HR用語の基礎知識
採用活動における面接では、応募者に何を聞いても良いわけではありません。厚生労働省では企業が公正な選考採用を行うよう、採用面接で聞いてはいけない事項を定めています。
また、優秀な人材を獲得するには、応募者に不快な思いをさせないことが大切です。採用担当者は優秀な人材を逃さないよう、聞いてはいけない事項をおさえておきましょう。
本記事では、採用面接で聞いてはいけない質問や聞いてしまったときに与える影響などを解説します。
厚生労働省では、採用選考において次の2点を基本的な考え方としています。
企業には応募者を差別せず、公正な選考を行うように求めています。
また、公正な採用選考の基本として「応募者に広く門戸を開くこと」「本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とすること」の2点をあげています。
公正な採用選考を行うには、自社の雇用条件や採用基準に合うすべての人が応募できる環境を作ること、応募者の適性や能力で公正に選考することが必要です。
たとえば、本籍地や家族構成、支持政党などは、本人の適性や能力に関係がないため、採用基準にしてはいけません。
※出典元:厚生労働省「公正な採用選考の基本」
厚生労働省の「公正な採用選考の基本」では、採用選考時に配慮すべき事項を定めています。これらの事項は採用基準にしてはいけないため、企業が把握する必要はありません。
企業側は把握するつもりがなくても、応募書類に記入させたり面接で質問したりすることは、基本的な考え方から逸脱しており、就職差別につながるおそれがあります。
最悪のケースでは法律違反と見なされ、何らかの処分を受ける可能性もあるため、注意が必要です。
採用面接で配慮すべき事項は、次の3つに分けられます。
ここからは、採用面接で配慮すべき、聞いてはいけない事項とその質問例を紹介します。
ルーツや環境などは、応募者本人に責任がない事項です。採用面接で聞くことは就職差別につながるリスクがあります。
応募者の本籍や出身地に関することは、本人に責任がないため、採用面接で聞いてはいけません。
たとえば次のような質問は避けるべきです。
また、戸籍謄本や本籍が記載された住民票を提出させることも、就職差別に該当するおそれがあるため、適切ではありません。
採用面接では、家族に関する質問にも配慮すべきだとしています。家族に関することとは、職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産などです。
これらの事項も採用面接では聞かないようにします。
家族に関する質問例は、次のとおりです。
採用面接では、応募者の自宅の間取りや部屋数、物件種別、周辺施設などの住宅状況に関することも配慮すべきとしています。
住宅環境に関する質問例は、次のとおりです。
住宅環境も応募者の適性や能力に直接関係がありません。採用面接では聞かないようにしましょう。
採用面接では、応募者の生活環境や家庭環境に関することも配慮すべきです。
生活環境や家庭環境に関する避けるべき質問例は、次のとおりです。
生活環境や家庭環境に関する質問は、応募者と家族の生活水準を推測し、それを基準に評価してしまうリスクがあります。
応募者をリラックスさせるためのアイスブレイクとして使用した場合でも、職業差別と見なされる可能性があるため、注意が必要です。
価値観や支持政党などは人によってさまざまで、本来自由であるべき事項です。
応募者の宗教に関することは本来自由であるべき事項として、配慮すべきとされています。たとえば次のような質問は、避けるべきです。
日本国憲法第20条では、信教の自由が保障されています。
応募者の信仰する宗教を採用基準にすることは、憲法の精神に反します。信仰する宗教は応募者の適性や能力に直接関係がないため、採用面接では質問しないようにしましょう。
応募者の支持政党に関することも本来自由であるべき事項です。支持政党に関する次のような質問はしないようにしましょう。
採用面接では応募者本人だけでなく、家族の支持政党に関する質問も避けます。
また、2016年6月19日より選挙権が20歳から18歳に引き下げられたことから、たとえば高校生のアルバイトの採用面接で「選挙に行きましたか?」といった質問をするケースがあるかもしれません。
しかし、年齢を問わず応募者の投票行動や政治的な活動に関する質問は、それを基準にした評価につながるおそれがあるため、聞かないようにしましょう。
応募者の人生観や生活信条に関することも、採用選考では配慮すべきとされています。
信条とは「自分が思考・行動するときの決めごと」を意味し、本来自由であるべき事項です。たとえば次のような質問を指します。
採用面接では応募者の人生観や生活信条を推しはかり、評価の対象にするような質問は避けるようにしましょう。
本来自由であるべき事項として、応募者の尊敬する人物に関することに関しても配慮すべきとされています。
次のような質問は、就職差別につながるおそれがあるため、注意しましょう。
尊敬する人物は応募者の思想・信条に関わる可能性があります。また、日本国憲法第19条では思想の自由が保障されており、本来自由であるべき事項です。
働く上で関係のないことのため、採用面接では質問しないようにしましょう。
応募者の思想に関することは本来自由であるべき事項として、配慮すべきです。就職差別につながるおそれがある思想に関する質問例は、次のとおりです。
思想の自由は日本国憲法第19条で保障されており、採用選考に持ち込むと基本的人権を侵害する可能性があります。
また、応募者の思想を把握しようとするのはプライバシーの侵害になるため、たとえ表現を変えても質問しないようにしましょう。
応募者の社会運動に関することも配慮すべきです。社会運動とは、労働組合や学生運動などを指します。
次のような質問は避けましょう。
応募者本人が社会運動へ参加したかどうかだけでなく、デモに対する考え方を聞くこともタブーとされています。
アイスブレイクに聞きがちな応募者の愛読書に関することも、配慮すべき事項に含まれています。たとえば次のような質問です。
愛読書に関する質問は、応募者本人の思想信条を探ることにつながりかねません。応募者の緊張をほぐすためのアイスブレイクでも、質問しないように注意しましょう。
男女雇用機会均等法は、性別に関わらず均等な雇用を得て、意欲と能力に応じた均等な待遇を受けられることを目的としています。
応募者の男女差別につながる質問は、男女雇用機会均等法に抵触するおそれがあるため、タブーとされています。たとえば次のような質問です。
応募者の返答に応じて採用・不採用が判断される要素になる場合は、採用選考に性差別を用いていると判断されます。
また、これらの質問は相手に不快感を与えるだけでなく、企業のイメージ低下や法律に抵触する恐れがあるため、注意しましょう。
容姿に関することも配慮すべき事項です。次のような質問は避けましょう。
ただし、一定の身体能力が求められる職業(自衛隊など)は、正当な理由がある場合に限り認められるケースもあります。
採用面接で応募者に聞いてはいけない質問をした場合、相手に不快感を与えるだけでなく、企業に大きなダメージを与える可能性があります。
法律違反行為と見なされると懲役や罰金の対象になるため、採用面接での質問には細心の注意を払う必要があります。
職業安定法第五条の五では、採用活動において必要な範囲内を超える個人情報を応募者の同意なく収集してはならないと定められています。
法律で原則として収集が認められていない個人情報は、次のとおりです。
社会的差別の原因となるおそれのある事項 |
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思想および信条 |
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労働組合への加入状況 |
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違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることもあります。
近年、TwitterやInstagramなどのSNSを利用する人が増えています。それに伴い、SNSを利用して採用活動を行う企業も増えました。
SNSは便利なツールである一方、一つの投稿が社会を巻き込む大きな事態に発展しかねない側面もあります。
採用面接で不快な質問をされた場合、応募者がその内容をSNSに投稿する可能性があります。印象の悪い内容が拡散されると、企業イメージの低下につながるおそれがあるでしょう。
企業イメージが低下すると、自社への応募者が減るかもしれません。すでに優秀な人材を獲得していてもSNSによる悪評がきっかけとなり、内定辞退者が出てくることも考えられます。
また、企業イメージが低下することで、顧客や取引先の信用を失い、業績に悪影響を及ぼすケースもあります。
採用面接を適切に行うために、まずは自社の採用活動に関する内容を見直してみましょう。
採用面接を正しく行うためには、自社の採用基準を見直し、明確にすることが大切です。
採用基準が曖昧な場合、面接官によって質問内容にブレが生じ、聞いてはいけない質問をしてしまう可能性があります。
自社の採用基準を明確にしておけば、聞いてはいけない質問を避け、公平で客観的な評価ができるようになるでしょう。
応募者が自社に合う人物かを正しく見極められるようにもなるため、優秀な人材の獲得が期待できます。
採用面接を正しく行うためには、面接官の教育も必要です。
企業側が採用面接で聞いてはいけない内容を把握していても、面接官に共有していなければ、リスクは避けられません。
まずは採用面接用のマニュアルを作成し、すべての面接官に共有しましょう。内容がきちんと共有されたかを確認するためには、定期的な模擬面接の実施が有効です。
面接官の教育を徹底すると、採用面接で聞いてはいけない質問をしてしまうリスクを避けられます。
採用面接で聞いてはいけない質問を避けるには、面接評価シートの活用が効果的です。
面接評価シートとは、自社で決めた評価項目や評価基準が記載されているシートです。質問内容が固定されているため、聞いてはいけない質問をしてしまうリスクを避けられます。
また、項目や基準に沿って採用面接を進められるため、面接官ごとのブレを軽減し、自社に合う人物を見極めやすくなります。
面接評価シートのメリットや作成手順などは、こちらの記事で紹介しているのでチェックしてみてください。
採用面接では、たとえ自社に合う人物を見極めるためでも、応募者に不快感を与えるような質問をしてはいけません。近年は、配慮すべき質問をしてしまった事実がSNS拡散され、企業イメージを低下させるリスクもあります。
採用面接を適切に行うにはマニュアルの見直しや研修などで、企業全体で認識を合わせておくことが重要です。
また、近年は生産年齢人口の減少により、人材獲得が激化しています。採用活動を慎重に進めても自社が求める人材が必ず見つかるとは限らないのが現状です。
効率的に採用活動を進めるには、転職サイトを活用するのも選択肢の一つです。株式会社学情では、20代向けの転職サイト「Re就活」を運営しています。Re就活の登録会員の多くは20代なので、若手の優秀な人材を獲得できる可能性があります。
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