ケアハラスメントとは?該当事例や起きる原因、企業ができる対策を紹介
2023.10.02
ケアハラスメントという言葉を聞いたことはあるでしょうか。近年企業の人事部署で問題視されているハラスメントの一つで、従業員が不快な思いや不当な扱いを受けることなく働くためには対策は必須です。
本記事では、ケアハラスメントの基礎知識や具体的な行為・事例について詳しく解説します。企業ができるケアハラスメントの予防・対処法も紹介しているので、どうぞ参考にしてください。
ケアハラスメントとは
ケアハラスメントとは、働きながら介護を行う人々に対する嫌がらせや、介護向けの各種制度の利用を阻害する行為のことを指します。本来あるべきサポートが受けられないことで、介護者の健康や生産性、組織への帰属意識が低下する危険性があります。
具体例には、介護休暇の取得を妨げる行為や介護者に対する理解の欠如からくる差別などがあげられます。ケアハラスメントは介護者本人に不利益があるだけでなく、組織の不健全化やコンプライアンス違反などにつながるため対策が欠かせません。
企業はケアハラスメントを防ぐために、社内規則や法律に基づくルールを適切に利用し、介護者への理解とサポートの提供が求められます。ケアハラスメントによって介護者と企業の両者が不利益を被らないようにしましょう。
ケアハラスメントに当たる行為・事例
ケアハラスメントの対策は重要ですが、具体的にどのような行為が問題になるのかを把握できなければ行動に移すことはできません。まずは、ケアハラスメントとして扱われる行為や事例を把握しましょう。
ケアハラスメントに当たる行為・事例は、おもに次の3つがあげられます。
- 介護制度の利用を妨げる
- 制度の利用者に嫌がらせをする
- 不当な解雇・降格・配置転換を行う
それぞれの詳細を解説します。
介護制度の利用を妨げる
介護者のために法令によって設置されている介護制度の利用を妨げることは、ケアハラスメントにあたります。利用を認めないことで行政による勧告を受ける可能性もあるため、企業には法令に則った対応が求められます。
介護制度には、おもに次のものがあります。
制度 |
概要 |
介護休業 | 要介護者一人につき通算93日の休業を3回まで利用できる制度(育児・介護休業法) |
介護休業給付金 |
雇用保険制度から休業開始前賃金の67%を支給する制度(雇用保険法附則) |
介護休暇 | 1年度に5労働日、要介護家族が2人以上の場合は10労働日まで休暇を取得できる制度(育児・介護休業法) |
介護のための所定労働時間短縮等の措置義務 | 所定労働時間の短縮、フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、介護サービス費用の助成を利用できる制度(育児・介護休業法) |
所定外労働の制限 |
介護者が請求した場合に、所定労働時間を超えて労働させてはならない規則 (育児・介護休業法) |
時間外労働の制限 |
介護者が請求した場合に、1ヶ月24時間、1年150時間を超えて時間外労働をさせてはならない規則(育児・介護休業法) |
深夜業の制限 |
介護者が請求した場合に、深夜(午後10時~午前5時まで)に労働させてはならない規則(育児・介護休業法) |
※出典元:「介護休業制度」(厚生労働省)
制度の利用者に嫌がらせをする
介護制度の利用を妨げるだけでなく、利用者への嫌がらせもケアハラスメントとなります。利用中に上司や同僚から嫌味や苦言、暴言を吐かれることや、雑務を不当に押し付けられるようなことがあってはなりません。
正当な権利を行使しているにも関わらず、「ずるい」「迷惑だ」と悪意をぶつけられてしまえば、生産性や帰属意識の低下も必至です。些細な言動がきっかけで、退職や転職を決意することにもつながりかねないでしょう。
セクシャルハラスメントやマタニティハラスメントと同様に、ジョークや冗談のつもりでも、聞いた人間がどう思うかは別の問題です。介護者に対し無理解な言動を行わないようにすることが求められます。
不当な解雇・降格・配置転換を行う
介護制度の利用を理由に、労働者が不当な解雇や降格、配置転換を受けることは、育児・介護休業法16条や10条の違反となります。従業員の権利を損ねることはもちろん、コンプライアンス違反として企業の信用に関わることになるでしょう。
実際に解雇や降格などを行わなくても、可能性を示唆することもケアハラスメントとなります。不当な処遇を示唆して、介護者の制度利用を牽制することも厳禁です。
介護分野に関わらず、企業にはコンプライアンスの遵守や従業員の権利を尊重し公平に取り扱う責任があります。ケアハラスメントはそうした企業のあるべき姿を大きく損ねる問題となることを意識しておきましょう。
ケアハラスメントが起きる原因
ケアハラスメントが起きる原因には次のようなものがあげられます。
- ケアハラスメントへの理解不足
- 業務負担の増加と不満の蓄積
悪意だけでなく、理解の欠如もハラスメントの大きな原因です。それぞれの詳細を見ていきましょう。
ケアハラスメントへの理解不足
ケアハラスメントにあたる言動がどのようなものかを理解していない、そもそもケアハラスメントという言葉自体を知らないなどの理解不足が、トラブルの原因となっていることがあります。
ケアハラスメントはセクシャルハラスメントやマタニティハラスメント、パワーハラスメントと同じく、問題のある行動として認識されるべきものです。しかし、まだ認知度が低く、そもそも自身の言動がケアハラスメントに該当すると気づいていないケースもあるでしょう。
自分は介護をしたことがないという人にとっては、介護生活の難しさや制度利用が必要な理由を理解するきっかけ自体が生まれにくいこともあります。
ケアハラスメントを防止するためには、介護を行うことに対する理解と、介護制度の利用が正当な権利であることを周知させていくことが必要です。
業務負担の増加と不満の蓄積
介護者が時短勤務や休業を取得することで、ほかの従業員の業務負担が増加し、不満が蓄積した結果としてケアハラスメントをぶつけてしまうケースも想定されます。
休業による負担の増加はほかのハラスメントの原因でも見受けられますが、ケアハラスメント特有の問題として、介護の終了時期が明確ではないことがきっかけの不満があげられます。
たとえば、育児休業は子が1歳2カ月に達するまでの間に、1年まで休業が可能と、明確に期間が定められています。しかし介護休業は介護者が存在する限り、来年度、再来年度と取得されるかもしれません。
先行きの不透明さから不満が爆発し、「いつまで負担をかけるつもりだ」と怒りの矛先が介護者に向いてしまう可能性は否定できないでしょう。
企業がケアハラスメント対策を行うべき理由
ケアハラスメントの放置は企業と従業員に大きな不利益を与えることになります。対策を行うべき理由を把握して、ケアハラスメントが持つリスクを理解しましょう。
ケアハラスメント対策を行うべき理由は、大きく分けて次の4つです。
- 従業員の離職・退職を防止するため
- 生産性や労働環境の悪化につながるため
- 企業の信用に関わるため
- コンプライアンスを遵守するため
それぞれの詳細を解説します。
従業員の離職・退職を防止するため
ケアハラスメントが横行する職場は仕事と介護の両立ができる環境とは言えないため、介護者の離職や退職を招く恐れが非常に高くなってしまいます。失われた人材はすぐには補充できず、残った従業員は更なる負担に晒されることになるでしょう。
また、人材の補充にかかる金銭的・時間的コストも問題になります。採用活動や教育などのプロセスを通し、業務遂行能力を取り戻すためには費用と期間をかけなくてはなりません。
さらに、ケアハラスメントによる離職は企業のイメージにも悪影響を及ぼす可能性があります。たとえば、転職サイトのレビューや口コミで内部事情として「ケアハラスメントが起きている」ことが書かれてしまえば、離職者を補うために求人をかけても、求職者が集まらないといったこともありえるでしょう。
生産性や労働環境の悪化につながるため
介護者にケアハラスメントを行ってしまえば、それまでの信頼は損なわれ、労働環境の悪化を招きます。人間関係が悪くなると適切なコミュニケーションも取れず、必要事項の報告・連絡・相談が滞って生産性を悪化させてしまうでしょう。
加えて、ケアハラスメントを受けた介護者はストレスを受けて心身の健康を損ない、健全な状態で業務にあたることができなくなる恐れがあります。
環境の悪化はケアハラスメントの当事者以外にも影響します。ハラスメントを目撃した第三者が組織への信頼を失い離職したり、ハラスメントに加担したりしてしまうようなケースも起こり得ます。
企業は、ケアハラスメントが組織全体の生産性や労働環境の悪化につながることを念頭に置いた上で、適切な対策を講じることが必要です。
企業の信用に関わるため
ケアハラスメントの問題が公になると、企業の信用や評判を大きく損なう可能性があります。一度失った信用を取り戻すのは難しいため、新たな人材の採用や、取引先との関係にも悪影響を及ぼし、経営に大きな打撃を与える可能性があります。
加害者は被害者に苦痛を与えたことに加え、社会的な地位を失ったことによる責任を取るため、減給や謹慎、悪い場合は懲戒解雇などのペナルティが科されることになります。
しかし、加害者をどのように処分しても、社外からは「ハラスメントをする企業」という目で見られることになりかねません。信頼の回復には、相応の努力と期間が必要になります。
コンプライアンスを遵守するため
近年はハラスメント全般を対策するための法律が強化されている傾向にあり、企業にはコンプライアンス(法令遵守)が強く求められています。対策を行わない企業は、企業名の公表や一定額の過料などの処分が下されるため、注意が必要です。
義務化された対策には、ハラスメントに対する方針の明確化や周知、啓発があげられます。コンプライアンス対策はもちろん、社内の内部統制を行うためにも、対策を欠かさず実施することが大切です。
ケアハラスメントの6つの予防・対処法
ケアハラスメントの発生は大きなリスクを伴うため対策が重要です。一度発生すると傷が深くなる恐れがあるため、予防も重視して行う必要があります。
ケアハラスメント対策として有効な予防・対処法をピックアップして紹介します。代表的なものは、次6つです。
- 自社の方針・取り組みを周知する
- ケアハラスメント研修を実施する
- 業務の効率化を図る
- 十分な人材リソースを確保しておく
- 社内外に相談窓口を設置
- 定期的に職場の実態調査を行う
それぞれの詳細を順番に解説します。
1.自社の方針・取り組みを周知する
ケアハラスメントを防ぐためには、企業の方針や取り組みを従業員に明確に伝えることが重要です。まずはケアハラスメントは許さないことを示し、「介護休業や介護休暇の積極的な取得を推進する」方針を周知しましょう。
社内報やルールブックの作成、部署ごとの配布などを通じて、ケアハラスメントは許されないという姿勢を強く打ち出す必要があります。経営陣からハラスメントに対する姿勢を発信することも大切です。
2.ケアハラスメント研修を実施する
ケアハラスメントの予防策として、研修の実施は非常に効果的です。何がハラスメントにあたるのかを周知し、ケアハラスメントの発生によるリスクを全社的に共有しましょう。
一般の従業員は同僚に接する姿勢、管理職ではコンプライアンスなど、立場によって注意するポイントも異なるため、職位ごとに分けて研修を行うことも有効です。
研修内容をより専門的にしたい場合には、外部業者への委託やeラーニングの活用も検討してみましょう。
3.業務の効率化を図る
介護制度の利用で従業員の労働力が減少しても対応できるように、業務の効率化を図りましょう。介護をしていない従業員の負担を軽減できれば、負担増加による不満を原因とするケアハラスメントを防止できます。
業務の自動化ができるITツールの導入や、介護者が在宅でも業務を遂行できるテレワーク体制の構築を検討してみましょう。また、より根本的に業務プロセスを見直し、無駄を省くことでも負担を軽減できます。
こうした業務の効率化は、ケアハラスメントの対策になるだけでなく、純粋に生産性の向上にも寄与するでしょう。
4.十分な人材リソースを確保しておく
介護制度の利用による欠員に対応するためには、そもそも十分な人材リソースを有しておくことが大切です。人材をしっかり確保しておくことで、欠員が出ても滞りなく業務を回すことが可能です。
学情では、企業ごとのさまざまな採用課題の解決を支援いたします。新卒の採用から、既卒・第二新卒~ヤングキャリア層の採用、即戦力となる中途採用までサポートさせていただきます。人材リソースの強化についてのご相談も承りますので、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。
5.社内外に相談窓口を設置
ケアハラスメントのリスクを早期に発見・解決するためには、相談窓口の設置が必要です。社内に設置する場合には、相談者のプライバシーを守るための専用の部屋や、音が漏れないスペースを確保しましょう。
人員やスペースの都合から社内に窓口を設けにくい場合には、ケアハラスメントの相談窓口の外部委託化も検討してみましょう。導入と運用にコストはかかりますが、より専門的な知識を持った相談窓口を、迅速に設置できる点は大きなメリットです。
6.定期的に職場の実態調査を行う
定期的に職場の実態調査を行うことで、ケアハラスメントの兆候に素早く気づき、予防措置を行うことができます。ヒアリングやアンケートを活用して、職場の状況や従業員の意識を把握するようにしましょう。
たとえば、「介護休業についての意識調査」などが有効な調査になるでしょう。従業員個々人が介護制度の利用に対しどのような認識を抱いているのか、ケアハラスメントという概念を理解しているのかをチェックできます。
問題を早期に発見できれば、研修などの対策を実施できるようになります。相談があってから対処する体制では、ケアハラスメントの発生を防げず後手に回ることになるため、事前に発生そのものを抑制することが理想的と言えるでしょう。
企業が気をつけるべきハラスメントの種類
ケアハラスメント以外にも、企業が対策をすべきハランスメントは複数存在しています。ケアハラスメント対策と同様に、社内における実態を調査して、問題の発生前に実施できる対策を検討することが重要です。
ハラスメントの種類と具体例は次のとおりです。
種類 | 具体例 |
セクシャルハラスメント |
|
パワーハラスメント |
|
セカンドハラスメント |
|
アルコールハラスメント |
|
マタニティハラスメント |
|
ジェンダーハラスメント |
|
モラルハラスメント |
|
リモートハラスメント |
|
ケアハラスメントは企業が対策すべき課題として未然に防止しよう
介護者に対するケアハラスメントは組織の信頼や生産性を低下させ、コンプライアンス違反により企業全体の信用を損ねる深刻な問題です。介護者への理解を広め、介護制度の利用者以外の従業員への負担を軽減することで発生リスクをおさえられます。
ケアハラスメントは一度発生してしまうと企業全体の損害に連鎖する恐れもあるため、予防対策の実施が重要です。企業がケアハラスメントを許さない姿勢を示し、実態調査やアンケートを通じて未然に防止できる体制を構築しましょう。
就職・転職・採用を筆頭に、調査データ、コラムをはじめとした担当者の「知りたい」「わからない」にお応えする、株式会社学情が運営するオウンドメディアです。