近年では、労働人口の減少により、従業員一人当たりの業務量と負担に悩んでいる企業が増加しています。また、さまざまな理由から退職する従業員が増加し、人手不足が問題となっています。
このような状況に対処するためには、職場環境を改善し、働きやすい環境を作ることが大切です。その解決策として注目されているのがワークシェアリングです。
この記事では、ワークシェアリングとは何か、なぜ注目されているのか、どのような利点があるのかを説明します。ぜひ参考にしてください。
ワークシェアリングとは
「ワークシェアリング」とは、一つの業務を複数人で分担する取り組みのことです。負担が多い業務を、リソースに余裕がある従業員や新たに採用した従業員に振り分けます。欧米では、「ジョブシェアリング」と言われることもありますが、意味は同じです。
ワークシェアリングのおもな目的は、従業員の負担軽減と雇用創出にあります。
近年は少子高齢化に伴う労働人口の減少により、人手不足を課題に抱える企業が増えています。人材が不足している企業では、従業員一人当たりの業務負担が増加しやすく、その結果、長時間労働や休日出勤など労働環境の悪化を招いているケースもあります。労働環境への不満により、離職を決断する人も少なくありません。
この点、ワークシェアリングを導入することで、従業員一人当たりの業務負担を軽減でき、労働環境の改善につなげられます。さらに、業務に関わる人員の枠を適切に調整することで新たな雇用も創出できるでしょう。
ワークシェアリングが注目されている理由
ワークシェアリングは、1970年から1980年代にヨーロッパを中心に始まり、日本では2000年代に普及し始めました。その背景には、経済情勢や社会情勢などの影響が深く関係しています。
国が推進する働き方改革への対応が求められたり、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が出たりしたことから、従来の働き方では持続的な成長の実現が難しくなりつつあります。さらに近年はワーク・ライフ・バランスを重視するニーズが高まり、働き方に対する価値観が多様化しています。
企業にはこのような状況への対応が求められており、昨今では、時間外労働の削減や長時間労働の是正に取り組む企業が増えています。
株式会社学情の「「働き方改革」に関する企業調査(2023年4月)」でも、働き方改革として「時間外労働の削減」「有給休暇取得の推奨」「長時間労働の是正」など、労働環境の改善に取り組んでいる企業が多いことがわかっています。
働き方改革で取り組んでいること |
割合 |
時間外労働(残業)の削減 |
85.0% |
有給休暇取得の推奨 |
84.0% |
長時間労働の是正 |
71.8% |
男性の育休取得支援 |
50.7% |
テレワークの実施 |
43.5% |
労働生産性の向上 |
41.8% |
時間単位の有給休暇の取得 |
28.6% |
フレックスタイム制の導入 |
22.1% |
多様な人材の採用・活用 |
21.4% |
兼業・副業の解禁 |
12.9% |
インターバル制度の導入 |
8.8% |
兼業・副業人材の受け入れ |
4.1% |
フルリモート制度の導入(居住地自由) |
2.7% |
週休3日制の導入 |
1.0% |
そのほか |
2.7% |
※出典元:「「働き方改革」に関する企業調査(2023年4月)」(https://service.gakujo.ne.jp/wp-content/uploads/2023/10/230410-comenq.pdf)
ワークシェアリングは、従業員の業務時間や業務負担を減らす施策として効果的です。このような理由から、近年多くの企業が注目を集めています。
ワークシェアリングの4つのタイプ
ワークシェアリングは、目的に応じて雇用維持型・雇用創出型・緊急対応型・多様就業型の4つのタイプに分類されています。
タイプ1.雇用維持型
雇用維持型は、長時間労働への対応が難しくなる中高年層の雇用を守ることを目的に、一人当たりの労働時間を短縮して雇用を維持する手法です。中高年層とは、おもに企業を定年退職した従業員を想定しています。具体的には、定年延長や再雇用などの取り組みが当てはまります。
知識や経験が豊富な中高年層は、企業にとって貴重な戦力です。雇用維持型を導入することにより企業はベテラン人材の早期リタイアを防止し、さらに後任の育成にもつなげられます。
また、近年は、定年退職後も働くことを希望する中高年層が増えています。雇用維持型のワークシェアリングなら、中高年層のニーズに応えることができ、またより働きやすい労働環境を整備することにもつながります。
タイプ2.雇用創出型
雇用創出型は従業員の業務負担の軽減を目的に、新たな人材を採用する手法です。休職者の業務を新たに採用した従業員に分担することで、既存の従業員だけに負担がかかるのを避けます。
また、休職者の雇用を維持しつつ新たな雇用も生み出す方法も雇用創出型に該当します。休職者に対しては、退職を防ぐためにも雇用を維持することが必要です。休職者が復帰した場合を想定し、雇用創出型では短時間勤務の非正規雇用労働者を採用するケースが多いようです。
タイプ3.緊急対応型
緊急対応型は従業員の雇用維持を目的に、企業の業績が悪化した場合の緊急的な措置として活用できる手法です。急激に仕事量が減少した際に、不要になった人員の解雇ではなく従業員同士で仕事を分担し、労働時間を短縮することで雇用を維持する目的があります。休日日数を増やすことも取り組みの一つです。
コロナ禍で多くの企業が経験したように、急激な景気悪化や社会情勢の変化など、不測の事態が起こると従業員の雇用の維持が難しくなることがあります。このような場合、緊急対応型を導入すると人材の流出を防ぐことができ、経営状態が回復したあとで業務の建て直しをスムーズに図ることができます。
タイプ4.多様就業型
多様就業型は柔軟な働き方を実現することを目的に、介護や育児などで勤務の継続が難しかった人材の雇用を維持する手法です。たとえばフルタイム勤務が難しい従業員に対し、時短勤務やパートタイムなどの働き方の選択肢を増やす方法があります。
近年はライフスタイルの変化により、共働き世帯が増えています。その一方で、家庭の事情によって退職を余儀なくされる人も少なくありません。
従業員が離職することなく、介護・育児と仕事を両立するためには、多様な働き方の導入が必要です。企業が多様就業型の取り組みとして時短勤務やテレワーク、フレックスタイムなどを導入すると、介護や育児に追われている従業員の雇用を維持することが可能となります。
ワークシェアリングの導入で期待できる効果・メリット
企業がワークシェアリングを導入すると、従業員には業務負担の軽減や雇用維持などのメリットが、企業側には生産性の向上やコストの抑制などの効果が期待できます。
従業員の満足度向上
ワークシェアリングを導入すると従業員の心身の負担軽減につながるほか、「緊急事態が発生しても雇用が守られる」という安心感を与えられます。
ワークシェアリングによって従業員の長時間労働を避けられ、ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい環境を整えることが可能となります。
経営状態が悪化した際も、企業が緊急対応型のワークシェアリングで雇用の維持に努める姿勢を見せることで、エンゲージメントの向上も見込めるでしょう。
生産性の向上
業務を複数人に振り分けることで、過剰に業務を抱えていた従業員の負担が減り、心身ともに余裕のある状態を生み出すことができます。
該当する従業員は余剰リソースを活用し、本来やるべき業務に集中できるため、生産性の向上が見込めるでしょう。
コストの抑制
雇用維持型の多様就業型ワークシェアリングは、人件費や採用コストの抑制効果が期待できます。一人当たりの仕事量を減らすことで従業員の残業や休日出勤も減るため、その分の人件費が削減できます。また時間外労働をする従業員が減ると、オフィスの光熱費も節約できるでしょう。
既存従業員の労働環境が改善され定着率が高まれば、新しい人材を補填する必要もなくなるため、新たな人材採用にかかるコストも抑制できます。
企業ブランディングへの寄与
ワークシェアリングの導入は、「従業員のために多様な働き方に対応している企業」という印象を持ってもらえます。ブランディング効果によって企業価値が高まり、従業員満足度が高い企業として注目を集めると、自社への応募者が集まりやすくなるでしょう。
近年は、多様な働き方を求める求職者が増えています。あさがくナビの「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(フレックスタイム制)2023年7月版」では、フレックスタイム制を導入する企業に魅力を感じると回答した20代が8割を超えたことがわかっています。
フレックスタイム制を導入する企業は魅力を感じますか? |
割合 |
魅力を感じる |
55.8% |
どちらかと言えば魅力を感じる |
28.8% |
どちらとも言えない |
12.7% |
どちらかと言えば魅力を感じない |
1.2% |
魅力を感じない |
1.5% |
フレックスタイム制を導入する企業に対して志望度が上がると回答した20代は約7割という結果でした。
フレックスタイム制を導入する企業は志望度が上がりますか? |
割合 |
志望度が上がる |
35.4% |
どちらかと言えば志望度が上がる |
34.6% |
どちらとも言えない |
25.4% |
どちらかと言えば志望度は上がらない |
2.7% |
志望度は上がらない |
1.9% |
※出典元:「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(フレックスタイム制)2023年7月版」(Re就活)(https://service.gakujo.ne.jp/wp-content/uploads/2023/10/230714-rekatsuenq.pdf)
フレックスタイム制度もワークシェアリングの一施策であるため、企業のブランディングや人材市場でのアピール材料として有用だと言えます。
ワークシェアリングを導入する際の課題
ワークシェアリングは企業や従業員にさまざまな効果をもたらす一方で、いくつかのデメリットもあります。事前に把握し、対策を検討しておきましょう。
導入までに一定の時間がかかる
ワークシェアリングを導入する際には一定の時間がかかります。職種によって適用できる働き方が異なるためです。たとえば商品を製造する工場に勤務する従業員は、マンパワーが必要とされるため、テレワークの適用は難しいでしょう。また、ワークシェアリングの一貫で新たに従業員を採用した際は、引き継ぎや研修を行う必要があります。
導入までの時間は企業規模や業務内容、現状の業務フローなどによって異なります。いずれにしても、1日や2日などの短期間で導入できるものではないため、しっかり計画的に進行していくことが必要です。
経理担当者の負担が増加する
ワークシェアリングは過剰な業務を抱えていた従業員の負担が軽減する一方で、経理担当者の負担は増加する可能性があります。従業員が一律の働き方をするわけではなく、給与計算に手間がかかるためです。また、新たな従業員を採用すれば、その分、経理担当者や人事担当者などの特定部署の負担も増えることが懸念されます。
そのため、導入する際には経理部や人事部にもヒアリングし、負担が大きいようであれば、人的リソースの見直しも必要となります。
一時的な業績低迷の可能性がある
ワークシェアリングを導入する際は、新たに業務を担当する従業員に対する引き継ぎや研修が必要です。しかし、引き継ぎや研修に時間を取られると、その分本来の業務に充てる時間が減ってしまいます。
業務の進捗や能率の低下、ひいては生産性の低下が予想されるため、ワークシェアリングが軌道に乗るまでは、業績が一時低迷する可能性があります。
従業員から不満が出るケースも想定しておく
ワークシェアリングの導入でワーク・ライフ・バランスを実現しやすくなる一方、導入前にはなかった次のような不満が出てくることもあります。
- 適用される職種と適用されない職種間での不満
- 労働時間の短縮による収入減少
ワークシェアリングは、すべての従業員に適用できるとは限りません。一つの企業内で業種により適用不可が分かれる場合、相互間で不満が生じる恐れがあります。導入目的やメリットを説明し、すべての従業員からの理解を得るようにしましょう。
また、複数人で業務を分担することで時間外労働時間(残業)が減るため、これまで残業代を受け取っていた従業員の収入が減り、モチベーションの低下につながる懸念もあります。副業の許可やスキルアップ研修の実施などで、従業員の収入を維持できるようなサポートをするとよいでしょう。
ワークシェアリングの導入手順・運用の流れ
ワークシェアリングを導入する際には、手順や上手く運用するポイントを把握しておくことも大切です。
1.現状を把握する
ワークシェアリングを導入する際には、まず業務内容の全容を把握することからスタートしましょう。効果的な調査方法は、現場へのモニタリングや従業員のアンケートなどです。
調査の際は業務内容だけでなく、関わっている従業員の数やどれだけの時間やコストを要しているかも確認しましょう。一人の従業員に過剰な負担がかかっている部署がある場合は、理由を特定することで、具体的な解決策も検討できるようになります。
2.改善点の洗い出し
次に把握した現状において、ワークシェアリングがどの業務や職種に適用できるかを検討します。特に次のような職種に対しては慎重な検討が必要です。
- マンパワーを必要とする職種
- 専門的な資格が必要な職種
- 高度なセキュリティ要件がある職種
- 特定の地理的制約を持つ職種
- 高度なタスクのカスタマイズが必要な職種
上記のような職種は一定の制約がある、専門性が高いなどの理由により、誰もが同じ条件で業務を遂行できるわけではありません。
たとえば、現地でのプレゼンが不可欠な職種やフィールドエンジニアなどの特定のエリアへの居住が必要とされる職種は、地理的制約があります。エンタープライズソフトウェアの導入や設定を行う技術者も、クライアントごとに高度なカスタマイズが必要になるため、ワークシェアリングの適用は難しいと言えるでしょう。
3.運用体制を構築する
ワークシェアリングを導入する際には、運用体制の構築が必要です。まずは、部署やチーム単位での運用責任者を選任し、次に、どの業務を何人で分担するかを決めていきます。
ワークシェアリングは、従業員の理解を得てこそ上手く運用できます。フローやルールを社内に浸透させるためにも、運用体制は経営層だけで決めず、現場の従業員の意見も聞き出すようにしましょう。
4.従業員に周知する
運用体制を構築したら、ワークシェアリングの導入目的やメリット、取り組んで欲しいことなどを従業員に周知しましょう。
たとえば、社内説明会の実施やPDF資料の配布、社内動画の配信などで周知します。求める効果や従業員の協力を得るために、ワークシェアリングの適用の有無にかかわらず、全社的に説明を行い従業員からの理解を得ることが大切です。
5.PDCAを回して継続的に運用する
ワークシェアリングの導入後は、企業が抱える課題が改善されているかを定期的に確認しましょう。PDCAを回しながらワークシェアリングを継続的に運用し、効果を検証する必要があります。
短縮できた労働時間や削減できたコストなどの各種データを分析し、導入前後でどのように変化したかを確認します。期待する効果が得られていない場合は、課題を見つけて速やかに改善策を検討しましょう。
ワークシェアリングを導入する際のポイント
最後に、ワークシェアリングを導入する際のポイントを紹介します。
不安点がある場合は専門家に相談する
ワークシェアリングを導入する際に不安がある場合は、迷わず専門家に相談しましょう。専門家に相談することで、より自社に適した取り組み方を提案してもらえます。
ワークシェアリングに関する相談は、都道府県の労働局などで受け付けています。厚生労働省のホームページでは、「ワークシェアリング導入のための検討ガイド」を公開しており、他社の事例や導入ポイントなどを確認できます。
※参考:厚生労働省「ワークシェアリング導入のための検討ガイド」https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/06/h0630-2d.html
採用支援サービスの活用も検討する
雇用創出型のワークシェアリングの導入を検討している場合は、採用支援サービスを活用するのも手段の一つです。
従業員の業務負担を軽減するために新たな人材を採用しようとしても、人手不足により思うように人材が集まらないのが現状です。
株式会社学情では、新卒採用や経験者採用に対応した採用支援サービスを展開しています。求める人材や企業の採用計画に沿ったサポートを提供しますので、ぜひご検討ください。
助成金を活用する
ワークシェアリングを導入する際、条件によっては国が設けている助成金を活用できるかもしれません。
ワークシェアリングの導入で活用できるおもな助成金は、次のとおりです。
制度 |
概要 |
補助・助成額 |
生産性の向上や時間外労働の削減の環境にかかる費用の助成 |
上限480万円 |
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訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成 |
コースによって異なる |
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再就職援助計画などの対象者を離職後3カ月以内に期間の定めのない労働者として雇い入れ、継続して雇用することが確実である事業者に対する助成 |
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助成金を申請するためには、それぞれ要件を満たす必要があります。申請要件や金額などは変更される可能性もあるため、厚生労働省のホームページで最新情報をご確認ください。
ワークシェアリングを導入して働き方改革を実現しよう
ワークシェアリングとは、過剰な業務を抱える従業員の業務を複数人で分担する取り組みのことです。近年は、少子高齢化による労働力不足や従業員の定着率の向上を図るため、ワークシェアリングに注目する企業が増えています。
ワークシェアリングには4つのタイプがあり、それぞれ目的が異なります。たとえば、既存の従業員だけで業務を分担できない場合は、新たな人材を採用する雇用創出型が適しています。自社の課題の解決につながるタイプを選ぶようにしましょう。
新たな人材の採用を行う際は、ぜひ学情にご相談ください。豊富なデータやノウハウで、学生から20代向けの採用をサポートいたします。人材に関する課題の解決策として、ワークシェアリングを検討してみてはいかがでしょうか。
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