HR用語の基礎知識
少子高齢化問題が深刻化している現在、働く人に対して家庭と仕事を両立できる環境を整えることが重要視されています。従来、仕事と家庭を両立できる環境が社会全体として整っておらず、出産や育児、介護などで就業を諦めなければならない状況に置かれていました。
しかし、深刻化する少子高齢化問題を解決するために、社会全体として仕事と家庭を両立させられる環境を整えなくてはなりません。
そこで政府は1991年に「労働者の仕事と育児や介護などの両立」を目的として育児・介護休業法を施行しました。
1991年の施行当初は、「子が1歳未満の労働者に対し、時短勤務、フレックス、始業就業時刻の変更などからいずれか一つを事業主が選択して措置する」という制度でしたが、その後2002年には対象者を「3歳未満の子を養育する労働者」とする制度に改正しています。
さらに2012年には、3歳未満の子を養育する労働者に対し、1日の労働時間を原則6時間とする短時間勤務制度を設けることが、すべての事業主に義務付けられました。そのため、従業員が希望を申し出れば、原則としてすべての企業で短時間勤務制度が適用されます。
※参考:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html)
育児による時短勤務を利用する場合、適用期間と対象者、対象外となる労働者は次のとおりです。
適用期間 | 法令上は子どもが3歳になるまで |
対象者 | 3歳に満たない子どもを養育する労働者 |
対象外 |
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ただし、企業によっては条件や期間に対する取り決めを緩和して、短時間勤務を認めているケースもあります。
※参考:厚生労働省「改正法の下での短時間勤務制度について」
介護を理由とした時短勤務制度を利用する場合、適用期間と対象者、対象外となる労働者は次のとおりです。
適用期間 | 対象家族一人につき利用開始の日から3年間で2回 |
対象者 | 要介護状態にある対象家族を介護する労働者 |
対象外 |
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介護による時短勤務の適用期間は、介護対象となる家族一人につき利用開始の日から3年間で2回までが最低基準です。これは最低基準であるため、企業によっては適用期間を延ばしたり、任意で回数を増やしたりすることもできます。
※参考:厚生労働省「短時間勤務等の措置について|介護休業制度」
時短勤務対象者の基本給を算出する際の計算式は、次のとおりです。
たとえば、通常の基本給が25万円で所定労働時間が8時間から6時間へ短縮された場合、「25万円×6時間÷8時間=18万7,500円」という計算になります。そのため、時短勤務対象者の1カ月の基本給は18万7,500円です。
この基本給に対して、社会保険料の天引きや各種手当の加算などを行い、実際に支払う給与金額を決定します。
時短勤務の従業員が所定外労働をした場合や、休日・深夜労働をした場合の給与計算式は次のとおりです。所定外労働とは企業が定める労働時間を超えた労働のことで、一般的な「残業」に当たります。
【所定外労働の場合】
【時間外労働・休日労働・深夜労働の場合】
この場合の基礎時給は、「月給÷月の平均所定労働時間数」で算出します。なお、割増率は労働基準法で定められた割合で計算します。
時間外労働、休日・深夜労働とされる条件と、労働基準法に基づいた割増率は次のとおりです。
種類 | 条件 | 割増率 |
時間外 (時間外手当・残業手当) |
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合 | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1カ月45時間、1年360時間等)を超えたとき | 25%以上※1 | |
時間外労働が1カ月60時間を超えたとき※2 | 50%以上※2 | |
休日(休日手当) | 法定休日(週1日)に勤務したとき | 35%以上 |
深夜(深夜手当) | 22時~5時までに勤務したとき | 25%以上 |
※1:25%を超える率となるように努める
※2:中小企業については2023年4月1日から適用
時差出勤制度とは、勤務時間は変えずに勤務する時間帯を前後にスライドさせる制度のことです。出勤時間を変更するだけであり、従業員の勤務時間には影響がありません。
たとえば、時差出勤制度で「出社時刻は8時~10時の間」とする場合、従業員の出勤・退勤時刻は次のようになります。
【所定労働時間が8時間(休憩1時間含む)場合の時差出勤】
時差出勤は、育児や介護の都合に合わせて出社や退社時刻を調整できるだけでなく、通勤ラッシュの緩和やラッシュ時の従業員のストレス緩和にも役立ちます。
時短勤務の従業員も雇用形態は「正社員」です。正社員とは、雇用期間を定めずに労働契約を結んだ労働者のことを指します。
なお、育児・介護休業法で規定されている時短勤務制度は「短時間正社員制度」の一部です。育児や介護以外の理由でも、次の条件に該当すれば短時間正社員制度が適用されます。
所定労働時間が6時間未満の場合、休憩時間を与えることは定められていません。そのため、勤務時間が6時間未満の場合は休憩時間がなくても問題ありませんが、6時間を超える場合、8時間以下までは少なくとも45分の休憩時間が必要です。
なお、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えることが労働基準法で定められています。
就業条件が所定労働時間が週30時間以上・週5日以上であれば、基本日数の有給休暇を付与する必要があります。
有給日数は、所定労働時間ではなく労働日数によって決まります。週5日出勤している時短勤務者の場合、有給休暇の日数はフルタイム正社員と同じです。
なお、所定労働時間が週30時間未満で、労働日数が週4日以下の場合の有休付与日数は次のとおりです。
週所定 | 1年間の所定 | 勤務年数 | ||||||
労働日数 | 労働日数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年 |
週4日 | 169日から216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
週3日 | 121日から168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
週2日 | 73日から120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
週1日 | 48日から72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
時短勤務制度を利用する前から社会保険に加入していた社員の場合、引き続き適用対象となります。
時短勤務制度を利用している従業員が新たに社会保険加入の申請を行った場合は、次の条件を満たすと適用が認められます。
なお、時短勤務への変更時の社会保険料は、申請により減額できます。