少子高齢化による労働人口の減少は年々進んでおり、それにあわせて採用活動も激化しています。また、多様な働き方が認められるようになった現在、採用活動がますます難しくなっていると感じられる担当者の方もいらっしゃるでしょう。
そのようななか、従業員全体で採用活動に取り組む「スクラム採用」という手法が注目されています。
本記事では、スクラム採用の詳細やメリット・デメリット、導入のポイントについて説明します。採用活動の改善を検討されている企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
スクラム採用とは
スクラム採用とは、採用活動を経営陣や人事担当者だけに任せるのではなく、全従業員が一丸となって採用活動に取り組む手法です。
社員が一致団結して行う採用方式
スクラム採用は、採用管理システムの開発会社(※)によって提唱された採用方法で、ラグビーのスクラムが語源の由来になっています。目的は採用力を高めることで、現場従業員も含めた全従業員が採用活動のすべてに積極的に関われる点が特徴的と言えます。
※スクラム採用は株式会社HERPの登録商標です。
従来の採用活動では、基本的には人事担当者が主体となって進め、最終段階で経営陣が面接を実施するという流れが一般的でした。現場従業員の協力を得るとしても、大半は採用活動の一部に限定されていました。スクラム採用では現場従業員も含めた全従業員が採用活動のすべてに関われる点が特徴です。
スクラム採用に必要な要素
スクラム採用には次の3要素が重要です。
- 権限の委譲
採用活動の各プロセスにおける適任者を決め、採用に必要な権限を委譲する
- 採用活動の可視化
採用活動の成果を全従業員にフィードバックし、定期的な振り返りを実施する
- 採用活動全体のプロジェクトマネージャーを置く
採用担当者をプロジェクトマネージャー化し、採用関連の計画や現場への落とし込みを実行する
スクラム採用では採用活動のワークフローを分解し、必要な権限は現場の社員に委譲することがポイントです。人事担当は採用というプロジェクトのマネージャーの役割を担います。
スクラム採用が注目されている背景
近年スクラム採用が注目されているおもな背景は次のとおりです。
- 人材獲得競争の激化
- 採用チャネルの多様化
- 採用担当者だけでは人材の見極めが困難
それぞれについて、詳しく説明します。
人材獲得競争の激化
人材獲得の競争激化によって、新たな採用方法が求められる時代となったことが注目される要因の一つです。自社の魅力や働きやすさなどを魅力的に提示することが求められています。
労働人口のさらなる減少が懸念されるなか、従来の企業が採用候補者を選ぶ時代から候補者に選ばれる時代へシフトしてきました。
スクラム採用では現場従業員から採用候補者へのアプローチが可能になります。優秀な求職者を囲い込み、採用ヘとつなげるためには有効的な方法です。
採用チャネルの多様化
採用チャネルの多様化も、スクラム採用の需要を後押ししています。
従来の採用では、求人メディアや人材紹介サービスを通しての活動が主流でした。近年では、それらに加えて各種SNSや採用広報、リファラル採用(従業員からの紹介・推薦による採用)など、採用チャネルが多様化してきています。
スクラム採用では、各種採用チャネルを横断した活動を行います。採用したい人材に合わせたチャネルを適切に利用することで、ミスマッチの防止が期待できます。
採用担当者だけでは見極めが困難
専門性の高い人材を採用する際に、人事担当者だけでは専門スキルを所持しているかの見極めが難しいケースも考えられます。
現場の業務を一番理解しているのは、当然ながら現場で働く従業員です。本当に欲しい人材かどうか判断するために、現場からの意見を重要視するのは理にかなった方法と言えます。
現場従業員が採用に深く関わるスクラム採用であれば、求職者と自社の希望のすりあわせが容易となり、採用時のミスマッチを防げます。それに伴い早期離職を減らせる効果も見込めます。
スクラム採用の3つのメリット
スクラム採用を実施することで、次のメリットが考えられます。
- 採用ミスマッチのリスク軽減
- 既存社員のエンゲージメント向上
- 多様なチャネルでの求職者へのアプローチ
それぞれについて、詳しく解説します。
1.採用ミスマッチのリスク軽減
スクラム採用では、現場従業員が採用プロセスに対して権限を委譲され、主体性を持って進めることが可能です。業務にマッチした人材か、現場視点での判断ができ、採用時のミスマッチを事前に防止できます。
従来では採用担当者がすべての職種についての採用を担当するのが一般的でした。そのため、採用担当者が深く知らない部署に対して、どのような人材が適切か現場従業員との認識のずれが発生するケースもありました。
スクラム採用では必要な人材を見極められる現場社員が採用に関わるため、企業と求職者のミスマッチを防ぎやすくなるでしょう。
2.既存社員のエンゲージメント向上
採用活動に積極的に取り組むようになるため、従業員のエンゲージメント向上が期待できます。
採用活動に携わる従業員は、求職者に対して自社の魅力を説明しなければなりません。その際に、自社に対して自分がどのように感じているのか、より深く考える必要が出てきます。自社について深く考えることで、なぜ自分はこの企業に所属しているのか、どういった仕事内容が好きなのかの棚卸しができ、企業への愛着が深まります。
また、採用に携わることで人材育成の当事者として責任感も生まれるでしょう。結果として、従業員自身が自社の良いところを再発見でき、エンゲージメント向上が見込めます。
3.多様なチャネルでの求職者へのアプローチ
スクラム採用では、多様な採用チャネルを利用します。採用担当者だけでは対応しきれなかった部分も、全従業員の協力を得られることで、状況に応じた採用チャネルの利用が可能となります。
たとえば、リファラル採用では既存従業員の紹介となるため、求職者と企業がお互いに業務や企業の内容を理解し合った上での採用が可能です。また、SNSの利用によって仕事現場や細かい仕事内容など、ターゲットを絞った情報発信も期待できます。
採用に関わっていなかった現場従業員がそれぞれの個性を生かしたチャネルを使うことで、人事部だけでは検討していなかったアプローチ方法が実施されるかもしれません。新たなアプローチにより、従来の方法だけではリーチできなかった人材の発掘も期待できるでしょう。
スクラム採用の導入に伴う課題
一方で、スクラム採用におけるデメリットも存在します。
- 人事担当以外への業務負担が増加
- 個人情報の管理コストが増加
- 採用に対する熱量を合わせるのが困難
それぞれについて、詳しく解説します。
1.人事担当以外への業務負担が増加
全社的に採用に関わるため、現場従業員の負担が増えるケースが考えられます。現場従業員は通常業務に加え、採用活動に関する業務がプラスされます。採用活動に注力するあまり、日常業務に影響がでるとなると問題です。また、負担の増大をよく思わない従業員もいるかもしれません。
通常業務と採用活動の比率は事前によく検討すべきでしょう。
2.個人情報の管理コストが増加
個人情報の管理面も懸念されるポイントです。
採用に関わる従業員が増えるに従い、求職者の個人情報に触れる人数も増えます。また、複数の採用チャネルを並行して進める場合、それぞれのチャネルで個人情報を管理しなければなりません。
情報漏えいを防ぐためには、従業員のコンプライアンス教育はもちろん、セキュリティ面の強化も必要不可欠です。対策として個人情報を一元化して管理できるシステムの導入もありますが、その分管理コストは増大する可能性が高くなります。
3.採用に対する熱量を合わせるのが困難
採用に関わる人数が増えると意識の統一化が難しくなります。
採用活動は、企業にとって重要な業務であるのは間違いありません。しかし、採用担当者や経営者と現場従業員では、採用に対する熱量が違うことも大いに考えられます。とくに、現場従業員にとっては通常業務を削って採用活動に取り組む形となるため、不満に思う人がいても不思議ではないでしょう。
スクラム採用を実施する際は、採用に関わる従業員全員と密にコミュニケーションを取り、意識の共有化を図る必要があります。
スクラム採用を導入する際のポイント
スクラム採用を導入するためにおさえておきたいポイントをご紹介します。
- 社員からの理解を得る
- 現場の社員へ必要な権限を譲渡する
- スクラム採用に関わる情報を一元管理する
それぞれについて、詳しく説明します。
1.社員からの理解を得る
スクラム採用の導入には、従業員から理解を得ることが不可欠です。
スクラム採用は全社的に取り組む採用活動となります。まずは、経営陣や現場マネージャークラスがスクラム採用の必要性やメリットを理解しましょう。
マネージャークラス以上で意識の共有ができれば、経営陣が全従業員に対してスクラム採用の重要性を発信し、現場従業員から協力を得られるようにするのが大切です。経営陣がスクラム採用に積極的に取り組む姿を見せることで、採用活動への参加のハードルを下げ、採用に対するモチベーションの底上げが期待できるでしょう。
2.現場の社員へ必要な権限を譲渡する
採用に関わる現場従業員に対し、必要となる権限を委譲することも重要です。
スクラム採用は、採用チャネルの選定・求職者への評価・採用基準の設定など、現場従業員へ権限を譲渡して進める採用方式です。採用に関する権限を与えることで、現場従業員は主体性を持って採用活動へ参加が可能となり、採用担当者の負担が軽減できます。
採用担当者と現場従業員のコミュニケーション方法をよく検討し、採用担当者はサポート役に徹すると良いでしょう。
3.スクラム採用に関わる情報を一元管理する
情報管理の方法を見直すことも重要です。スクラム採用では、採用に関わる人数や利用される採用チャネルが増えます。それぞれの担当者がバラバラに個人情報を管理する形では、情報共有が難しい上にセキュリティ面の問題が発生します。
たとえば、求職者の個人情報管理は採用担当者が一元で管理し、情報漏えいのリスク軽減と情報の共有をはかるようにすると良いでしょう。情報管理のためシステムを導入するのも良い方法です。
スクラム採用で採用活動の精度をあげよう
スクラム採用は、企業全体で採用活動を進める方法です。スクラム採用の成否は、現場従業員の関わり方が非常に重要なポイントとなります。経営陣がスクラム採用の重要性を理解し、現場従業員への権限委譲と採用担当者のプロジェクトマネーシャー化を進めることが大切です。
スクラム採用の導入で、これまでアプローチの難しかった求職者層へのアピールが期待できます。自社の状況に合わせた運用で、スクラム採用の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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