ガラスの天井とは?数字で見る日本の現状、壊すメリットを解説
2023.08.24
政府は男女共同参画社会の実現を目指し、企業にも取り組みを求めています。男性も女性も意欲に応じて活躍できる社会を実現する上で、障壁とされているのが「ガラスの天井」です。
本記事ではガラスの天井の意味や問題点を紹介します。ガラスの天井の壊し方も具体的に詳しく解説するので、自社の男女平等参画の実現にお役立てください。
ガラスの天井とは
ガラスの天井とは、「企業や組織などで十分な才能や技術を持つ人物が、人種や性別などを理由に不当な地位に甘んじることを強いられる状態」のことを指します。
昇進が不当に阻まれる状況を、見えない天井に例えた比喩表現です。働く女性が才能や実績に見合わない職務に留まっている状況を指すときにも用いられます。
男女平等参画の実現を図る上で、「ガラスの天井の解消」は避けられないテーマです。働く女性のキャリアアップが不当に妨げられることのない組織づくりが求められています。
「ガラスの天井」という言葉が登場したのは1978年だと言われています。当時、アメリカで企業コンサルタントをしていたマリリン・ローデンが初めて使用しました。1986年3月、ウォールストリート・ジャーナルが記事内で「ガラスの天井」という言葉を取り上げたのがきっかけで注目され、現在でも使われるようになりました。
「壊れたはしご」や「ガラスの崖」との違い
女性の社会進出を妨げるものとして「壊れたはしご」と「ガラスの崖」という表現も用いられることがあります。
「壊れたはしご」は、女性がキャリアアップするために登っていく「はしご」が最初から壊れている状態のことを指す表現です。キャリアアップするなかで昇進を不当に妨げられるガラスの天井と異なり、個人の能力に関係なく、働き始める前からキャリアアップが期待できない状況を表しています。
「ガラスの崖」は、組織が危機的状況に陥ったときに男性よりも女性が責任者の立場に置かれやすい状態を表した言葉です。危機的状況の立て直しは困難で、誰がその立場に置かれたとしても失敗のリスクは高いでしょう。
いずれの概念も、社会における不平等や偏見の存在を表しており、「やはり女性に責任者のポジションは難しかった」という誤った見解を広めてしまう恐れがあります。
数字で見る日本のガラスの天井
日本におけるガラスの天井が、どのような状況なのか理解を深めましょう。
ジェンダーギャップ指数は先進国で最低レベル
ジェンダーギャップ指数とは、男女格差を数値化したものです。「教育」「経済」「政治」「健康」の4分野で構成されています。
日本は、先進国のなかでも男女格差の大きい国です。2023年世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数」による日本の総合順位は、調査対象となった146か国中125位でした。
分野別の順位は教育(47位)、経済(123位)、政治(138位)、健康(59位)となっており、特に政治参加の評価で格差が広がっています。
※出典:「ジェンダー・ギャップ指数(GGI)2023年」(内閣府男女共同参画局)
(https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html)
上場企業の女性役員の割合は9.1%
2022年、日本の上場企業において女性役員の割合は9.1%でした。2012年と比較すると5倍以上になっていますが、諸外国と比べると依然として低いと言えるのが現状です。
OECD(経済協力開発機構)が発表しているデータによると、上場企業の女性役員の割合はフランスが45.3%、アメリカが29.7%となっています。
2013年4月、総理から経済団体へ上場企業の役員に一人は女性を登用するよう、要請がありました。しかし、未だに日本の上場企業は女性の管理職の割合が低いと言わざるをえません。
※出典:「上場企業の女性役員数の推移」(内閣府男女共同参画局)
(https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/pdf/yakuin_01.pdf)
女性の家事育児の負担時間は男性の約4倍
女性の家事育児にかける時間の負担も、ガラスの天井の要因の一つになっています。
総務省統計局が発表した「令和3年社会生活基本調査」によると、女性が家事育児にかけている時間は男性の約4倍という結果が出ました。家事育児の負担が大きいため、仕事を続けたくても続けられない女性がいると考えられます。
また、総務省統計局「我が国における家事関連時間の男女の差~生活時間からみたジェンダーギャップ~」によると、6歳未満児のいる夫・妻の1日当たり家事・育児関連時間は次のとおりです。
夫 | 妻 | |
日本 | 1時間54分 | 7時間28分 |
アメリカ | 3時間37分 | 6時間4分 |
国際的にみても、日本は女性の家事育児の負担時間が大きいことがわかります。
※出典:「令和3年社会生活基本調査の結果」(統計局)
(https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/kekka.html)
※出典:「我が国における家事関連時間の男女の差~生活時間からみたジェンダーギャップ~」(統計局)
ガラスの天井が生まれる4つの原因
そもそも、ガラスの天井はなぜ生まれるのでしょうか?日本でガラスの天井が生まれる代表的な4つの原因を紹介します。
出産・育児
女性は、出産や育児などのライフイベントでキャリアパスが中断されやすい傾向があります。また、出産や育児を経て復帰しても、以前と同じポジションや条件で戻るのが難しいのが現状です。
ガラスの天井を生まないためには、女性自らキャリアアップに対して意欲を持てる組織づくりが望まれます。
働く女性の意識
働く女性の意識が、ガラスの天井を生んでしまうことがあります。
公益財団法人「21世紀職業財団」が行ったアンケートによると「あなたは難題に直面した時になんとかやりとげる自信がありますか」という質問に対して「自信がある」と回答した人の割合は、若手男性社員で26.4%、若手女性社員で18.5%でした。アンケートより、男性と女性の意識に違いがあることがわかります。
「前例が少ないから」「社会の空気が女性の昇進に積極的ではないから」と自信のなさから責任のある管理職に就くことに躊躇するケースがあるようです。
また、業務を円滑に進めようとした結果、周囲に合わせることを重視して、自分自身の能力を十分に発揮できないケースも見られます。
※参考:「若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究(2015年度)」(公益財団法人 21世紀職業財団)
(https://www.jiwe.or.jp/application/files/1914/6043/9005/09_chapter07.pdf)
昇進できない環境
女性の昇進が難しくなっている環境も、ガラスの天井を生む原因の一つです。日本の企業には、女性のキャリアパスでは昇進の条件を満たせないケースが多く見られます。
たとえば、長時間勤務が常態化している企業では、育児や介護による時間的な制約を抱えている女性が、正当に評価されるのは困難でしょう。
また、昇進するために必要な経験を積めない職場環境も課題です。女性は出産や育児など、ライフステージの変化によって一時的に休業せざるをえない場合があります。
企業には、女性も経験を積める職場環境の整備が求められます。女性が昇進を目指せない職場では、ガラスの天井を解消するのは難しいでしょう。
アンコンシャス・バイアスの存在
アンコンシャス・バイアスの存在が、ガラスの天井を生む原因となっているケースも考えられます。アンコンシャス・バイアスとは、無意識の偏見や思い込みで決めつけてしまうことです。
世間やマスコミで広く伝わっている男らしさや女らしさといったイメージがもとになって、アンコンシャス・バイアスが出来上がっていると考えられます。たとえば、「管理職は男性」、「重要なポジションには男性」などの思い込みや偏見です。
このような偏見や思い込みを持ってしまうと、正当な理由なく女性の昇進を阻んでしまうことになりかねません。
ガラスの天井を壊すメリット
ガラスの天井を壊すことで、どのようなメリットがあるのか解説します。
ROEやEBITが高くなる
ROEとは、企業が自己資本に対してどの程度の利益を上げているかを数値化した財務指標です。ROEが高い企業は、経営効率が良いと考えられます。EBITは、営業活動から生まれる利益を確認するための指標として使われる数値です。
ガラスの天井を壊すメリットの一つが、企業の発展につながることです。ガラスの天井を壊すことで女性役員が増えると、ROEが7%、EBITは6%高くなるというデータがあります。
女性役員が増えた企業は、業務効率や業務成績も向上していることがわかります。
※出典:「令和3年度 女性の役員への登用に関する課題と取組事例」(内閣府男女共同参画局)
投資家からの評価が上がる
ガラスの天井を壊して女性の活躍を推進することは、投資家の評価を上げることにもつながります。企業で女性が活躍できているかどうかは、ESG投資の判断基準になるからです。
内閣府男女共同参画局が実施したアンケートでは、半数以上の機関投資家が、投資判断に「女性活躍情報を活用している」との結果が出ました。
ESG投資のESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を組み合わせたものです。ESG投資では、投資する判断として、環境面や社会面にも配慮した事業を行っているか、適切な管理体制を整えているかを考慮します。
女性の活躍を推進している企業というイメージをPRできれば、より多くの投資が期待できます。
※参考:女性活躍情報がESG投資にますます活用されています」(内閣府男女共同参画局)
(https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/pdf/yakuin_r02.pdf)
人材確保で有利になる
ガラスの天井を壊すことで、女性が長期的に働きやすい職場となり、人材の流出を防げます。女性も働きやすい職場であるとPRできれば、人材も集めやすくなるでしょう。
さらに、生産性の向上も期待できます。職場の働きやすさは、社員のモチベーションアップにもつながるからです。モチベーションアップすることで職場の雰囲気が良くなれば、人材の定着率アップも望めます。
ガラスの天井の壊し方
女性が働きやすい職場を実現するためには、ガラスの天井を生む原因だけではなく、壊し方も知っておく必要があります。ここからは、ガラスの天井の壊し方を具体的に解説します。自社の男女平等参画を実現するため、ぜひ参考にしてください。
クオータ制の導入
男女格差の是正を目的として、クオータ制の導入が考えられます。クオータ制とは、組織において昇進する人の割合を、あらかじめ性別や人種などで決めておく制度です。
企業のクオータ制導入事例として、役員の女性比率や社員の女性比率を定めることが考えられます。クオータ制の導入によって、女性の役員比率が高まり、ガラスの天井を破壊することが可能です。
クオータ制発祥の地であるノルウェーでは、法律を整備して企業に導入しています。上場企業に対しては、一定比率を達成できないとペナルティが課せられるようにした結果、2021年には女性役員比率41.5%を実現しています。
※出典:「共同参画 2022年6月号」(内閣府男女共同参画局)
(https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202206/pdf/202206.pdf)
女性のキャリアを阻む環境を変える
ガラスの天井を壊すには、女性のキャリアを阻む環境を変えるのも効果的です。
内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査(令和4年11月調査)」では「育児や介護、家事などに女性の方がより多くの時間を費やしていることが、職業生活における女性の活躍が進まない要因の一つだという意見があるが、この意見について、どう思うか」という問いに対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」とする人の割合が84.0%となっています。
割合 | |
そう思う | 38% |
どちらかといえばそう思う | 46% |
どちらかといえばそうは思わない | 10.2% |
そうは思わない | 4.5% |
無回答 | 1.4% |
※出典:「男女共同参画社会に関する世論調査(令和4年11月調査)」(内閣府)
(https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-danjo/2.html#midashi10)
さらに「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人に「育児や介護、家事などに費やす時間を男女間でバランスのとれたものとし、職業生活における女性の活躍を更に推進するためには、特にどのような支援が必要だと思うか」を聞いたところ、次のような結果となりました。
割合 | |
育児や介護のための休業制度や短時間勤務制度など、仕事との両立を支援するための施策の整備 | 40.5% |
保育施設や介護施設の整備など、育児や介護をサポートする設備やサービスの整備 | 36.4% |
長時間労働慣行の是正やテレワークの推進など、育児や介護、家事などに用いることができる時間を増やすための勤務環境の整備 |
21.6% |
※出典:「男女共同参画社会に関する世論調査(令和4年11月調査)」(内閣府)
(https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-danjo/2.html#midashi10)
企業は育児や介護、家事などと仕事を両立するための施策や設備、サービス、勤務環境の整備が求められています。
たとえば出産や育児、介護に関わる福利厚生を充実させることで、女性も働きやすくなるでしょう。具体的には、産休や育休を取りやすくする、リモートワークを導入する、復帰後のサポートを充実させるなどの方法があげられます。
また、制度を利用しやすい雰囲気作りも重要になります。制度が充実していても、申請しづらい雰囲気だと機能しません。フルタイム勤務が難しい社員でも、時短勤務があれば働き続けられるかもしれません。
働きやすい環境を整えることで、定着率のアップも望めます。
社員の意識改革を実施
ガラスの天井を壊すには、社員の意識改革を進めるのも一つの方法です。意識改革の方法には、育休明けの復帰に向けたセミナーや、国際女性デーに合わせたイベントの実施などがあげられます。
一方的に意識改革を進めていくのではなく、ときには社員からのヒアリングや、経営層と社員の話し合いなども必要です。PDCAを回して長期的に実施しましょう。
また、社員の意識改革を実施するためには、経営層から率先しなければなりません。社員の意識は、経営層の発言や考え方に影響されるからです。まずは経営層から意識改革の必要性を理解しておくことが大切です。
社内のコミュニケーションを活性化
経営層や社員など、役職や立場に関係なく議論できる環境を整えましょう。組織が一体となって取り組まなければ、社内のコミュニケーションは活性化しません。時間がかかっても、意見や相談をしやすい環境をつくっていく必要があります。
社内のコミュニケーションを活性化するために、風通しの良い組織を目指しましょう。社員間で接触がなかったり、意見しづらかったりする職場では、コミュニケーションの活性化は望めません。
コミュニケーションを活性化できる制度や仕組みづくり、ツールの導入も検討しましょう。たとえば、次のようなものがあげられます。
- フリーアドレスのレイアウト
- リフレッシュスペースの設置
- メンター制度の導入
- ITツールの導入
ガラスの天井を壊すのに役立つツール・制度
ガラスの天井を壊すのに役立つツールや制度を紹介します。自社で活用できそうなものがないか、ぜひ参考にしてください。
両立診断
両立診断は、ガラスの天井を壊すための参考となるツールです。自社の仕事と家庭の両立に関する取り組み状況を客観的に診断します。他社との比較も可能です。
両立診断には、より詳細な結果を得られるメイン診断と簡易的なトライアル診断があります。メイン診断は企業情報の登録が必要ですが、トライアル診断は企業情報を登録しなくても試せます。
まず、トライアル診断を試して、より詳細な結果を求める場合は、メイン診断も実施すると良いでしょう。
両立診断サイト
見える化支援ツール
見える化支援ツールは、現状を見える化して実態を把握できるツールです。実態調査票や作業シート、社員の意識調査アンケートが提供されており、ホームページからダウンロードが可能です。作業シートに入力したデータやアンケート結果から、実態調査票の各項目ごとに指標を算出できます。
見える化支援ツールで算出した指標から、問題点を洗い出して対策や方針を検討しましょう。毎年調査をしていくことで、取り組みの成果が出ているかを客観的に判断できます。
ポジティブ・アクション|見える化支援ツール
(https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/mieruka/mieruka_p2.html)
両立支援等助成金
両立支援等助成金は、厚生労働省が制定している支援金です。女性の社会的な活躍推進の支援を目的として、複数のコースが設けられています。各コースの対象と助成額は次のとおりです。
コース |
対象 |
助成額 |
出生時両立支援コース (子育てパパ支援助成金) |
【第1種】 男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境の整備措置を複数実施するとともに、労使で合意された代替する 労働者の残業抑制のための業務見直しなどが含まれた規定に基づく業務体制整備を行い、産後8週間以内に開始する連続5 日以上の育児休業を取得させた中小企業事業主
代替要員加算:男性労働者の育児休業期間中に代替要員を新規雇用(派遣を含む)した場合
【第2種】 第1種助成金を受給した事業主が男性労働者の育児休業取得率を3年以内に30%以上上昇させた場合 |
【第1種】 育児休業取得時 20万円 ※1回限り
・代替要員加算 20万円(3人以上45万円) ※1回限り
【第2種】 1年以内達成:60万円 2年以内達成:40万円 3年以内達成:20万円 ※1回限り |
介護離職防止支援コース |
「介護支援プラン」を策定し、プランに基づき労働者の円滑な介護休業の取得・復帰に取り組んだ中小企業事業主、または 介護のための柔軟な就労形態の制度を導入し、利用者が生じた中小企業事業主 |
休業取得時 30万円 職場復帰時 30万円 ※1年度各5人まで |
育児休業等支援コース | 育児休業の円滑な取得・職場復帰のために取り組みを行った事業主 |
育休取得時 30万円 職場復帰時 30万円 ※各2回まで(無期雇用者・有期雇用者 各1回) |
※出典:「2023年度の両立支援等助成金の概要」(厚生労働省)
男女平等参画を実現するためにガラスの天井を解消しよう
ガラスの天井の解消は、企業を成長させる上で重要な課題です。ガラスの天井を解消して男女平等参画を実現させることが、人材確保や業績アップにもつながります。
ガラスの天井を解消させるためには、企業全体で取り組む必要があります。自社の現状を分析して、福利厚生の充実や意識改革を進めていきましょう。必要に応じて、ツールの使用や助成金の利用も検討します。
男女平等参画の実現は、長期的な視点で考える必要があります。評価と改善を繰り返して、ガラスの天井を解消しましょう。
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