ERG(従業員リソースグループ)とは?企業ができる支援も解説
2023.08.21
グローバル化が進んで多様な価値観や働き方について議論されるなか、ERGに注目が集まっています。ERGを理解すれば、従業員のバックグラウンドや経験を活かした事業戦略により企業の競争力を高めたり、従業員の労働環境を改善したりするのに役立つでしょう。
本記事では、ERGについて知りたい方に向けERGの意味や従業員および企業へのメリット、企業側の具体的な支援策についてわかりやすく解説します。
ERG(従業員リソースグループ)とは
ERGとは「Employee Resource Group」の略称です。日本語では従業員リソースグループと訳されます。
ERGは企業の従業員が主体となった集まりを指します。おもに、後述するダイバーシティ&インクルージョンを推進・実現するために従業員自らによって形成されるのが特徴です。自発的な活動のため、企業側は社内のERGを支援するケースはあっても、従業員に対してERGの形成を促したり強制したりすることはありません。
ERGごとに所属するメンバーはなんらかの共通する特性や属性を持っており、メンバー自らが決めた活動目標に基づき行動します。たとえば、黒人主体で形成されたERGや、LGBTの人々によるERGなどがあります。
ERGはもともと1960年代のアメリカで黒人従業員の地位向上のため設立されたのをきっかけに世界へ普及した仕組みです。このような経緯からERGは人種、ジェンダー、障がいなど特定のマイノリティを共通の属性としてグループが形成されることがあります。しかし、それ以外にもたとえば子育て世代のERGや、ボランティアのようになんらかの社会問題に取り組むERGなど、共通の属性さえあればERGとして成立します。
近年、ERGへの注目が高まっている背景
ERGが初めて設立されたのは1960年代ですが、数十年経過した近年になって再び注目が集まっています。おもな要因を解説します。
ダイバーシティ&インクルージョンのため
ダイバーシティ&インクルージョンとは、簡単に言うと「多様性を受け入れ、それぞれの個性や能力に合わせた働きができるようにすること」を指します。直訳するとダイバーシティ(Diversity)は「多様性」、インクルージョン(inclusion)は「包括」「包含」の意です。
近年はグローバル化の影響もあり、多様な働き方を許容する考えが広まっています。たとえば国内では女性の社会進出に伴い共働き家庭が増え、外国人労働者も増加しています。また、テレワークで勤務する方や、介護と仕事を両立させている方、育児中の方、障がいを持ちながら働く方などもいるでしょう。
しかし、実際の職場ではそのような従業員の事情に合わせたサポートが十分でなく、従業員が存分に能力を発揮できない場合があります。また、サポートをする側の従業員が不満を溜め込んでしまうケースも考えられるでしょう。そこで、より多様な価値観を受け入れ、結果として人材不足の解消や生産性向上につなげる取り組みの一つとしてERGが注目されています。
従業員同士のつながりを強化するため
ERGは従業員が主動して作るグループのため、従業員同士の横のつながりを深められます。特に、近年はコロナ禍の影響でリモートワークが普及したため、従業員同士が直接コミュニケーションを取る機会が大幅に減少しました。仕事中のみならず、休憩中の雑談やランチタイムの交流なども失われ従業員同士のつながりが希薄になってしまった企業も少なくありません。
そこでERGを形成することで、従業員同士の交流機会を増やし結束を強めようとする動きがあります。従業員同士のコミュニケーションが活性化すれば、生産性の向上や従業員の定着など、さまざまな恩恵を受けられるでしょう。
社内にERGが生まれるメリット
ERGが形成されると、従業員や企業には次のようなメリットがあります。
従業員のモチベーション向上につながる
ERGがあれば従業員同士のつながりが強くなり交流も活発になるため、モチベーションの向上が見込めます。仕事でなにか悩みごとがあってもメンバー同士で共有し相談できるため一人で抱え込むリスクがなくなります。また、ERGの活動を通じて従業員同士で刺激し合えるのもメリットです。
ERGでの活動を認められれば、業務でも自信を持って働けるようになるでしょう。また、ERGの活動を通じて得た知見やアイディアを業務に活かし、企業に貢献もできます。
職場環境の把握・改善に役立つ
ERGは現場の声を直接拾う良い場になります。ERGは経営層ではなく実際の労働環境に身を置く従業員から成り立つため、現場になにか課題や問題があれば浮き彫りにできるでしょう。現場の声を参考に、実際に労働環境を改善するための具体的かつ実用的なアイディアも得られます。
たとえば子育て世代によるERGであれば、産休や育休を取りやすいか、時短でも働けるか、急な休みがほかの従業員の負担になっていないかなど意見を募れます。もし問題があればERGのメンバー、あるいはほかのERGから見た意見を参考に改善することで、今後育児を始める従業員はより働きやすくなるでしょう。
また、管理職などの上層部が現場の声を積極的に聞くことで、従業員は上層部との接点を得られます。社内での地位が低い立場であっても意見を述べる機会を持てるため、企業への信頼につながるでしょう。
離職率の改善が期待できる
ERGがあれば特定の属性を持った従業員に安心して働いてもらえるため、離職率の低下につながります。ERGでは共通の属性を持つ従業員同士でのコミュニケーションの機会を多く得られるため、特にマイノリティに属する方にとっては孤立化を防ぐ手段になります。同じ悩みを持つ者同士での話し合いや、労働環境改善のための活動を通じて連帯感が生まれるでしょう。
仲間の存在や労働環境が改善に向かっていることを実感できれば、現在の労働環境に対して愛着を持ちやすくなります。会社への忠誠心や愛社精神が高まれば定着してもらいやすくなるため、採用コストの削減や従業員のキャリア形成もスムーズになります。
ダイバーシティの土台形成に役立つ
ERGの取り組みは、社内のダイバーシティ&インクルージョンの促進にもつながります。仮にマイノリティに否定的な従業員がいた場合も、ERGの存在があれば多様な価値観に触れ、メンバー特有の悩みや苦労を理解する契機になるかもしれません。
特に、バックグラウンドに企業の存在があれば、ERGの存在やメンバーの属性そのものが否定されにくくなります。
多様な価値観を受け入れる従業員の割合が次第に増えれば、結果的にダイバーシティ&インクルージョンを当たり前とする企業風土ができあがります。あらゆる従業員がお互いを尊重して助け合い、気持ち良く働ける職場環境の土台作りになるでしょう。
新規ビジネスアイディアの創出が期待できる
同じ属性を持つ従業員による特有の悩みや問題の解決への取り組みは、新しいサービスや商品を生み出すチャンスになります。
わかりやすい例には、子育て世代や主婦(夫)目線で作られた便利グッズがあげられるでしょう。まったく子育てや家事の経験がない方が子育て世代や主婦(夫)に向けたサービスや商品を開発するよりも、経験のある人物が意見を出し合った方がより実情に合ったサービスや商品を生み出しやすくなります。
同様に、海外で発売する商品なら対象国の国籍や居住経験を持つ従業員の方がニーズに合った商品を提案できます。従業員の話を聞けば、売り込み方のヒントを得られるかもしれません。ほかにも、ヴィーガン、若者世代、介護、障がい者などあらゆる層にこの考え方が適用できます。
このように、特定の属性にヒットする商品を作りたいなら、同じ属性を持つ人々の話を聞くのが近道であり、それを社内で実現できるのがERGです。
企業の評判・評価の向上に寄与する
ERGの活動を通じて、企業の評判や評価を上げることもできます。ERGは従業員自らが活動内容を決め、その活動は社内に留まらず社外に及ぶことも多いです。そのため、ERGで社会貢献を続けていれば、自然と「あの企業の従業員はこの分野で社会貢献活動をしている」という評判が高まります。詳しくは後述しますが、実際に第三者の立場からERG活動を評価する制度やルールも存在するため、それらと照らし合わせれば経営する立場の人としてもERGの活動成果を視認しやすくなります。
また、評判・評価が向上することはERGに参加する従業員のモチベーションアップにもつながります。社内だけでなく社外でも評価されるため、自分たちの活動により同じ属性を持つ人々の存在が世の中に知れわたり、社会的地位の向上に向かっていると実感できる良い機会になるでしょう。
特に障がい者、性的マイノリティなどに属する人々はその事実を明かすことを躊躇するケースもありますが、企業をバックに社外への活動を通じて地位を高めれば自己肯定感のアップにもつながります。
ERGに対する企業の活動支援例
ERGは従業員が主体となって形成しますが、企業側としてできる支援はさまざまあります。具体的な支援策をいくつか紹介します。
ERGの活動を評価に反映する
ERGの活動に基準を設け、成果に応じて従業員にインセンブティブを与える方法があります。活動が直接報酬に結びつけば、ERGが活発に運営されやすくなるだけでなく、従業員のモチベーション向上も見込めるでしょう。
評価をする場合は評価基準が必要です。基準が明確になり、成果が数値化されればERGの活動や必要性に疑問を持つ従業員がいたとしても説得材料になるでしょう。さらに、定められた基準を達成し明確に成果をあげれば、社内はもちろん社外にも理論的に影響力をアピールできるようになります。
ERGは社内外に活動を周知し、影響を与えてこそダイバーシティ&インクルージョンの土台を形成できるため、企業側が報酬により活動を促進させるのは本来の役割を果たす意味でも良い方法です。
ただし、ERGはあくまで従業員が自主的に活動をしなければ意味がありません。報酬ありきにならないように評価項目の制定には注意が必要です。
社内報でERGを紹介する
社内報や社内SNS、あるいは社内行事を通じて、ERGの存在や活動内容を周知するのも企業ができる支援策の一つです。ERGは新規メンバーを定期的に獲得しないと活動を広げられません。既存の従業員はもちろん、特に新規の従業員は業務外の活動を行うERGの存在を知らない可能性もあるでしょう。
そこで、社内報や社内SNS、あるいは新人オリエンテーションなどの機会を利用して積極的にERGの存在を周知すれば、ERGは新規メンバーを獲得しやすくなります。また、ERGの存在の認知によりダイバーシティ&インクルージョンの価値観を従業員が理解する一助にもなります。
特に大企業のように組織が複雑であればあるほど、ERGの存在が埋もれないよう周知徹底が必要です。
ERGのスポンサーになる
ERGのスポンサーとして、役員・経営層が活動を支援するのも有効です。ERGが活動を広げるためには予算が要ります。スポンサーとしてイベント費、広報活動などの予算を提供できれば、ERGはより成果をあげ企業へ寄与するでしょう。また、バックに強力なスポンサーがつけばERGのメンバーは「企業に認められている、支援されている」との自信を持てます。
ERGのスポンサーになるメリットはそれだけではありません。スポンサーとしてERGに関われば、従業員はスポンサーである役員・経営層に直接当事者の声を届けやすくなります。また、スポンサー側はリアルな声を直に聞き、ときにはERGの協力を取りつけてビジネスへ活用できます。
ERGを支援するには、単なるスポンサーとなるだけでなくアライ(Ally)と呼ばれる支持者としてERGに参加するのも有効です。同じ属性を持たなくても、支援する意志があればERGに参加し、メンバーの価値観を共有できます。
ERGの活動に手当を支給する
ERGの活動に対し、企業側からメンバーに手当を支給するのも支援策の一つです。ERGはもともと業務時間外に無償で活動するのが一般的ですが、手当が出ればERGの形成が促進されやすくなるでしょう。
ただし、そもそもERGは従業員が自発的に形成するとの前提があるため、手当を支給することで業務内容の一部と見なしてしまう従業員も出る恐れがあります。ERGの根幹を成すボトムアップの大前提が崩れないよう慎重な検討が必要です。
また、手当の内容や支給対象によって、メンバー間やERG間に格差が生まれたり、不平・不満の原因となるリスクもあります。従業員同士の連帯感を強めたり、孤立感をなくすのがERGの目的の一つなので、手当によって結束が弱まっては本末転倒です。
あくまで従業員の自主的な活動、業務時間外の活動を前提に、どこまでを支援すべきかを検討しましょう。
ERGの活動に対する外部の評価
ERGの活動や成果は、第三者の制定した基準によって客観的に判断できます。ERGに活用できる外部の認定制度を二つ紹介します。
えるぼし認定
「えるぼし認定」は厚生労働省の制定する、女性の活躍を促進している企業への認定制度です。「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づいて各評価項目が定められており、基準を満たせば「えるぼし認定」もしくは「プラチナえるぼし認定」が受けられます。評価項目ごとの実績は毎年公表されるため、どの企業がどの企業より優れ、女性にとって働きやすい環境なのか、あるいは前年度と比較してどう改善されたのかなど客観的に判断ができます。
厚生労働省によると、えるぼし認定の評価項目は次の五つです。
- 採用
- 継続就業
- 労働時間等の働き方
- 管理職比率
- 多様なキャリアコース
また、「えるぼし認定」は全三段階あり、各評価項目で一定基準を満たした項目数が多いほど取得可能な段階が上がります。「プラチナえるぼし認定」はさらに厳しい基準が設けられています。
厚生労働省のデータベースに登録されている、令和2年9月末時点でえるぼし認定を受けた企業は1,134社、プラチナえるぼし認定を受けた企業は3社でした。しかし、令和4年6月末時点ではえるぼし認定企業が2,161社、プラチナえるぼし認定企業は34社と大幅に増加しています。
※出典:「女性活躍推進企業認定「えるぼし・プラチナえるぼし認定」」(厚生労働省)
PRIDE指標
PRIDE指標はLGBTQ+のセクシュアル・マイノリティに対する取り組みを評価するための指標です。評価基準は「PRIDE」のそれぞれの文字を頭文字にした、次の五つの項目から成り立ちます。
- Policy(行動宣言):会社全体で問題解決のため行動することを明示しているか
- Representation (当事者コミュニティ):マイノリティに関する発言が可能なコミュニティや相談先があるか
- Inspiration (啓発活動):当事者以外に対しマイノリティに対する理解を促しているか
- Development (人事制度・プログラム):どの従業員も平等あるいは配慮された対応がされているか
- Engagement/Empowerment(社会貢献・渉外活動):社内だけでなく社外の企業や団体と連携して活動をしているか
評価基準は年々指標の見直しが行われており、より正確に細分化して評価できるように改善されています。認定を受ければ、LGBTQ+が働きやすい職場だとのアピールになります。
※出典:「PRIDE指標とは」(work with Pride)
ERGを事業に活用する際の疑問
最後に、ERGを企業で活用する際の疑問に回答します。
ERGの活動を前提とした事業戦略はあり?
ERGは新商品の開発や社会貢献を通じた会社の評価上昇にも寄与するため、企業側がERGを支援したり、ERGの存在を前提に事業計画を練るのは有効な戦略です。
実際、ERGを積極的に事業戦略に組み込んだ形としてBRG(Business Resource Group)と呼ぶケースもあります。Employee(従業員)ではなくBusiness(業務)が使用されているとおり、事業の一環としてグループ形成を支援し、積極的に売上や業務改善に取り組んでもらうのが特徴です。
形成や活動を支援する代わり、BRGに事業へ貢献してもらえば企業のさらなる成長を見込めます。たとえば外国人労働者によるBRGは、グローバル化や海外進出に大いに役立つでしょう。なんらかの専門的知識を持つ集団のBRGなら、その知識を活かして特定の分野に特化した人材を育成することも可能です。
失敗しやすいERGの特徴とは?
失敗するERGには、いくつかの傾向があります。たとえば、最初から大規模なERGを形成してしまうと、グループ内の意見がまとまりにくいため目標設定や活動内容も決めにくく、グループとして機能しません。小規模から始めれば、リーダーの選出や方向性の軌道修正、ルールの制定・周知なども容易です。運営する上でのノウハウの蓄積もしやすくなります。
また、失敗するERGにはもう一つ、広報活動をしていないという特徴も見られます。存在を社内もしくは社外に周知しなければ、新規のメンバーは集まりません。また、メンバーが少ないと活動のリソースが足りず企業や社会への貢献もしにくくなります。企業側が率先してERGの活動を支援し、前述したように社内報や社外での活動を通じてERGの存在を広める必要があります。
ERGでダイバーシティ&インクルージョンの風土を根付かせよう
ERG(従業員リソースグループ)は従業員が自発的に形成する、共通の属性を持った人々の集まりです。ERGにより従業員は自分のアイデンティティに自信を持ち、意欲的に周囲と協調して業務へ取り組めるようになります。また、ERGが新商品の開発や社外からの評価へつながることもあり、事業戦略の一部として積極的に企業側が支援するケースも少なくありません。
ERGは多様な価値観を持つ人々で構成され、ときにはマイノリティを属性とすることもあるため、ERGを導入すれば社内にダイバーシティ&インクルージョンの土台形成を促せます。
グローバル化が進み多様な価値観を持った人々に接する機会も増えるなか、ダイバーシティ&インクルージョンへ積極的に取り組むことは企業の急務であり大きな課題とも言えるでしょう。まずは小規模なERGから形成を支援し、徐々に広げてあらゆる従業員が積極的かつ快適に働ける環境を構築しましょう。
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