HR用語の基礎知識

サーバントリーダーシップとは?
メリット・デメリットや導入方法、成功させるポイントも解説

新人社員に対して厳しく指導をしたら委縮や退職をされてしまった、というような経験から、若手社員をどのように指導したらよいのかと悩んでいませんか。

近年の働き方の変化や価値観の多様化に合わせて、社員の指導方法も見直していく必要があるでしょう。このような状況のなかで、サーバントリーダーシップというリーダーシップ哲学に注目が集まっています。

本記事では、サーバントリーダーシップの意味や注目されるようになった背景、従来型の支配型リーダーシップとの違い、特性、メリット・デメリットなどについてご紹介します。本記事を読むことで、サーバントリーダーシップの基本知識が理解でき、自社にどのように取り入れたらよいのか、ヒントを得られるでしょう。ぜひ参考にしてください。

サーバントリーダーシップとは?

サーバントリーダーシップという言葉の意味と成り立ち、現在注目されている背景を解説します。

サーバントリーダーシップの意味

サーバントリーダーシップとは、奉仕や支援を通じて周囲からの信頼を得て、主体的に協力してもらえる状況を作り出す奉仕型リーダーシップを指します。サーバント(servant)は、奉仕という意味です。

サーバントリーダーシップの対義語は、支配型リーダーシップです。支配型リーダーシップは従来のトップダウン方式で、基本的に上司の指示・命令を受けてから部下が行動します。そのため、自ら考えて行動する力が育ちにくいと言えるでしょう。

一方、サーバントリーダーシップでは、目標を達成するために上司が部下の支援に徹します。部下の抱えている問題や悩みを傾聴し、解決のために必要なサポートをするため、部下は目標達成のためにどうしたらよいのかを自ら考えて行動できるようになります。

サーバントリーダーシップが注目されている背景

終身雇用や年功序列が崩壊の傾向にあり、働き方が多様化しているなかで、従来の支配型リーダーシップでは、上司の指示や命令がなければ行動できない社員の増加が懸念されています。また、業務の遅滞やチームの業務効率の低下を招き、全体としての生産性が下がってしまう恐れがあります。

そのため、上司からの指示に頼って業務を行うのではなく、社員一人ひとりが主体的な思考力・行動力を持つ必要性が高まってきました。

このようななか、1970年にロバート・グリーンリーフ氏が「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」と提唱したサーバントリーダーシップが、各メンバーの主体性に働きかけるリーダーシップの一つとして注目されています。

自ら何をすべきか考えて行動できる社員が増えれば、業務効率と生産性向上が期待できるでしょう。

サーバントリーダーシップと支配型リーダーシップの違い

サーバントリーダーシップと支配型リーダーシップによるメンバーの行動の違いは、次のとおりです。

サーバントリーダーシップにおけるメンバーの行動 支配型リーダーシップにおけるメンバーの行動
主体的 受動的
言われる前に行動する 言われてから行動する
自ら工夫しようとする 指示命令のとおりにしようとする
やるべきことに集中する リーダーからの指示を仰ぎながらこなす
目標やビジョンを意識する 役割や目の前の指示命令に集中する
上司を信頼し一緒に活動している感覚 上司に従っている感覚
周囲の役に立とうとする姿勢が身につく 指示待ちにになりやすい

このように、リーダーがどのようなリーダーシップを取るかによってメンバーの行動が変わってきます。

サーバントリーダーシップ10の特性

サーバントリーダーシップを自社で導入するには、その特性を理解しておくことが大切です。サーバントリーダーシップの特性は次のとおりです。

  • 傾聴
  • 共感
  • 癒し
  • 気づき
  • 説得
  • 概念化
  • 先見力・予見力
  • 執事役
  • 成長への関与
  • コミュニティづくり

それぞれの特性について詳しく解説します。

1.傾聴

サーバントリーダーシップでは、メンバーたちの考えや意見、悩みなどに対して丁寧に耳を傾ける姿勢が必要です。

リーダーは自分の考えを押し通すのではなく、メンバーの話を遮ることなく傾聴しましょう。その上で内容を受け入れ、「リーダーとして何ができるか」を考えて最善を尽くします。

2.共感

メンバーの気持ちに寄り添って共感し、受容することも大切です。

メンバーの意見や悩みを傾聴するためには、相手の立場に立って考えることと同時に何をしてほしいかが共感的にわからなくてはなりません。メンバーの気持ちを理解し、共感することが必要になります。

3.癒やし

各メンバーの心身の回復を助けるのもリーダーの役目です。メンバーがミスをしたり、予期せぬ問題に頭を悩ませていたりするときは、精神的にサポートしながら一緒に解決策を考えましょう。

メンバーの心を癒し、チームに欠けているものをお互いに補い合うことが、チームに成長や成果をもたらします。

4.気づき

リーダーはチーム全体に目を配るだけでなく、自分自身への気づきを意識することも大切です。リーダーが気づきを意識することで、あらゆる事象の本質を見きわめられるようになり、リーダーシップも強化できます。

また、気づきを意識すれば、チームやメンバーの些細な変化も分かるでしょう。リーダーが自身の行動を振り返ることで、リーダーとして何をするべきか考えることも大切です。

5.説得

サーバントリーダーシップでは、権限によって服従を強要したり、一方的な指示をしたりすることなく、チームのメンバーに考えを伝え、同意してもらえるように説得します。

リーダーはメンバーと目的やビジョンを共有し、各メンバーの意見を踏まえたうえで、お互いにとって最適な結論を導き出す力が必要です。

6.概念化

概念化とは、具体的な内容を体系化してわかりやすく伝えることです。リーダーは将来を見据えた目標を明確にして、メンバーに分かりやすく伝えます。

異なる価値観を持ったメンバー同士が同じ目標を目指し達成するには、それぞれが目的や役割を理解して取り組む必要があります。

7. 先見力・予見力

チームが成長し続けていくためには、過去のできごとから学び、未来を見据えて方向性を見定めることが大切です。

サーバントリーダーシップでは、過去や現在の状況から、将来的に起こることを予測する力も必要になります。

リーダーに先見力や予見力があれば、トラブルを回避や未然に防げるだけでなく、万が一問題が発生しても、ある程度予期していたことであれば、スムーズに解決できるでしょう。

8.執事役

執事のように、一歩引いたところでメンバーたちが成長できるように支援し、信頼関係を構築するのもリーダーの役目です。献身的に接して、自分の利益ではなく、メンバーの利益に貢献するようにサポートします。

リーダーから献身的なサポートを受けることにより、メンバー間の信頼関係が深まり、各メンバーが自分の能力を発揮して、お互いをサポートし合える関係性が作れます。

9.成長への関与

チームや組織をより成長させていくためには、各メンバーの成長が欠かせません。リーダーは、各メンバーが持つ可能性や価値を信じて、成長に深く関与します。

成果だけを求めるのではなく、プロセスも重視し、一緒に働く仲間としてメンバーの成長を促すことも大切な役割です。

10.コミュニティづくり

リーダーは、メンバー同士が互いに助け合いながら成長できるコミュニティを作ります。

リーダー自らが献身的にメンバーを支援する姿を見せることにより、メンバーにもその姿勢が伝播し、困っているほかのメンバーをサポートする雰囲気ができるでしょう。

メンバー同士がお互いを尊重し、それぞれの能力を発揮しながら、チーム内で相乗効果を生み出せる環境作りが大切です。

サーバントリーダーシップのメリット・デメリット

サーバントリーダーシップをもったリーダーがメンバーを率いると、生産性やパフォーマンスの向上が図れる一方、意思決定に時間がかかるなどのデメリットも存在します。

ここでは、サーバントリーダーシップのメリットとデメリットを解説します。

メリット

サーバントリーダーシップを導入するメリットは次のとおりです。

  • 部下のパフォーマンスが上がる
  • 生産性や顧客満足度が上がる
  • コミュニケーションが活性化する

それぞれ詳しく解説します。

部下のパフォーマンスが上がる

サーバントリーダーシップは、各メンバーを尊重し、自主性を大切にします。献身的な支援を受けたメンバーは、自分が大切に尊重されていることを感じ、リーダーとチームへの貢献意欲や仕事へのモチベーションが向上するでしょう。

また、リーダーの理解と支援のもとで、メンバー自らが目標達成や問題解決のためにどうすべきかを考えて、主体的に行動できるようになるため、仕事のパフォーマンスも向上します。

生産性や顧客満足度が上がる

メンバーのパフォーマンスが上がることによって、チーム全体の生産性も上がります。

また、リーダーはメンバーの話に耳を傾けて尊重し、顧客のニーズや声を把握している現場の声も大切にするため、顧客満足度の向上につながります。

コミュニケーションが活性化する

サーバントリーダーシップでは多様な意見を受け入れようとするため、チーム全体の意見交換がしやすい雰囲気が生まれ、コミュニケーションが活性化します。

コミュニケーションの活性化は、チームの心理的安全性(組織の中で自分の考えや気持ちを、誰に対しても安心して発言できる状態のこと)や信頼関係の構築につながり、お互いの能力や長所を引き出し合う相乗効果が生まれるでしょう。

報告・連絡・相談だけでなく、問題に突き当たったときやトラブルが発生したときにも、メンバー同士で話し合ってアイディアを出し合い、解決案を一緒に考えることもできます。

デメリット

メリットの多いサーバントリーダーシップですが、導入を検討するときは次のようなデメリットについても理解しておく必要があります。

  • 意思決定に時間がかかる
  • 部下によっては合わないこともある

それぞれのデメリットを詳しく解説します。

意思決定に時間がかかる

サーバントリーダーシップは、各メンバーの意見を傾聴し尊重するため、チームの意思や方針を決定するのに時間がかかります。そのため、迅速に対応しなければならない場合にはデメリットとなるでしょう。

メンバーが増えれば、さまざまな意見が生まれます。各メンバーの意見に耳を傾けていると、意見をまとめるのに時間がかかり、チームの方向性が明確に定まらないこともあり得ます。

方向性が明確でなければ、業務に支障が出る場合や、プロジェクトの進捗に影響が出たり、現場の意見を調整しにくくなることもあるでしょう。

部下によっては合わないこともある

サーバントリーダーシップは、自ら考えて行動することが苦手なタイプのメンバーには合わないことがあります。

また、新入社員など経験が浅いメンバーや、「自分で考えて行動するのは苦手」「指示された方がラク」と考えているようなメンバーに対しては、フォローを要する時間が増え、リーダーやほかのメンバーの負担が重くなることも考えられます。

サーバントリーダーシップの実践方法

サーバントリーダーシップを実践する方法は次のとおりです。

  • リーダー自身が役割・サーバントリーダーシップを理解する
  • ミッション・ビジョンを明確にする
  • メンバーの多様性を尊重する

リーダー自身が役割・サーバントリーダーシップを理解する

サーバントリーダーシップを取り入れるためには、まずリーダー自身が自分の役割をしっかりと理解ししておくことが重要です。

そして、10の特性を意識しながらメンバーの支援に徹し、リーダー自らも成長しようとする姿勢をメンバーに示すことが求められます。

ミッション・ビジョンを明確にする

サーバントリーダーシップは、各メンバーの意見に耳を傾けて尊重します。しかし、チーム内で意見や考えがバラバラなままでは、チームのミッション(使命)やビジョン(目標)を見出せません。

そのためリーダーは、それぞれの意見を尊重しながら、統一した方向性を導き出し、明確なミッション・ビジョンを提示する必要があります。

設定したミッション・ビジョンは、チーム全員が理解し、目標達成に向けて一丸となって取り組めるように説明しましょう。

メンバーの多様性を尊重する

サーバントリーダーシップでは、価値観の多様性を尊重することも必要です。

自分と異なる意見や考えであっても否定せずに傾聴しながら、互いを認め合う姿勢が求められます。

サーバントリーダーシップでチーム運営を成功させるポイント

サーバントリーダーシップによるチームの運営を成功させるために、失敗例を学び、あらかじめ対策を講じておきましょう。

失敗例として、リーダーからの厳しい指導や叱責がなくなったため、スタッフの緊張感が緩み、顧客や取引先からのクレームが増加した、集客プランがマンネリ化したなどがあげられます。

これらの問題を回避するため、次のようなポイントを意識してサーバントリーダーシップを実践してください。

  • 目標やプロセスを明確にして言語化する
  • 高い目標を達成するための努力を求める
  • 自ら行動し信頼を勝ち得る

それぞれのポイントを詳しく解説します。

目標やプロセスを明確にして言語化する

サーバントリーダーシップは、各メンバーの意見を傾聴し尊重します。しかし、うまくまとめられないと、方向性が定まらないチームになる恐れがあります。

そのため、目標や方向性を明確に提示し、プロセスをわかりやすく言語化して、共有する必要があります。

メンバー全員に丁寧に説明し、理解してもらえるように努めましょう。まとまらないチームにならないように、全員が明確な目標を意識し、共有することが重要です。

高い目標を達成するための努力を求める

サーバントリーダーシップでは、権力で服従させることや指示・命令で強要しません。そのため、メンバーによっては「自由になった」「指示や命令をされずラクになった」と思ってしまう可能性があります。

メンバーにただ奉仕的な態度で接するだけでは、業績向上や成果を期待できません。

リーダーはときには厳しい目線で高い目標を設定し、それを達成をさせるための対話や後押しを行う必要があります。

支援とは、ただ自主性に任せる、放任することではありません。メンバー自らが目標達成に向けて努力することを後押しするのが、リーダーの役割であると常に認識しましょう。

自ら行動し信頼を勝ち得る

リーダーは、目標を示したり支援するだけでなく、自ら行動する姿をメンバーに示す必要があります。

目標達成のためにはどうしたらよいのかをメンバーと一緒に考え、改善点を見つけて自ら行動しましょう。リーダーが率先して行動する姿を見せることによって、メンバーへ伝播し、主体的に行動するチームへと成長していきます。

また、リーダーは自ら行動するだけでなく、必要に応じてメンバーを評価し、成果を共有しましょう。

リーダーに求心力のないチームは、結束力に欠けたまとまりのないチームになる恐れがあります。各メンバーの日頃の努力や工夫に目を向け、感謝する姿勢も大切です。

サーバントリーダーシップの導入事例

ここでは、サーバントリーダーシップを導入した結果、どのような効果が表れたのか、事例をご紹介します。

ある企業では、業績が悪化したタイミングでリーダーが全国の支店へ出向き、一人ひとりに声をかけた結果、現場の声を吸い上げるシステムを構築して、V字回復に成功しました。

また、店舗閉鎖が決まったタイミングで、リーダーが全国の店舗へ自ら出向き、現場の声を丁寧に傾聴した結果、閉店セールを成功させて、大きな黒字を記録したケースもあります。

どちらの企業も、社員のモチベーションをアップさせ、業績を回復へと導くことに成功しました。

そのほかにも、「経営陣より、現場で働くスタッフが大切」という基本理念のもと、現場の声に耳を傾けている企業や、ストアマネージャーを対象とする奉仕型セミナーなどを継続的に開催し、人と人とのつながりを大切にすることで、世界的企業に成長した企業もあります。

心理的安全性の高いチームを構築し業績アップを目指そう

サーバントリーダーシップは、メンバーの主体性に働きかける奉仕型のリーダーシップ哲学です。働き方が変化し、価値観が多様化する現代社会において必要なリーダーシップであると言えるでしょう。

サーバントリーダーシップでは、メンバー自らが考えて行動するため、生産性や顧客満足度が高まり、信頼関係のもとでコミュニケーションが活性化します。多様な価値観を認め合い、尊重する雰囲気が生まれ、心理的安全性の高いチームが構築できるでしょう。

このようなメリットがある一方で、リーダーやメンバーのタイプによっては合わない場合もあるため注意が必要です。リーダークラス向けの研修やセミナーを開催し、サーバントリーダーシップの役割や目的、10の特性などをしっかりと把握させたうえで導入すると良いでしょう。

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