サクセッションプランとは
サクセッションプラン(Succession plan)とは「後継者育成プラン」のことで、企業の重要ポジションである経営者や経営幹部の候補となる人材を抜擢し、育成することを指します。
サクセッションには「継承」「相続」といった意味があり、企業は優秀な人材を育成して昇進させ、CEOや経営幹部を引き継ぐよう取り計らうことで、長期的な存続につなげることができます。
サクセッションプランは「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の改定により、上場企業に対して強く要請されるようになったため、注目されるようになりました。
日本企業のガバナンスの底上げを目的に、金融庁と東京証券取引所が共同で策定した文書です。
2018年6月の改訂では、主要変更点の一つとして「CEOのサクセッションプランおよび選解任基準などに関する取り組み」が要請されています。
第4章 取締役会等の責務 【補充原則 4−1③】
取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。
出典:株式会社東京証券取引所 「コーポレートガバナンス・コード」2018年6月1日 (https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000000xbfx-att/nlsgeu0000034qt1.pdf)
似た言葉との違い
従来型の後任登用とは違う、「新しい人材マネジメントシステム」ともいえるサクセッションプランですが、タレントマネジメントや人材育成とは何が違うのでしょうか。
タレントマネジメントとの違い
タレントマネジメントとは、タレント(従業員)が持つ能力やスキルといった情報を重要な経営資源として捉え、採用や配置、育成に活用することで、従業員と組織のパフォーマンスの最大化を目指す人材マネジメントを意味します。タレントマネジメントとサクセッションプランは、「企業内に優秀な人材を育成・定着させるための施策」という点では共通していますが、対象の範囲が異なります。タレントマネジメントの対象者は「全従業員」や「幹部候補やプロ人材」ですが、サクセッションプランでは「幹部候補者」と「経営者候補」に絞られます。
人材育成との違い
人材育成とサクセッションプランは、育成する項目と指導者が異なります。人材育成は、組織が望むビジョンに向かって従業員の成長を施す施策全般を指します。人事部が主導となって従業員に研修/フォローアップを施します。一方、サクセッションプランは経営層が主導となって後継者候補に「経営者視点に立った横断的な育成」を施します。
サクセッションプランを導入するメリット
ここでは、サクセッションプランに取り組むメリットをご紹介します。
人材登用制度の見える化
サクセッションプランを導入するためには、幹部・経営者公認候補者の選出要件を明確にする必要があります。その際、経営に携わる人間として必要な知識やスキルを見える化することになるため、昇進基準が可視化されることになります。それにより、努力が報われる組織形態を形作ることができ、社員のモチベーションを高めることが可能となります。
ポスト空白期間の消失
経営幹部候補を選抜しておくことで、経営幹部ポストの空白期間を防止できます。経営者または経営幹部が突然辞任するケースもありますが、その際に後継者不在によるM&Aや、経営陣不在による混乱を回避することにつながります。また経営層主体で育成された人材が昇進するため、これまでの企業の伝統や方向性、社員が安心して働き続けられる環境が維持されます。
採用コストの削減
サクセッションプランによって、既存の社員を幹部候補として選ぶため、人材育成や採用コストが抑制できることもメリットとして挙げられます。候補者はすでに企業の一員として活躍してきた人材であるため、企業に関する基礎的なことは省略した、効率的な育成プログラムの作成が可能になり、時間とコスト面での負担を減らすことに繋がると考えられます。また事業拡大に伴い、部門責任者や子会社の社長といった重要ポジションに就任する候補者を育成することにもなります。
優秀な人材のリテンション
経営層ポストへの昇進ルートを明確に示しながら育成することによって、社員の士気を高めると同時に、優秀な人材の外部流出を防ぐことができる点もメリットの1つです。事業規模の拡大に併せて、全社員に精密な人事評価を行うことが難しくなるため、正当な評価を受けることのできなかった優秀な人材はフラストレーションを感じてしまうこともあるでしょう。サクセッションプランを導入することによって、社員のモチベーションを維持できるため、転職・独立を阻止する策として有効です。
サクセッションプランの策定手順
次にサクセッションプランの作り方を、5つのステップで解説します。
1.経営戦略や企業理念の明確化
サクセッションプランを上手く機能させるためには、企業理念や経営戦略を後任候補者に浸透させる必要があります。次世代の経営者・幹部に変革を委ねるものや、未来へも受け継ぐべき文化・慣習等を文章にまとめ、後継者候補や幹部候補に明示することが信頼関係の構築面でも重要です。自社を取り巻く経営環境や、技術・サービス革新の動向を分析しながら現在の経営者が変革を委ねるのも、モチベーションの発揮に効果的でしょう。
2.対象となるポジションの特定
次にサクセッションプランの対象となるポジションを定めます。事業継承を目的とする場合は、次期CEO候補者を対象とします。組織の改革を考えている場合は、役職の新設を検討したり、部長クラスを含む各役職を対象とする等が考えられます。対象となるポジションを定めることは、選抜基準や育成プログラムの決定にも影響する重要な段階となります。
3.ポジションに必要な人材要件の設定
対象ポジション毎の人材要件を決定します。それぞれのポジションに求められる知識や技術、スキルを具体的に洗い出し、選抜基準の見える化を行うようにしましょう。
4.人材要件に合った候補者の選定
適任者の選定方法は、キャリアや今までの成果ではなく、「今後必要となる要件を満たし得るか」といった、選定対象者の成長の可能性を図る必要があります。そのため、論文や面接に加え、ケーススタディやグループディスカッション等を外部のアセスメントセンターを利用して行うなど、多面的な評価を行うと良いでしょう。また、将来経営層として活躍できるかを見極めるために、候補者本人の熱意や性格、周囲からの人望を重視して選出する企業も多くあります。
5.育成(プラン)の開始
候補者が選抜された後は、個別の育成計画を作成した上でサクセッションプランを実行します。問題解決能力やリーダーシップ力を高めるアクションラーニングの受講や、他部署の管理職経験を通じて意思決定力を高める目的でジョブローテーションを実施する方法が考えられます。また定期的に社長や役員との面談を実施する等、フィードバックを通じて自律的な能力向上につなげることもプランの実効性を高めるには重要です。
まとめ
サクセッションプランは企業の後継者育成のみならず、企業成長にも重要な役割を果たします。経営者に適した人材が選ばれることになれば、リーダーシップを発揮し、企業を正しい方向へ導くことが可能になります。そのためにはまずサクセッションプランを正しく理解することから始めてみてはいかがでしょうか。
就職・転職・採用を筆頭に、調査データ、コラムをはじめとした担当者の「知りたい」「わからない」にお応えする、株式会社学情が運営するオウンドメディアです。