「パス・ゴール理論」とは?リーダーシップ別の詳細説明と取るべき行動を解説
2022.06.20
パス・ゴール理論とは、「リーダーシップ条件適応理論」の1つであり、1971年にRobert J. Houseが提唱したものです。メンバーが目標(Goal)を達成できるかどうかは、リーダーが適切な道筋(Path)を辿れるかに懸かっているという考え方に基づいています。つまり、リーダーが適切に行動できているかどうかで、メンバー(部下)のパフォーマンスが決まるということです。
リーダーシップ条件適応理論とは、「いかなる状況でも最善であるような、普遍的なリーダーシップは存在せず、状況に応じて適切なリーダーシップが異なる」という考え方です。
かつて、リーダーシップは先天的な才能であると考えられていました。
しかし、成功者のリーダーシップに共通する特徴を見つけられなかったことから、リーダーシップ条件適応理論が生まれました。
集団の「環境的条件」と「メンバーの要因」で、有効となるリーダー行動は変化する。
パス・ゴール理論では、達成したいゴールに向け、リーダーが部下に有効なパスを示すときには、2つの条件を念頭に置かねばならないとしています。1つは、集団がどのような環境的条件(直面している課題、権限体系、組織等)下にあるか、そしてもう1つは、メンバーの要因(能力や性格、経験等)で、これらの組み合わせにより、そのときに有効となるリーダー行動は変化するとしています。
◆環境的条件
・業務内容:業務遂行の手順が明確かあいまいか、単純か複雑か
・公式的な権限体系:指揮系統が明確かどうか
・職場のチームワーク:集団が統一的に行動できているかどうか
◆メンバーの要因
・認知能力:メンバーが自認している業務遂行能力
・経験:業務に対する見識やノウハウの深さ
・自立性:自身で行動を決められるか、周囲に影響されるか
パス・ゴール理論では、上記2つの状況要因に基づく6つの要素に応じて、「指示型」、「支援型」、「参加型」、「達成志向型」の4つのリーダーシップから適切な行動を選択することで、メンバーの効果的に動機づけと目標達成への生産的な行動へつなげていくことができるとしています。
4つのリーダーシップから、適切な行動を選択することが重要。
ここからは、4つのリーダーシップの概要と最適な状況をご説明します。
【指示型リーダーシップ】
指示型リーダーシップでは、仕事のプロセスや期待される成果、業務を効果的に遂行する方法を部下に明示します。指示型のリーダーは、部下が業務の手順や方針、規則を確実に理解できるように、業務や作業の中の曖昧な部分を明確にすることを重視します。また、曖昧な部分や混乱を招く要素をなくすために、仕事の成果における目標に対する昇給や昇進などの報酬の対応関係を規定します。
→どのようなケースで有効か?
・仕事内容があいまいになっており、チームワークが悪い
・部下の経験値や能力および自立性が低い
指示型が最も効果を発揮するメンバーは新人です。どのように行動すれば円滑に業務を進むかわからないメンバーに対しては、明確な道筋を示すことが安心と信頼につながります。
反対に右も左もわからないのに「自分で考えてみて」と自主性を尊重したところで、困り果てて動けなくなるだけでしょう。
またチーム内でいさかいが起きて意見がまとまらない時、あるいは緊急自体で迅速な対応が求められる時にも指示型リーダーシップによって明確な道筋を示すことが重要です。特にメンバーが、意思決定権が自分にないと考えている、つまり自立性が不足している時には、より大切なアプローチとなるでしょう。
【支援型リーダーシップ】
支援型リーダーシップでは、部下の要望や健康状態に注意を払い、親しみやすく共感的な態度で接することで、部下が仕事を楽しめるようにします。このタイプのリーダーは、部下に敬意を持って接し、必要に応じてサポートを行います。
→どのようなケースで有効か?
・上司と部下との間にある指揮命令系統がはっきりしている
・仕事内容が明確である
支援型リーダーシップが有効に働くのは、職場の指揮系統がハッキリしていて、なおかつ業務がルーチンワークである場合です。ファストフード店の現場スタッフや工場のライン工、一部の事務職員等が典型例でしょう。
これらの業務は基本的に毎日同じ事の繰り返しなので、業務そのものの面白みがない、あるいは薄れている状態です。
つまり、仕事そのものでモチベーションを喚起しづらい状態にあり、リーダーがそれを補うために裏方に徹して環境を整える必要があります。
リーダーシップは持って生まれる才能ではなく、誰もが後天的に身に付けられるもの。
【参加型リーダーシップ】
参加型リーダーシップでは、仕事や業務の目標、目標達成までの過程に関する重要な意思決定について部下の意見を仰ぐことで、部下が意思決定プロセスに直接関与できるようにします。こうすることで、部下が自分の選んだ目標を達成するために努力を重ねるようになることがよくあります。
リーダーが参加型を採用することが多いのは、部下が業務に積極的に関わっていたり、専門的な知識を持っていたりする場合です。このような状況では、部下の知識や助言がリーダーにとって不可欠になります。
→どのようなケースで有効か?
・部下の自主性が高く、創意工夫をこらして業務を行いたいという意欲を持っている
・有用なアイデアや意見を出せるほどの高い能力や経験値を持っている
具体的には、部長〜役員クラスの人材に最適なスタイルです。管理職になれるだけの能力や経験値を持っているため、意見を聞けば役立つアイデアや意見を得られるでしょう。
また、社内ベンチャーや新規プロジェクトに志願してきた社員に対するマネジメントでも有用でしょう。自らプロジェクトに志願するほどの自信や自主性を持っているため、参加型リーダーシップを発揮すればチーム全体のパフォーマンスが向上すると考えられます。
【達成志向型リーダーシップ】
達成志向型リーダーシップでは、優れた成果を促すために困難な目標を設定します。部下は自分の全力を発揮することを求められ、リーダーは部下がその要求に答えられることを期待します。リーダーは部下に卓越した成果を出すこと、そして成果を改善し続けることを促します。達成志向型の管理タイプは、問題解決能力が高く、自分で考えて仕事をすることに慣れている従業員に向いています。
→どのようなケースで有効か?
・仕事の内容が不明確かつ難しい
・従業員の能力や自主性が高い
このスタイルは、新規事業の立ち上げや海外進出といった業務内容は不明確であり、かつ成果を出すこと自体の難易度が高いプロジェクトで役立つ可能性が高いです。こうした状況では、高い能力や自主性を持った従業員に明るいビジョンを見せて、困難な状況を自分たちで打開してもらう必要があります。
ただし、能力や自主性が低いメンバーに対して達成志向型のリーダーシップは逆効果です。指示を出さないことや困難な仕事に不満を感じ、かえってモチベーションが低下してしまうからです。
リーダーシップは、組織の共通目的に向けて、メンバーとコミュニケーションを重ね、相乗効果を発揮して、組織の目標を達成するための習慣であり、スキルです。リーダーシップは先天的に持って生まれる才能ではなく、誰もが後天的に身に付けられるものです。
リーダーシップを発揮すべきなのは、“立場としてのリーダー”だけではありません。VUCA時代の組織は、企業の社員一人ひとりがリーダーシップを発揮しないと、変化への対応ができなくなりつつあります。それだけに、リーダーシップを発揮できる社員の育成は、多くの企業にとって急務の課題ともいえるでしょう。
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