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学情レポート【COMPASS】2013.07

『社会との関わりが社会人基礎力を引き出す
 ~社会人基礎力育成グランプリ2013 受賞校インタビューPart2~』

前号に引き続き、「社会人基礎力育成グランプリ2013」受賞校にその取り組みを取材した。
今号では大賞(経済産業大臣賞)を受賞した大阪工業大学・工学部へ取材、取り組みにおける学生の成長やその成長が周りに与える影響などをインタビューにより紹介する。

大賞(経済産業大臣賞) 大阪工業大学 工学部

「なにわの町工場で鍛えられた社会人基礎力 ~ものづくりに青春をかける学生エンジニアの挑戦~」

指導教員:大阪工業大学 工学部 機械工学科 教授 羽賀 俊雄 氏

■取組内容について

本学工学部機械工学科は「現場で活躍できるエンジニアの育成を目指す」という教育方針を掲げており、今回の取り組みである“なにわの町工場との「滑り軸受(回転軸を支える薄板)」の共同開発”も、現場と関われる取り組みとして実施に至りました。

町工場の人ははっきりと物を言う一面もありますが人に物事を教えるのが好きな方が多いため、町工場との共同研究が学生の成長に大きく寄与するだろうという狙いもありました。

元々学生たちは2つのロールの間で溶けたアルミニウム合金を一気に固めて薄板を作る装置である双ロールキャスターを自ら作り、様々な実験を行っていました。
この実験を基礎に、町工場の中の1社と「新合金による軸受板の製造装置及び板の製造条件の調査」をテーマとして共同研究をスタートさせました。

ただ、その会社には双ロールキャスター専門のエンジニアがおらず、開発の方向性が分からない中での手探り状態のスタートでしたね。当初はこの会社指定の製造条件に沿って研究を進めていましたが、それだと板の状態がボロボロになることが分かりました。

学生たちは状態の良い板が出来上がる別の案を提言しましたが、その案はわずかな確率で欠陥が生じるもので、学生は社長の承認を得ることができませんでした。
何とか自分たちの考えを伝え理解してもらうため、社長を研究室へ招き、研究現場を見てもらうことにしました。そこでようやく学生たちの意見を直接伝えることができ、社長に納得いただくことができました。
社長は職人肌の方であるため、報告書などで伝えるのではなく、現場で製造工程を見てもらうことがポイントでした。
その人その人にあったコミュニケーションをとることが解決の糸口になることを学んだようです。

またそこで信頼を得たことで、学生たちは意見交換の場にも出席させてもらえることになりました。
ある会議で「自社で合金製造装置を作りたい」という話が挙がりました。
メーカー製のものを導入すると2億円程掛かりますが、それを学生たちが設計している装置を改良して予算1,000万円で作れないかという相談を受け、学生たちは様々なプレッシャーを感じながらも実施していくことになりました。

コストダウン化に向けたロールを設計・製作していく過程で、ロール製作会社からは「製図がなっていない」「加工法も知らないのか」と何度も怒鳴られながら、苦労の末、低コストのロールを完成させました。
このロールを用いた装置を町工場へ納品するにあたっても、安全面への配慮など学生視点では気付きにくいことを学びながら、無事に据え付けが完了しました。

この取り組みを通じ、学内に留まっているだけでは分からない「生産現場での考え方」「コスト意識」「安全面への配慮」など実社会での「ものづくりの視点」を学び取ってくれたように感じます。 

■「学生の立場」と「実生産の現場」の違いを身を持って学ぶ

共同研究を進める中で、当初は直接関わっていなかった研究室メンバーの間にも「自分の研究分野をこの会社の合金製造に役立てたい」という機運が高まっていきました。
そして、研究室全体で議論や実験を重ね「新たな元素を添加する」「これまでとは異なる金属を貼り合わせる」といった案を社長に提言しました。

しかし学生たちのそうした案は、社長から「NO」を繰り返される結果に。
学生たちの案が見当違いのものだったというわけではなく、実証データが少なく、検証に数年かかり開発に時間が掛かるものだったからです。

社長はこの町工場で40人の社員の家計を支えており、新しい取り組みをするにしてもすぐに開発に動きだせ、またすぐに結果を出す必要がありました。
どんなに素晴らしいアイデアであっても開発に期間やコストが掛かりすぎるものには首を縦に振れない理由がある、そういうことを学生たちは学んだようです。

学生という立場ではどうしても視野が狭くなります。
しかし企業と共同研究をすることで相手がどのような立場なのか、どのようなことを重視しているのかなど、別の視点から物事を見る必要性に気付けたことは学生たちにとっての大きな成長であったと思います。
学生たちも「学会で発表するだけであれば私たちの案で良かったのだろうけど、実生産の現場では必ずしもそうではないことを身を持って学べた」と振り返っていましたね。

指導教員
大阪工業大学 工学部 機械工学科
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教授 羽賀 俊雄

■「学生の成長」が「教員の成長」、そして「大学の成長」へと繋がる

元々本研究室は「社会人基礎力育成グランプリ」への参加を予定しておりませんでした。
参加のきっかけは副学長(当時の工学部長)からの勧めがあったからです。

本学では、午前中は教員による指導、午後にはものづくりの現場で働く企業担当者にお越しいただいて直接指導いただくという実践的な「ものづくりのカリキュラム」があるのですが、企業担当者の指導はなかなかに厳しく、学生も散々怒られるのです。
でもそこで礼儀作法や正しい作業工程を学び、また社会人の目線で考え判断する力が付いていきます。

副学長が「社会人基礎力育成グランプリ」への応募を勧めたのは、賞を取ることが目的ではなく、こうした本学のカリキュラムが「正しく機能し学生の成長へと結びついているか」を客観的な評価をもとに確認することにあったと思います。そして「大賞」を受賞でき、このカリキュラムが間違っていないことを周囲からも認められたことは非常に喜ばしいことだと思っています。

教員の視点になりますが、自分たちの取り組みが「学生の成長」を促していればその取り組みの正しさが実証されたわけであり、もしできていないのであれば、どうすれば「学生の成長」に繋がるカリキュラムにできるかを教育現場で再考する必要が生まれる、まさに「学生の成長」が「教員の成長」へ、そして「大学の成長」へと繋がっていくのだと思います。

今後も「学生の成長」を主眼に置きながら指導に当たっていきたいと考えています。

「聴く」ことの重要性を認識し、
他者と仕事を進める力を身に付ける

大阪工業大学 就職部
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部長 森田 靖一

社会人基礎力を育むために就職部として特に注力しているのがインターンシップです。
ただ受け入れ先企業を学生に紹介するのではなく、インターンシップ前に事前学習として90分×7コマの綿密な内容のプログラムを実施し、マナーはもちろん、それ以上にどのような心構えで臨むかを重点に置き指導しています。

本学では相手がどのような意見を持っているかを引き出す、すなわち「聴く」ということと、それを自分の考えとすり合わせて発信することをインターンシップでの重要課題として位置付けています。

インターンシップ先では社員の話をしっかり聴き、確認を取りながら実行しないと必ずミスがおきます。
工場などではネジ1本とっても小さな傷1つ見逃すとそれが何億円という価格に跳ね返るケースもあります。
ですから「聴く」という行為を実践するためにも受け入れ先企業には、見学ではなく、実際の就業体験を少しでも多く入れていただくようお願いしています。

またインターンシップ終了後に学生と面談すると、それまでは物怖じしていた学生も自分の意見を述べられるようになっている、そうした確かな成長も発見できます。

規模や実施期間は異なりますが、インターンシップも今回大賞をいただいた共同研究も、実社会における「周囲の意図や考えを正確に聴き取るためのコミュニケーション」の重要さに気づかせ、学生の成長を促すものと言えるでしょう。

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