り組みが求められています。
本記事では、ワーキングプアの詳しい意味や種類、ワーキングプアが生まれた原因と解決策を詳しく解説します。自社でできる取り組みを検討できるよう、国が行っている施策例や企業ができる対策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
「ワーキングプア」とは就労していても充分な収入を得られず、貧困状態にある労働者を指します。日本では明確な定義がありませんが、生活保護の水準である「年収200万円未満」・「月収17万円以下」が一つの基準となっています。
現在日本では、正社員としてフルタイムで働いていても、所得水準が生活保護の水準程度、もしくはそれよりも低い場合があります。そのため、「貧困状態から抜け出せない労働者=ワーキングプア」がいるのが実情です。
貧困状態の労働者には、アルバイトやフリーター、契約社員や派遣社員など非正規雇用の就労者も含まれます。
国税庁が取りまとめた「令和2年分の民間給与実態統計調査」のデータによると、日本の平均年収は430万円であり、年収200万円以下の人は全体の約2割という結果になりました。
男女別に見ると、年収200万円以下の男性は10.6%、女性は38.6%です。男女合わせると全体の22.2%となり、日本人の4~5人に一人は年収200万円以下のワーキングプアに該当することになります。
※出典:「令和2年分 民間給与実態統計調査」(国税庁)(https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2020/pdf/002.pdf)
日本でワーキングプアが注目され始めたのは、高度経済成長期の1965年です。東京都の中野区が実施した課税台帳の電算集計で「住民の1/4が生活保護水準以下で生活している」と発覚したことがきっかけとなりました。
その後、バブル経済が崩壊して非正規雇用の労働者が増加したことで、問題が顕在化したとされています。
ワーキングプアには大きく「高学歴ワーキングプア」、「中高年ワーキングプア」、「官製ワーキングプア」の3種類に分けられます。特徴や各ワーキングプアに陥る原因を詳しく解説します。
ワーキングプアには、懸念されている問題点があります。
それぞれの問題を詳しく見ていきましょう。
ワーキングプアによって少子高齢化が加速する恐れがあります。収入が低いために結婚や家庭を持てないケースや、たとえ結婚して家庭を持ったとしても子どもを育てるほどの余裕がないため、子どもを産めないといったケースもあります。
その結果、現在日本で深刻な社会問題となっている少子高齢化が、さらに加速してしまう可能性が問題視されています。
一度ワーキングプアになってしまうと貧困層から抜け出すのが困難で、子ども世代へも連鎖する可能性がある点も大きな問題です。
ワーキングプアの状態では経済的に常に余裕がありません。そのため、子どもの教育にもお金をかけられず、子どもが充分な教育を受けられなくなる恐れがあります。
低学歴で就職すると、就職しても収入が上がりにくかったり正規雇用で就職できなかったりする可能性が高まるため、子どももワーキングプアになるという負の連鎖が懸念されます。
非正規雇用が多い職業や専門的な知識・技術が必要とされにくいために給与が低い職業はワーキングプアのリスクが高いと言われています。たとえば次のような職業です。
専門知識が必要な職業でも、元々賃金設定が低い職種はワーキングプアになりやすいと言えるでしょう。
ワーキングプアが抱える問題に対して国が行っているおもな政策は次のとおりです。
それぞれの政策を詳しく解説します。
制度 | 概要 |
幼児教育の無償化 | 幼稚園や保育所、認定こども園などを利用する3~5歳児および住民税非課税世帯の0~2歳児までの子どもたちの利用料無料 |
義務教育の就学援助 | 経済的理由により就学が困難と認められる児童生徒の保護者に対する、市町村からの学用品や通学費などの支給支援 |
私立高校等の授業料減免 | 経済的理由から授業料の納付が難しくなった生徒に対する授業料軽減措置 |
高等学校等就学支援金 | 一定の収入額未満の世帯の生徒に対し、授業料に充てるための高等学校等就学支援金を給付 |
高校生等奨学給付金 | 所得が低い、または家計の急変などで経済的に困窮した場合、教育費の負担を軽減するために高校生等がいる低所得の家庭を支援 |
ワーキングプアを自社で生み出さないためには、次のような対策が有効です。
それぞれの対策について、現在、社会の貧困層向けにおこなわれている施策をもとに解説します。
第一に社員の給与を増やすことが、ワーキングプアの解消につながります。
給与を上げるには、会社の業績アップが必要です。業績を上げるには働き方改革や従業員の定着率向上など、さまざまな企業努力が欠かせません。
業績が上がれば給与を上げることができ、給与が上がれば従業員のモチベーションや企業への貢献意欲も高まります。モチベーションや貢献意欲が高まれば、業務効率や生産性が向上し、業績アップにつながりやすくなるでしょう。業績が上がれば従業員へ還元することもできるため、好循環が生まれます。
企業ができる対策としては、正規雇用の社員を増やすことも有効です。正規雇用の社員になる人は、非正規雇用の社員よりも昇給やスキルアップが望めるでしょう。雇用が安定し昇給できる可能性が出てくれば、従業員のモチベーションも上がり生産性やエンゲージメントも高まります。
また、厚生労働省では、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保である「同一労働同一賃金」に取り組む事業主に向けて、非正規雇用の社員を正規雇用にするための「キャリアアップ助成金」の支援を行っています。そのほかにも「働き方改革推進支援センター」では働き方改革に関する事業主向けセミナーを実施したり、労務管理の専門家による無料相談をおこなったりしています。
このような支援や補助金を利用して正規雇用の社員採用を増やすことも、ワーキングプアを解決する糸口となるでしょう。