「求職者から上手く本音を聞き出せない」「ほかの採用担当者と打ち解けるのが難しい」といった課題を抱えている企業の担当者もいるのではないでしょうか。良好な人間関係を構築するには、自己開示が有効です。
本記事では、自己開示の基礎知識をはじめ、ビジネスや企業の採用活動で活かせる点について解説します。後半では、自己開示の具体的な活用法や注意事項も紹介するので、コミュニケーションスキルを向上させたいと思う人は、ぜひ最後までお読みください。
自己開示とは
自分に関するポジティブやネガティブなどさまざまな情報を他者にさらけ出すことです。英語では「Self-disclosure」と言います。
もともとは、1970年代に心理学者で精神医学者でもあるシドニー・M・ジュラード氏が提唱した言葉です。当時は「自分をあらわにする行為」「他者が知覚しうるように自分を示す行為」という意味で心理学用語として用いられていました。
近年は、さまざまな分野で「自己開示」という言葉が用いられるようになっており、ビジネスシーンでも注目を集めています。
他者との信頼関係構築が重要視されるビジネスシーンでは、自己開示によって取引先とのコミュニケーションや人材育成などさまざまな場面で活用可能です。
自己呈示との違い
自己開示と類似した概念に、「自己呈示」があります。
自己開示と自己呈示の大きな違いは「他者に対してどのような目的で振る舞うかどうか」です。自己開示は、自分の感情を他者に正直に伝える行為です。一方の自己呈示は他者に良い印象を与えるために、情報開示の仕方を工夫することです。
ビジネスにおいては、上司や取引先から良い反応を得るために、意図的な振る舞いをすることがあるでしょう。
しかし、率直な意見を求められているケースでは、良い印象を与えようと取り繕うと相手の信頼を失うリスクがあります。自分の正直な振る舞いが信頼感につながることがあるため、率直な意見が求められるときには自己開示が有効です。
自己開示における返報性の法則
自己開示には、返報性と呼ばれる法則があります。返報性の法則とは、他者が自分に対して自己開示をしてくれた際に、自分も自己開示しなければならないと考えることです。
返報性の法則は、状況に応じて4つの心理が働きます。
返報性の4つの心理 | 特徴 |
好意の返報性 | 相手と同様の好意を返したくなる |
譲歩の返報性 | 相手と同様に歩み寄りたくなる |
自己開示の返報性 | 相手と同様に自己開示したくなる |
返報性の規範 | 相手と同様の行為をしたくなる |
「好意の返報性」とは、相手の好意に対してお礼やお返しをしたくなる心理状態のことです。たとえば、何かの機会にプレゼントを受け取った場合、相手にお返ししなければならないと考えるようになります。
「譲歩の返報性」とは、相手が譲歩してくれたことに対して「次回は自分が譲歩してあげよう」といった気持ちになる心理状態のことです。たとえば、相手が一部の要求を受け入れてくれた場合、自分も他の要求を柔軟に調整すると考えるようになります。
「自己開示の返報性」とは、相手の悩みや秘密を打ち明けられると、自分も同じように伝え返さなければならなくなる心理状態を指します。たとえば、初対面の相手に過去の話を打ち明けられたら、自分も包み隠さず話さなければならないと考えるようになります。
「返報性の規範」とは、相手がしてくれたことに対し、何かお返しがしたいと考えることです。形式的な行事の一つとして、年賀状を受け取ったら必ずお返しをする、お中元を受け取ったら必ずお返しをする、といった例があげられます。
ビジネスにおける自己開示のメリット
ビジネスを上手く進めるには円滑なコミュニケーションを心がけ、相手と信頼関係を構築することが重要です。自己開示は相手の振る舞いによって好意や譲歩の返報性が働くため、ビジネスシーンで役立ちます。
他者とスピーディに打ち解けられる
組織やチームの生産性を向上するには、メンバー同士が意見を言い合える環境を作ることが大切です。自己開示を用いたコミュニケーションは相手の警戒心を弱めて、安心感や親近感を持つきっかけになります。
安心感や親近感が高まると自分の意見を主張しやすい環境になるため、コミュニケーションが活性化し、他者と短期間で打ち解けられるようになるでしょう。
特に入社して間もない従業員や上司と良好な関係を構築する際には、短期間で心理的安全性が高まる自己開示が効果的です。
信頼関係を深められる
自己開示を用いたコミュニケーションでは、相手が自分を受け入れやすくなり、より深い信頼関係の構築に役立ちます。
ありのままの姿を見せていることが相手に伝われば、返報性の心理が働き、相手も同様の行為、態度を返してくれます。
信頼関係を構築できれば周囲の協力を得られ、ビジネスでの成果を出しやすくなるでしょう。
効率的な人材育成ができる
自己開示を行うと、職場の心理的安全性を高められます。心理的安全性とは、組織のなかで誰に対しても自分の考えを安心して発信できる状態のことです
従業員は「自分は受け入れてもらえる」と思えるため、自分らしく自信を持って働けます。
生産性の向上やコミュニケーションの活性化が期待でき、効果的な人材育成が可能になります。
採用ミスマッチの防止になる
採用ミスマッチとは、求職者側と企業側のニーズにズレが生じることです。採用ミスマッチは内定辞退や早期離職を招くおそれがあるため、企業は防止策を講じておく必要があります。
採用ミスマッチの防止として、採用担当者が自己開示を行うのも一つの方法です。
採用担当者が面談時に自己開示すれば、求職者の本音を引き出しやすくなります。求職者の価値観や考え方などが把握できるため、自社との相性を判断する際に役立ちます。
採用ミスマッチに不安を感じているのは、企業だけではありません。あさがくナビの「2024年卒学生の就職意識調査(ミスマッチ) 2023年3月版」によると、求職者のおよそ8割が採用ミスマッチに不安を感じていることがわかっています。
就職において、ミスマッチへの不安はありますか? | 割合 |
とても不安がある | 36.9% |
やや不安がある | 39.7% |
どちらとも言えない | 12.9% |
あまり不安はない | 7.1% |
不安はない | 3.4% |
自己開示を取り入れる際には、求職者の不安を解消させるための情報を提供することも大切です。たとえば、採用担当者自身の入社時の経験を話すのも一つです。求職者の不安を解消できるかもしれません。
自己開示のポイント
自己開示をする際は、いくつかおさえておきたいポイントがあります。ここからは自己開示のポイントを解説するので、意識しながらコミュニケーションを取ってみましょう。
自分の話をしながら相手の話を聞く
相手とコミュニケーションを取る際には、自分の話を交えながら相手の話を聞くことがポイントです。自己開示は、自分のさまざまな情報を相手に提供することを指します。
しかし、自分の話ばかりをしても、自己開示の効果を十分に発揮できないため注意が必要です。自己開示の効果を高めるには、聞き上手になることも重要です。自分の話をしつつも相手に質問をするように意識すると、会話のキャッチボールが成り立つため、自己開示しやすい状況を作ることができます。
話せる程度の弱みを見せる
自己開示によって相手と信頼関係を構築するためには、ポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報を提供したほうが効果的なケースもあります。
相手に自分の欠点や弱みを話すと応援したくなる気持ちが生まれ、心の距離が縮まりやすくなるためです。自分が弱みを見せることで、相手も悩みを打ち明けてくれるかもしれません。
ただし、相手に見せる欠点や弱みは、適度な内容にとどめておくようにしましょう。重すぎる内容だと相手が受け止めきれなくなり、心の距離がより離れてしまうおそれがあります。
相手との関係に応じたレベルで行う
自己開示を行う際は、相手との関係に応じたレベルで行うことがポイントです。自己開示は、相手との関係に応じた4つのレベルが想定されています。
- レベル1:趣味・嗜好
- レベル2:困難な経験
- レベル3:決定的ではない欠点や弱点
- レベル4:否定的な性格・能力
初対面の相手であれば、まずはレベル1からスタートします。趣味や嗜好は人それぞれですが、手軽に話せるため、話が弾んで仲が深まる可能性があります。
レベル2は、辛い出来事や苦労話などの困難な経験です。たとえば学生時代にお金がなく苦労した話や、けがをしてしまった話、仕事で失敗した話などがあげられます。
レベル3は、直接人格の評価に影響しない程度の欠点や弱点です。たとえば自身が気にしているコンプレックスや、人と比べてしまいがちな弱点があげられます。
レベル4は、人格の評価を左右するおそれがある性格や能力です。たとえば自身の性格の悪さや他者を傷つけた経験などがあげられます。関係性に応じて徐々にレベルを上げ、相手との信頼関係を深めていきましょう。
レベルが高い内容ほど、お互いが開示すれば大きな安全性をもたらしますが、相手との信頼関係が崩れる可能性も高くなります。否定的な性格・能力を開示する際は、信頼関係を構築できている相手にのみ行いましょう。
自己開示を実行する際の注意点
最後に、自己開示を行う際の注意点を解説します。やみくもにやりすぎると相手に不信感を与える可能性があるため、次の注意点を意識するようにしましょう。
一方的な自己開示にならないようにする
自己開示は、自分のさまざまな情報を相手に伝えることです。しかし、自己開示を意識し過ぎて、自分の話ばかりにならないように注意が必要です。一方的になり過ぎると相手にストレスを与え、距離が広がってしまう可能性があります。
コミュニケーションを取るたびに同じような状況が続けば、自己中心的な人というイメージを持たれてしまうかもしれません。自己開示を実行する際には、お互いの関係性に配慮し、相手の負担にならないように気をつけましょう。
自慢話にならないように気をつける
コミュニケーションに自己開示を取り入れる際には、自慢話にならないように注意しましょう。相手に自慢話と捉えられてしまうと、不快感を与えてしまいます。
自己開示をする際には、前提として謙虚であることが求められます。自分の経験や成果について話す場合でも、相手の立場や感情に配慮し、自己中心的な態度とならないよう心がけましょう。
自己開示を実行してコミュニケーションスキルを上げよう
自己開示は、コミュニケーションスキルの一つです。コミュニケーションの場に取り入れると、他者と迅速に打ち解けられ、信頼関係を深めることができます。また、面談での求職者とのやり取りや人材育成などにも活用可能です。
自己開示を行う際は「相手の話もしっかり聞いている」といった姿勢を見せることが大切です。
とくに求職者にとっては、採用担当者と良好な信頼関係を構築していることがその企業の魅力の一つとなります。求職者に「入社後も大切にしてもらえる」と感じてもらえるように、ぜひ採用活動にも自己開示を活用してみてください。
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