プロブスト法は近年注目されている評価手法の一つです。人事評価では公平かつ客観的で、透明性のある評価が重視されます。しかし、企業の内情や評価項目によっては従来の手法では上手く評価できない場合もあるでしょう。
プロブスト法を利用すれば今までの人事評価の問題点を解決し、社員の貢献に対し正当に報いることができるかもしれません。
本記事ではプロブスト法の概要やメリットとデメリットを解説します。ほかの人事評価についても言及しているので、問題解決のための新たな評価手法を探している人事担当者はぜひ参考にしてください。
プロブスト法とは
「プロブスト法」とは、人事評価において評価者の主観により基準や結果が異なってしまうこと、つまり評価誤差を防ぐための手法です。
プロブスト法では、社員を評価する指標をあらかじめ短文で決めておき、チェックリスト方式で当てはまる項目にチェックを入れていきます。評価者は対象者の能力や行動などが項目に当てはまるかどうかを判断すれば良いため、客観的な評価が可能です。
社員を評価するにはバリュー評価や360度評価などさまざまな方法がありますが、後述するハロー効果や中心化傾向などにより、偏った評価がされてしまうことがあります。そこで近年、客観的に適切な評価をするためにプロブスト法への注目が集まっています。
プロブスト法を採用するメリット
ほかの評価方法と異なり、プロブスト法には次のようなメリットがあります。
人事評価で起きがちな偏りを防止できる
人事評価で問題となりやすい、「評価者によって評価に差が生じる」事態を防げることがプロブスト法の代表的なメリットです。プロブスト法は事前に設けたチェック項目に当てはまるか、当てはまらないかを選ぶだけなので、ほかの方式に比べて評価のばらつきをおさえられます。
たとえば、プロブスト法と並んでよく使われる手法として、5段階評価のように評価尺度を決めて行うリッカート法もあります。しかし、リッカート法では仮に5段階評価だとすると、3にするか4にするかは個人の主観が入りがちです。
評価方法や評価者によって偏った評価が続けば、社員のモチベーションを低下させ、適材適所の配置ができなくなる可能性があります。最終的に優秀な人材の離職を招いてしまう結果にもなりかねません。
プロブスト法にはこのような評価の偏りをカバーできる利点があります。上手に活用すれば、優秀な社員の定着率の向上はもちろん、適切な評価によって社員の自己成長も支援できます。
人事評価で起きがちな「偏り評価」とは
人事評価の場でよくある偏り評価は、ハロー効果や中心化傾向、寛大化傾向、厳格化傾向などいくつかの傾向に分類されます。
ハロー効果とは、評価される側がなにか秀でた能力を持っている場合に、それ以外の部分も優れていると錯覚して評価することです。たとえば稀少な資格を保持している人や、難関大学を卒業している人、何カ国語も話せる人などは、仕事でなにをさせても優秀だと思われることがあります。
中心化傾向は、良い・悪いとはっきり判断せず、標準的な評価や中央値の評価ばかりしてしまうことを指します。たとえば5段階評価でほとんど3になっているのは中心化傾向の典型例です。
一方、寛大化傾向は、中心化傾向の例で言うと5段階評価でほとんど4~5にするパターンを指します。逆に、厳格化傾向は1~2ばかりにするパターンです。
いずれの偏り評価も、評価する側の評価項目に対する認識の甘さや、評価対象者への主観や印象、あるいは個人的な体験などが影響して起こります。
簡易的な回答で効果が得られる
ほかの評価方法に比べると回答や集計が容易で、評価の工数が少なく済むのもプロブスト法のメリットです。項目に当てはまるか、当てはまらないかの2択であるため、5段階評価のような幅がある方式に比べて、項目数が多くても瞬時に回答できます。
また、チェックされている項目の数を機械的に数えれば済むため、5段階評価や加点式、減点式などの点数式に比べて集計もすぐに終わるでしょう。1名につき数分もあれば回答と結果がわかります。
さらに、チェックリスト方式は評価結果や基準が明確で、評価の透明性も確保できます。偏りのない評価、判断基準のわかりやすい評価によって、社員のモチベーション低下を防げるでしょう。
プロブスト法を導入する際の課題
客観的な評価に役立つプロブスト法ですが、一部課題やデメリットもあります。いくつか代表的なものを解説します。
定期的な見直しが必要
一度作成したプロブスト法は、半永久的に使えるわけではないので定期的な見直しが必要です。
社会や労働環境がめまぐるしく変化しているなか、企業に求められる人材や活躍する人材に必要なスキルも変わっていきます。たとえば、現代においてパソコンスキルは多くの企業で求められるスキルの一つですが、パソコンが普及する前の時代であれば求める企業は少なかったでしょう。
このように、時代の流れや業務の自動化などの影響により、重要視されるスキルは年々変わります。
そのため、プロブスト法に基づいて評価項目を作成したとしても、必要に応じて見直さなければ適切な評価は続けられません。評価項目は定期的に見直す必要があることを念頭においておきましょう。
チェックリストの設計に時間がかかる
プロブスト法は回答や集計といった作成後の工数を削減するには効果的ですが、準備段階では工数がかかる評価手法です。
項目は企業内で一律ではなく、部署やチームといったまとまりに応じて変更する必要があります。それぞれに合った内容を検討、精査して決定するにはある程度の時間がかかるでしょう。
評価者が確実に判断できる項目になっているか、客観的な視点で評価が可能かも確認しなくてはなりません。公平性や客観性を確保するために、項目は一人が作成や確認をするのではなく、複数人の目を通すことも重要です。
プロブスト法以外の人事評価制度
プロブスト法を含め、あらゆる人事評価にはメリットとデメリットがあります。万能な評価制度は存在しないため、企業の目的や人材に合わせて適切な人事評価を選ぶことが大切です。人事評価を見直す目的であれば、プロブスト法だけでなく次の人事評価制度も知っておくと選択肢が広がるでしょう。
コンピテンシー評価
「コンピテンシー評価」は、社内で特に優秀な人材の特徴をもとに評価基準を作成して評価する手法です。優秀な人材の行動や考え方、結果を出すまでの過程などを指標にします。
コンピテンシー評価により、評価される側の社員は、成果を上げている人材と比べて自分に何が足りないのか、あるいはどう行動すれば評価されるのか理解しやすくなるのがメリットです。社員一人ひとりが評価基準を満たすように行動していけば、自然と優秀な人材が育ちやすくなります。
また、コンピテンシー評価では結果を出すまでの過程も評価可能なため、結果を出せなかった社員に対しても適切な評価ができます。
ただし、導入にはまずモデルとなる社員の選定が必要なため、スタートアップ企業や人材不足の企業では評価基準の作成が難しいケースがあります。また、プロブスト法同様に時代や社会情勢に応じて、また企業や部署・職種によっても「優秀な社員」の基準が変化するため、評価項目も併せて定期的な見直しが必要です。
バリュー評価
「バリュー評価」は、企業の価値観や行動指針に基づいて社員が業務を遂行できているかどうかで評価する方法です。評価の基準が、企業理念のように企業としての根幹の部分からできているため、社員の価値観の違いやミスマッチなどを防げるのがメリットと言えます。
同じ価値観を持つ社員を育成し、チームワークを強化するのにもバリュー評価は役立つでしょう。結果はもとより、行動そのものや過程も評価するため、社員自身の行動力や考える力の成長を促進する効果もあります。
ただし、会社の価値観というかたちのないものを基準にするため、成績や生産量、提案数など明確な数値での評価が難しいのがデメリットです。基準があいまいだと社員に対する説得力が薄れてしまうため、社員自身が納得しやすい基準を考案する必要があります。
360度評価
「360度評価」とは、上司だけでなく同僚や部下など、あらゆる角度からの意見を参考にして評価する手法です。一人が評価するのではなく、さまざまな立場の人間が評価するため多様な意見を得られます。
また、複数の目が入るため、人数が多いほど公平かつ客観的な判断がしやすくなるでしょう。数値ではわからないような、隠れた貢献度も確認できます。評価対象者にとっても、納得のいく評価がされやすくなり、モチベーションやエンゲージメントアップにつながるメリットもあります。
ただし、他者の評価に慣れていない人がいる可能性や、個人によって主観的な意見が混ざるリスクも考慮しなくてはなりません。たとえば評価する側のほとんどが不慣れな場合、主観に偏ってしまい正確な評価ができないケースもあります。評価する側の評価スキルや人数も加味して導入を検討するとよいでしょう。
ノーレイティング
「ノーレイティング」は、英語で「no rating」、つまり評価なしという意味です。評価そのものをしないわけではなく、一般的な人事評価のような、年単位の決まったタイミングでの評価や等級付けをしないことを指します。
ノーレイティングでは、評価は上司が部下に対して直接行います。あらかじめ設定した目標に対して、達成度をリアルタイムで都度確認してフィードバックをし、評価するのが特徴です。スピーディーで、個々の個性に合った評価ができるのがメリットと言えます。しかし、上司が部下を一人一人、何度も評価するため負担が大きくなりやすいのがデメリットです。
既存の人事評価では個人の特徴に合わせた評価が難しく、画一的な評価になってしまい、細部での貢献度を精査できない問題点がありました。ノーレイティングはこうした問題を解決する新たな手法として注目を集めています。
プロブスト法で客観的な人事評価を行おう
プロブスト法は、チェックリスト方式で評価対象者を客観的に評価して、評価誤差を埋める手法です。いままでの人事評価で公平な評価が難しいと感じていたなら、プロブスト法を導入してみるとよいでしょう。
プロブスト法は回答や集計が容易で、評価される側も納得感を得やすいメリットがあります。しかし、一方で半永久的に使えるものではなく定期的な見直しが必要なことや、評価項目の検討に時間がかかるデメリットもあります。
プロブスト法以外にもバリュー評価や360度評価、ノーレイティングなど人事評価の手法はさまざまです。それぞれメリットとデメリットがあるため、プロブスト法を把握した上でほかの手法と比較し、自社で導入するのに適切な手法を選択してください。公平で客観的な評価が続けば、人材が定着しやすくなり企業としての生産性や創造力もアップするでしょう。
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