HR用語の基礎知識
人事として仕事をしていると、社員から「退職したい」という相談を受けることがあります。企業が時間やお金をかけて育て上げてきた優秀な人材が抜けてしまうと、その穴を埋めるのは大変です。
「カウンターオファー」は、退職・転職希望者を引きとめるための、具体的な提案です。退職希望者から相談を受けたときに慌てないよう、そして会社に残留してもらえるように、カウンターオファーのポイントを知っておきましょう。
この記事では、カウンターオファーの必要性や交渉案、成功させるポイント、注意点、カウンターオファーをせずに離職率を下げる方法などを解説します。退職希望者が出た際の参考にしてください。
カウンターオファーは、離職を申し出た社員を引きとめるための具体的な提案を指します。もともとは貿易業界や不動産業界で、対案や反対の申し出を表す意味で使われていました。
人事をしていると社員から退職や転職の相談を受ける場合があります。しかし時間とお金をかけて育ててきた優秀な社員の退職は、企業にとっても痛手です。まして他社からの引き抜きなら、なんとしても止めたいところでしょう。そのような場合に人事は引きとめの方法として、昇給や昇格、希望部署への変更などを退職希望の社員に提案します。この提案がカウンターオファーです。
カウンターオファーが成功して社員の残留が決まれば、離職に関するさまざまなリスクを回避できます。生じるリスクはさまざまですが、社員とともに失われる内部知識や経験、新メンバーの補充までの過渡期に発生する業務の一時的な混乱や生産性の低下などがあげられます。カウンターオファーが成功して社員が残れば、重要な才能やスキルを失わずに、チームの安定性を維持できるでしょう。
またコスト面でも利点があります。従業員が離職すればメンバーを補充する必要があり、新たな人材の採用と育成には多くの時間とお金がかかります。カウンターオファーで既存社員の引きとめに成功すれば、採用や育成にかかるコストを削減できます。
少子高齢化が進み人材獲得が難しくなるなか、カウンターオファーは自社に必要な人材を確保するために有用な方法です。
カウンターオファーは、昇給、昇進、部署変更などさまざまな場面で活用できます。ここではよく使われる交渉案を紹介します。
一度退職を検討した社員に対してカウンターオファーは必ずしも成功するわけではありません。社員の不満を取り除き自社に留まってもらうためのポイントを4つ解説します。
交渉前に退職や転職の理由を聞くのは、カウンターオファーの一般的なアプローチです。退職を申し出る社員は、企業や組織に対してなにかしらの不満を抱えています。不満な点を聞き出すことにより適切な対処ができるでしょう。個別の状況やニーズが理解できれば、社員にとって魅力的なカウンターオファーを提示できます。
転職・退職の一般的な理由には、キャリアの成長、給与や福利厚生、ワーク・ライフ・バランス、人間関係が上げられます。それぞれの理由ごとに適したカウンターオファーを選択しましょう。
カウンターオファーの内容を書面で残せば、誤解を防げるだけでなく、トラブルが起きた際にも役立ちます。せっかく交渉して社員が退職を踏みとどまっても、企業側が交渉内容を実行しなければ社員は憤りを感じて、再び退職や転職を検討するかもしれません。口約束ではないと信用してもらうためにも、交渉内容を書面で残しましょう。
カウンターオファーを文書化する際の形式は特に定められていません。基本事項は組織名、住所、連絡先事項、日付、従業員氏名、役職、所属部署などです。まずカウンターオファーの目的を明確にし、次に提案内容を記載します。給与、ボーナス、福利厚生、昇進、役職の変更、地価の責任やプロジェクト、教育や研修のサポートなど、社員が魅力に感じるカウンターオファーを提示できると、成功率が上がります。誤解が生じないように、具体的な条件を記すのがポイントです。
またカウンターオファーへの回答の有効期限も設けましょう。その場で返答できない社員も多いため、検討する時間と締め切りを設定しておくと良いです。
社員を強引な方法で引きとめようとすると、パワハラで訴えられる、法律に触れるなどの危険があります。カウンターオファーをする前に、社員に対して避けるべき言動を確認しましょう。
パワハラに該当するかもしれない注意すべき言動は、次のとおりです。
社員には会社を辞める権利があり、会社は退職希望があった際には拒否できません。企業側の事情も分かりますが、「後任が見つかるまで辞めてはいけない」のような退職を拒否する発言は好ましくありません。また給料や退職金の減額、有給休暇の取得拒否などもパワハラに該当します。
離職を防ぐ方法はカウンターオファーだけではありません。カウンターオファー以外に、どのような方法で社員を引きとめられるのか解説します。
カウンターオファーで一人を引きとめても、不満を生むような温床があれば、ほかにも退職や転職を考える社員が出てきます。根本的な改善を行いたいなら、企業全体の労働環境や待遇を見直しましょう。
社員の満足度を高める施策例を紹介します。
社員のモチベーションが高まればポジティブな社風が形成され、チームワークも高まります。また魅力的な労働環境や待遇なら、採用活動でも優秀な人材を惹きつけられるかもしれません。
社員全員の労働環境や待遇改善には離職率を下げる以外にもさまざまなメリットがあります。
社員間のコミュニケーションを活性化させ、協力体制を高めましょう。社内の雰囲気が良くなれば、社員のモチベーションも高まり離職率を下げられます。
厚生労働省の雇用動向調査結果の「離職理由」をみると、自己都合退職した方の17.7%が「人間関係がうまくいかなかったから」を退職理由にあげています。これは退職理由のなかでも上位となっており、働くにあたって人間関係がいかに重要かが伺えます。
※出典:「表 15 性・年齢階級・現在の勤め先の就業形態、離職理由別転職者割合」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/6-18c-h27-2-02.pdf)
社員同士のコミュニケーションを活性化させるには、定期的なチームミーティングや進捗報告会、1on1ミーティング、社内イベントなどが効果的です。またチャットツールや社内SNSのようなデジタルコミュニケーションツールを活用して、連絡を取り合うのも良いでしょう。
「この会社ではキャリアアップできない」「新しいことに挑戦できない」と感じるとモチベーションは低下します。社員が新しく挑戦できる環境を整え、社内での地位向上をサポートしましょう。
スキルアップ支援の内容には、次のようなものがあります。
社員一人ひとり、スキルやキャリアアップの目標は異なります。そのため一律に同じ研修を社員全員に課せません。個別にスキルアップ支援の計画を立てるのが成功の秘訣です。またスキルアップ支援はマネジメント層も対象になります。
カウンターオファーは、退職・転職の申し出をした社員を引きとめるために、有効な手段です。成功すれば優秀な社員の流出を防ぐだけでなく、新規採用や育成などにかかるコストや時間の削減になります。またポイントをおさえれば、カウンターオファーの成功率も上がります。
しかしカウンターオファーは、一時的な解決策になりやすいので注意が必要です。社員に長期的に活躍してもらうためには、引きとめたあともフォローしなければなりません。同様の退職希望者を出さないためにも、カウンターオファーと並行して社員の満足度を上げる根本的な対策も検討していきましょう。