フィードバック面談は、上司から部下に評価を伝えるだけでなく、今後の課題を共有し、行動計画を決めていくための面談です。上司と部下の間にある認識相違を解消する手段としても有効であり、今後、フィードバック面談の導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、フィードバック面談を行う目的や事前準備、実際の面談の流れを詳しく解説します。フィードバック面談を成功させるポイントや注意点も解説しているので、ぜひ参考にしてください。
フィードバック面談とは
フィードバック面談とは、上司から部下に評価の結果や根拠を伝え、今後の課題を共有し、解決策を話し合う面談です。一方的に上司から伝えるだけではなく、双方の認識をすり合わせることで、評価に対する部下の理解度を高めるのにも役立ちます。
部下は自身の評価に疑問があった場合、その場で上司に質問や意見ができることから、自身の評価に対する納得感を高めることが可能です。フィードバック面談を通してコミニュケーションをとることで、より良い信頼関係の構築や、パフォーマンスの向上なども期待できます。
フィードバック面談の目的
まず、フィードバック面談を実施する目的を解説します。フィードバック面談を成功させるためには、参加者が実施する目的を理解している必要があります。
部下の成長の促進
フィードバック面談を実施する目的としてまずあげられるのが、部下の成長促進です。フィードバック面談で上司が部下に対してアドバイスをすることで、部下が自身の現状や課題を正しく認識できます。
さらに課題に対して、部下に解決策を考えさせることや、部下が考えた解決策に対してフィードバックを行うことで、部下の成長を促すことが可能です。上司はアドバイスだけではなく、必要に応じてヒントも与えると、部下は今後の仕事で自分がどのように動くべきか、わかりやすくなります。
部下の考えに寄り添い、納得できるまで丁寧に話し合うことで、仕事に対するモチベーションアップも可能です。フィードバック面談を通して、上司が適切なアドバイスを伝えることが部下の成長につながります。
上司と部下の認識のすり合わせ
フィードバック面談によって、上司と部下の認識合わせができます。評価の根拠を具体的に伝えて、良い評価を受けた点や課題になる点を話し合い、双方の認識に相違が生じないようにすり合わせを行いましょう。
自社から求められている役割は何か、仕事がどのように評価されているかなどを上司から伝えることで、部下は自身の役割や評価を正しく認識できます。
上司と部下の認識相違は、業務で問題が発生する原因や、目標達成の妨げになる可能性があります。認識相違をなくすことで、組織が部下に求めている役割が理解でき、業務効率の向上や目標の達成につなげることが可能です。
上司と部下の信頼関係の構築
フィードバック面談は、上司と部下の信頼関係を構築する手段としても効果的です。客観的な基準を示した上で、公平性のある適切な評価を行っていることを説明して、部下の理解や納得を得ることができます。
また、部下に疑問や不安なことはないかも聞いてみると良いでしょう。上司から一方的に評価を伝えるだけでなく、部下の疑問や不安を伺い、今後の行動計画を共有することで、部下は信頼感や安心感を得られます。
従業員の生産性向上
フィードバック面談は、従業員の生産性向上を目的として実施されることもあります。上司から適切なアドバイスやヒントを与えることで、従業員一人ひとりのパフォーマンス向上が図れるため、目標達成の可能性が高まります。
フィードバック面談で上司と部下の信頼関係を構築できている組織は、組織内の風通しが良く、円滑なコミニュケーションが可能です。課題を共有しながら業務に取り組むことができるため、生産性の向上につながります。
フィードバック面談の事前準備
フィードバック面談をスムーズに進めるためには、事前準備が不可欠です。面談時に手間取ることがないように、次の2点をしっかり行いましょう。
面談シートにて評価と説明内容を確認
フィードバック面談を行う前に、伝えたい内容を整理して確認しておきましょう。事前に面談シートを作成することで、フィードバック面談をスムーズに進められます。面談シートとは、相手に対して伝えたい内容や質問事項などをまとめたシートです。
上司が面談シートに記載するのは、部下に対するフィードバックや確認事項などです。一方、部下は面談シートに上司へ相談したい内容や質問事項などをまとめます。具体的な記載内容として考えられるのは、おもに次のとおりです。
- 業務内容と目標
- 自己評価
- 組織や上司からの評価(良かった点と改善したい点)の結果と理由
- 次期に向けた目標と行動計画
面談シートで事前に話す内容や質問事項を確認しておくと、限られた面談時間内でも話を整理して簡潔に伝えられます。また、「面談時にするつもりだった質問をしていなかった」という事態も避けられます。
シートに面談の内容を残しておけるので、あとから面談内容を振り返ることも可能です。フィードバック面談を実施する際は、事前に面談シートを用意して、話す内容を整理しておきましょう。
上司と部下の認識のギャップをチェック
組織や上司からの評価と部下の自己評価を比較して、ギャップがあるかどうか予め確認しておきます。確認した結果、ギャップがあった場合は、面談の場を利用して解消しましょう。
ギャップを解消するためには、上司と部下で認識が異なる部分や評価の背景、経緯などを把握して、面談時に部下に対して明確な説明ができるように準備しておく必要があります。
フィードバック面談の進め方
ここからは、実際のフィードバック面談の流れを7つのステップに分けて解説します。
1.アイスブレイクトークで場を和ます
多くの場合、上司との面談に臨む部下は、緊張や不安を感じているため、面談開始とともに評価の話をするのは避けましょう。緊張状態で面談を進めても、話の内容に集中できない可能性があります。上司の立場から見ても、緊張や不安を感じている部下から、本音を引き出すのは至難の業です。
部下の緊張を解きほぐし、面談を進めやすくするためには、まず最初にアイスブレイクトークで場を和ますのが効果的です。アイスブレイクは、商談や会議など緊張感のある場を和ませるために用いられる手法として、広く知られています。
緊張をほぐして面談できるように、まずは業務に関係のないことを話してコミニュケーションをとりましょう。趣味の話や最近のニュース、時事ネタなど気を張らずに話せる内容が効果的です。アイスブレイクをしてから本題である評価の話に入ることで、部下の本音や考えなどを聞き出しやすくなります。
2.部下に面談の趣旨を説明する
アイスブレイクトークで場の雰囲気が和んだ状態で、本題に入りましょう。最初に、今回のフィードバック面談を実施する目的、話し合う内容や、おおまかな流れを部下に説明します。
面談を効果的なものにするためには、部下も面談を実施する目的を正しく理解していなければなりません。また、大まかな流れを最初に説明することで、部下も面談の全体像をイメージしやすくなります。
フィードバック面談では、組織や上司からの評価の報告をするだけでなく、部下の成長を支援するためのものであることも伝えます。ただ話を聞いてもらうだけではなく、随時、発言するように促しましょう。
3.部下の自己評価を聞く
フィードバック面談の目的や趣旨を説明した上で、まず部下の自己評価について話を聞きます。評価の根拠や担当した業務、社内で果たした役割、成果なども丁寧に聞き出しましょう。
先に上司から評価を伝えてしまうと、部下は本音を言いにくくなる場合があります。部下が本音を言いやすくするため、先に話をさせることで、部下が担当している業務の状況や考えを正確に把握しやすくなります。
部下の話を聞く際は、途中で話を遮ることはせず、適度に相槌をうつ、頷くなどして話したい内容をしっかり伝えられる雰囲気をつくることも大切です。
4.組織や上司の評価を報告する
部下に対して、組織や上司の評価を報告します。部下に評価結果を伝える際は、良かった点から伝えましょう。先にプラス評価だった点を聞くことで、マイナス評価となった点を受け入れやすくなります。評価結果を報告するだけでなく、理由も可能な限り具体的かつ丁寧に説明しましょう。
マイナス評価だった点を伝える際は、自己評価と一致していた内容から話します。部下自身が今後の課題と理解している内容であるため、マイナスな内容でも過度に慎重に伝える必要はありません。
自己評価とギャップのあるマイナス評価を報告する場合は、部下が納得して理解できるように、できる限り具体的かつ丁寧な説明を心がけましょう。部下のモチベーションを下げないためには、感情的にならず、否定的な言葉を使わないよう注意しながら冷静に伝えることが重要です。
5.組織や上司の評価について疑問点を確認する
組織や上司の評価を伝えた後で、部下の自己評価とギャップがあったか質問して、疑問点や質問がないかを確認します。
理解できない点や不満に思っている点があった場合は、具体的な事実を伝え、部下が納得できるよう丁寧な説明が必要です。マイナス評価で納得がいかない点がある場合は、なぜマイナス評価になったのか、具体的な事実を伝えた上で、部下が納得できる理由、根拠を示した説明をしましょう。
プラス評価の場合も、部下は「もっと高く評価されると思っていた」と認識の齟齬が生じるケースがあります。プラス評価での疑問点を確認するためには、部下に「こちらが提示した評価内容のほかに、アピールしたい成果はありますか」と質問してみるのが効果的です。
6.課題を共有し次期の目標と行動計画を決める
評価から課題を明確にして、部下が自発的に目標や行動計画を考えられるように促します。上司が解決策を押し付けることや、一方的な意見を伝えるだけになるのは避けましょう。
フィードバック面談を上司が部下に説教をする場にしてはいけません。双方向でコミニュケーションをとり、部下自身の考えを尊重して決めていく必要があります。
部下から提案がなかなか出てこない場合は、部下のキャリアビジョンを把握した上で、課題解決がステップアップにつながることを伝えましょう。部下が自分がどうしたら良いか考えられるよう、手助けとなる適切なアドバイスを与えることが大切です。
7.支援の姿勢を示して面談を締めくくる
面談への協力や、日頃の業務への感謝を伝えて面談を締めくくります。部下が評価に納得して、ポジティブな雰囲気で終了できるように心がけましょう。ポジティブな雰囲気で終わらせることで、部下は今後の仕事に前向きな姿勢で取り組めます。
「目標達成のために何か手伝えることがあれば、声をかけてください」「いつもいろいろ提案を出してくれて助かっています」など、具体的な言葉で、今後の支援と日常の感謝の姿勢を伝えられるのが理想的です。
目標達成に向けての行動や、業務で困ったことがあれば支援するということを伝えて、フィードバック面談を終了しましょう。
フィードバック面談を成功させるポイント
フィードバック面談を成功させるために、知っておくべきポイントを紹介します。
効果的なフィードバック手法を用いる
フィードバック面談では、効果的なフィードバック手法を用いる必要があります。そのためには、フィードバックの手法を知ることが必要です。ここでは代表的なフィードバック手法として、「ペンドルトン手法」「サンドイッチ手法」「SBI手法」の3タイプを紹介します。
ペンドルトン手法
ペンドルトン手法は、心理学者のペンドルトン博士が提唱したフィードバック手法です。何について話すのか、両者で意思疎通をしてから始めるため、具体的な施策やプロジェクトの現状に関してフィードバックを行いたい場合に有効と言えます。
「テーマの確認」「評価点」「改善点」「行動計画」「振り返り」の順に、部下と上司が交互に意見を出しながら進めていくことで、部下自身が積極的に考えるのを促す手法です。時間をかけてコミニュケーションをとり、課題を解決するための方法を決めていきます。
基本的には部下が意見を述べて、上司が適宜補足していく流れで進めていくと良いでしょう。ペンドルトン手法では、部下自身がどうしたら良いかを積極的に考える形になるため、人材として成長することが期待できます。
サンドイッチ手法
サンドイッチ手法は、ネガティブな内容(マイナス評価)をポジティブな内容(プラス評価)に挟んでフィードバックする手法です。たとえば、「目標を達成したことを評価する」「課題を指摘する」「業務に取り組む姿勢が良いと評価する」という順番でフィードバックをしていきます。
面談の始まりと終わりにポジティブな内容を示すため、ネガティブな内容があっても、部下のモチベーション低下をおさえられるのがメリットです。サンドイッチ手法を用いる場合は、良かった点だけではなく、課題や改善点も部下にしっかり伝えられるように心がけましょう。
SBI手法
SBI手法は、Situation(相手が置かれていた状況)、Behavior(相手が取った行動)、Impact(それによって生じた影響)の順に整理して伝えるフィードバック手法です。状況を説明した上で、具体的な行動を基にフィードバックすることから、評価の結果や根拠が伝わりやすく、部下が自分を客観的に振り返ることができます。
SBI手法はポジティブな内容とネガティブな内容、どちらでも使用できます。特にマイナス評価について伝えるときは、SBI手法を利用すると部下も納得しやすいでしょう。
想定質問への回答を準備しておく
限られた時間のなかでフィードバック面談をスムーズに進められるように、頭のなかで面談の流れをシミュレーションして、想定される質問の回答を準備しておきましょう。
想定質問への回答を準備しておく
限られた時間のなかでフィードバック面談をスムーズに進められるように、頭のなかで面談の流れをシミュレーションして、想定される質問の回答を準備しておきましょう。
質問される内容を事前に予測しておくことで回答が具体的になります。曖昧な回答では部下から不信感を抱かれる可能性があるため、明確に答えられるようにしましょう。部下からの質問に適切な回答ができれば、より良い信頼関係につながります。
面談の内容を記録し見直しできるようにする
フィードバック面談は、後で見直しができるように、内容を記録しておきましょう。フィードバック面談の内容を議事録形式で記録しておくことで、今後の参考資料として活用できます。面談中に記録するおもな内容は、次のとおりです。
- フィードバック、アドバイス内容
- 目標の進捗状況
- 業務で成果が出せたと感じていること
- 業務またはそれ以外で困っていることなど
部下の成長を促すためには、フィードバック面談を継続して行うことが大切です。前回の面談記録を振り返り、参考にした上で次回の面談を実施すると、フィードバック面談の質を上げていくことができます。
フィードバック面談を実施する際は、上司と部下双方にとってより有意義な時間になるようにしましょう。
フィードバック面談時の注意点
フィードバック面談時に注意すべき点を解説します。部下の仕事に対するモチベーションを下げてしまわないように、注意点を十分意識するようにしましょう。
一方的に話をしない
フィードバック面談の参加者は、一方的に話をしないように注意が必要です。フィードバック面談は、上司と部下がコミュニケーションをとり、双方の認識を共有するために行います。
部下の話のなかで誤解や間違いがあった場合は、一通り話を聞いてからギャップを埋めるための説明や訂正を丁寧に行います。組織や上司からの評価を押し付けたり、部下の話を遮ったりして一方的なやりとりにならないよう注意が必要です。
フィードバック面談で上司が一方的に話をしてしまうのは、決して珍しいケースではありません。一方的に話をしないよう心がけた上で、面談に臨みましょう。たとえば、「自分が3分話したら、相手の話も3分聞く」と意識するのが効果的です。
感情的にならないようにする
フィードバック面談では、上司と部下が落ち着いた状態でコミニュケーションをとれるようにするため、双方が感情的にならないよう注意しましょう。感情的な状態でコミニュケーションをとっても、良い面談にはなりません。
怒りが沸いてしまった場合の対処法として効果的な方法は「○○すべきという価値観を捨てる」「深呼吸して気持ちを落ち着かせる」などです。怒りの感情を予防、制御するためにアンガーマネジメントを学ぶのも良いでしょう。
上司が感情的になって高圧的な態度で接した場合、部下は自分の意見を伝えづらくなってしまいます。感情的な上司の態度は、部下の仕事に対するモチベーションを下げてしまう傾向があるため、感情的にならないように注意して、面談に臨みましょう。
フィードバック面談で部下の成長を促そう
ビジネスの場におけるフィードバック面談とは、上司から部下に評価を伝えるとともに、課題も共有して解決策を話し合う面談を指します。部下の成長促進や上司と部下の認識すり合わせなどの効果が期待できます。
上司と部下が話し合うフィードバック面談は、信頼関係を構築する手段としても効果的です。信頼関係が構築されることから、コミニュケーションが円滑になり、生産性の向上や業績アップも望めます。
フィードバック面談は、1回だけでなく定期的に繰り返すのが理想的です。毎回、振り返りを行うことで、次回の面談の質を上げていくことができます。フィードバック面談を実施して部下の成長を促し、上司の指導力を上げていきましょう。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。